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ISBN 978-4-89801--
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新薬展望

高リン血症治療剤「ピートル」―キッセイ薬品工業㈱―

2016年02月23日

MEDICAMENT NEWS 第2222号 2月15日

少ない錠数でリン値を管理

 ピートルチュアブル錠(一般名・スクロオキシ水酸化鉄)は鉄含有のリン吸着薬である。透析中の慢性腎臓病(CKD)患者の高リン血症に用いる。消化管内でリン酸と結合して消化管からのリン吸収を抑制する。血清リン濃度を低下させ,長期にわたり管理目標値の範囲内に維持した。1日3回,食直前に噛み砕いて服用する。臨床試験では低用量から用量依存性にリン低下効果を示し,80%以上の患者が1回につき1錠で管理が可能であった。副作用は下痢など。 


 腎機能低下に伴うリン排泄の低下で高リン血症を生じる。また,慢性腎不全患者では腎臓におけるビタミンD活性化が障害されており,消化管からのカルシウム吸収低下によって低カルシウム血症が生じる。それらの結果,二次性副甲状腺機能亢進症が誘発され,骨代謝異常,高カルシウム血症,心血管系の石灰化につながる。

 これらの一連の病態は「慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常(CKD-MBD)」と呼ばれ,CKD患者の心血管イベントのリスク因子,生命予後に影響を及ぼす因子となっている。日本透析医学会のCKD-MBD診療ガイドラインでは,リン,カルシウム,副甲状腺ホルモンの順に血清濃度をコントロールするとされている。


 高リン血症のコントロールには,食事指導によるリン摂取制限,透析時間の延長や透析液カルシウム濃度の適切な選択に加え,リン吸着薬が用いられている。これらはカルシウム含有と非含有に,カルシウム非含有製剤の中ではポリマー製剤と非ポリマー製剤に分けられる。

 リン吸着薬にはそれぞれに課題がある。例えば,カルシウム製剤は高カルシウム血症のおそれがあるため投与量の上限が定められ(CKD-MBD診療ガイドライン),単剤では血清リン濃度を十分にコントロールできない場合もある。ポリマー製剤は水分を吸収して膨潤するため,便秘,腹部膨満などの消化器系副作用が比較的高頻度に発現する。血清リン濃度を管理するために多くの服薬錠数を必要とすることもある。炭酸ランタン水和物は,悪心・嘔吐の副作用や,長期投与によるランタンの臓器蓄積が懸念されている。

 慢性腎不全患者は心血管系の合併症などのために多くの薬剤を服用していると考えられる。厚生労働省の統計でも,10種類以上の薬剤を処方されている患者は54.5%に上る(2012年度)。

 海外の観察研究では,透析患者の1日の服薬錠数の半数をリン吸着薬が占め,リン吸着薬の服用錠数が増えれば増えるほど,アドヒアランスが低下することが示された(Wangら,2014年)。リン吸着薬のアドヒアランスが低下すると,血清リン濃度のコントロールが不良となる。


 ピートル(スクロオキシ水酸化鉄)は,酸化水酸化鉄(Ⅲ),スクロース,デンプンから構成されている。消化管内でスクロースとデンプンが消化された後,多核性の酸化水酸化鉄(Ⅲ)とリン酸が結合し,消化管からのリン吸収を抑制することで,血清リン濃度低下作用を示す。

 血液透析患者を対象とした第Ⅲ相試験は,高リン血症を有する慢性腎不全患者を対象に行われた。無作為に2群に分け,ピートル群またはセベラマー(ポリマー製剤)群とし,12週間投与した。血清リン濃度はピートル群(n=100)が7.78 mg/dLから5.01mg/dLに低下,セベラマー群(n=92)は7.59 mg/dLから5.33mg/dLに低下で,ピートル群の非劣性が確認された。

 最終評価時における1日平均服薬錠数(両群とも250mg錠を使用)および投与量は,ピートル群が5.6錠(1,403mg),セベラマー群が18.7錠(4,671mg)であった。

 副作用はピートル群26.9%,セベラマー群26.7%に認められた。主な副作用はピートル群が下痢(21.3%),セベラマー群が便秘(18.1%)であった。

 52週にわたる長期投与試験(n=161)においても,血清リン濃度はCKD-MBD診療ガイドラインの管理目標値(3.5~6.0 mg/dL)の範囲内に維持された。1日平均投与量は1,141mgであった。

 血清フェリチン濃度は投与開始時71.07±83.29ng/mL, 投与28週時152.68±102.23ng/mL,投与52週時179.30±129.07ng/mLであった。臨床的に問題となる鉄過剰症は認められなかった。同様に,ヘモグロビン濃度は10.50±0.82g/dL,10.97±1.13g/dL,11.04±1.01g/dLであった。特に赤血球増血刺激因子製剤との併用では過剰造血に注意する。

 他の試験も含め,承認時までに副作用は494例中159例(32.2%)に認められ,主なものは下痢(22.7%)であった。
 臨床試験では80%以上の患者が1回1錠(250mg錠または500mg錠)の服用であった。

 昭和大学藤が丘病院腎臓内科の小岩文彦准教授は「透析患者が困っている副作用としては便秘が圧倒的に多いが,ピートルを使用した患者では排便の満足度が上昇する傾向がある」と指摘。それとともに「6種類のリン吸着薬があるが,それぞれの特性を生かして選択あるいは組み合わせることで,新たな高リン血症治療となる」と話している。


▷効能・効果
透析中の慢性腎臓病患者における高リン血症の改善

▷用法・用量
通常,成人には鉄として1回250mgを開始用量とし,1日3回食直前に経口投与する。以後,症状,血清リン濃度の程度により適宜増減するが,最高用量は1日3,000mgとする。

▷薬価
250mg1錠 214.20円
500mg1錠 314.30円

(佐賀 健)

MEDICAMENT NEWS 第2222号 2月15日