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新薬展望

駆虫剤 「スミスリンローション」 ―クラシエ薬品㈱―

2015年03月10日

疥癬治療のローション剤

 スミスリンローション(一般名・フェノトリン)は疥癬治療の外用剤である。有効成分のフェノトリンは駆虫効果を有する化合物だ。

 この成分はシラミ駆除の一般用医薬品として0.4%のパウダータイプ,シャンプータイプが販売されているが,スミスリンローションはより高濃度(5%)の医療用医薬品で,疥癬の適応を有する唯一のローション剤でもある。1週間隔で少なくとも2回塗布する。塗布後12時間以上経過した後に入浴,シャワー等で洗浄,除去する。副作用は皮膚炎など。

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 疥癬はヒゼンダニが皮膚角質層に寄生することで発症する。主にヒトの皮膚と皮膚の接触で感染し,1~数カ月の潜伏期間の後にそう痒を伴う特徴的な皮疹(「疥癬トンネル」など)が現れる。無症状であってもヒゼンダニを駆除しない限りは感染源となる。あらゆる世代に発生し,医療機関,乳幼児施設や高齢者施設で集団発生することがある。

 免疫力が低下している状態で感染すると,時に角化型疥癬と呼ばれる重症型となる。
 外用剤としてはクロタミトン,イオウ,安息香酸ベンジル(BB)などが用いられている。ただ,イオウは軟膏やクリームでは市販されておらず,粉末を用いた院内調製が必要なことに加え,いわゆるイオウかぶれなどの副作用も問題となる。クロタミトンは保険適応外で使用されており,BBは試薬を用いた特殊製剤のため,インフォームドコンセントが必要である。

 内服剤としてはイベルメクチンが2006年から保険適用となっている。
 海外では主にピレスロイド系薬剤のペルメトリン外用剤が第一選択で使われている。そこで,国内でもピレスロイド系薬剤であるフェノトリン外用剤の開発が望まれていた。
 フェノトリンは国内では以前から家庭用殺虫剤として,あるいはシラミ駆除の一般用医薬品として使用されている。虫の神経細胞のナトリウムチャネルに作用し,その閉塞を遅らせることで反復的な脱分極あるいは神経伝導を遮断して殺虫作用を示すとされる。

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 第Ⅱ/Ⅲ相試験は,20歳以上の疥癬(通常疥癬)患者を対象に行われた。スミスリンローションを頸部以下の全身に1週間隔で2回塗布し,塗布翌日に入浴等により洗浄,除去した。2回塗布するのは,初回塗布時にまだ卵だった幼虫を駆除するためである。

 1週間ごとに評価し,ヒゼンダニ(虫体,卵,卵の殻,糞)の有無,皮疹の有無,そう痒の程度を確認した。2回連続して治癒状態(ヒゼンダニを検出できず,疥癬トンネルの新生がない)と判定した場合を有効とした。 その結果,95例中88例(92.6%)が有効と判定された。それから4週後に治癒維持率を検証すると100%であった。

 臨床症状(紅斑性小丘疹,結節)についても,経時的に「あり」から「なし」に移行した。
 ステロイド外用剤が疥癬の経過を悪くすると考えられているが,スミスリンローション開始直前1週間のステロイド使用の有無で層別解析すると,有効率はステロイド使用経験ありの群で88.4%,なしの群で96.2%だった。両群に明らかな差はなかったが,ステロイド使用群で有効性が劣る傾向が認められた。

 承認時までの臨床試験で副作用は102例中8例(7.8%)に認められ,主なものは皮膚炎(2.0%),AST上昇(2.0%),ALT上昇(2.0%)だった。
 錯感覚が1例(1.0%)に認められている。これはピレスロイド系薬剤の特徴的な副作用と考えられる。

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 前述の通り,疥癬の適応を有する薬剤はスミスリンローション,イオウ粉末とイベルメクチン錠である。これらをどう使い分けるかはこれから検討されていくだろう。
 現時点では例えば,小児,高齢者,合併症のある患者にはスミスリンローションを優先することも考えられる。同剤の臨床試験で小児は対象としていないが,添付文書には「小児では(中略)1回塗布量を適宜減量すること」と記載されている。

 角化型疥癬についても,臨床試験で使用経験はないが,治療選択肢が少ないことなどから,スミスリンローションの使用が模索されるだろう。
 疥癬集団発生時は,まず,感染源となっていることが多い角化型疥癬の患者を見つけて隔離する。その上で,感染の拡大を防ぐため,患者や職員などを繰り返し診察するとともに,駆虫剤投与を考慮する必要があるかもしれない。

 なお,疥癬の皮疹が治癒した後にかゆみが残るのは,アレルギー反応と考えられる。スミスリンローションの臨床試験でも,初回塗布から7~8週後に約20%の患者でかゆみが残存していた。この場合は同剤の追加塗布ではなく,抗ヒスタミン剤などで対処するのがよいと考えられる。

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▷効能・効果=疥癬
▷用法・用量=通常,1週間隔で,1回1本(30g)を頸部以下(頸部から足底まで)の皮膚に塗布し,塗布後12時間以上経過した後に入浴,シャワー等で洗浄,除去する。
▷薬価=5%1g 77.30円

 MEDICAMENT NEWS 第2187号 2月25日