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ISBN 978-4-89801--
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新薬展望

遺伝子組換え型血液凝固第Ⅷ因子製剤「コバールトリイ」―バイエル薬品㈱―

2016年05月23日

MEDICAMENT NEWS 第2231号 5月15日

血友病治療を患者に応じて

 発売準備中のコバールトリイ静注用(一般名・オクトコグ ベータ(遺伝子組換え))は,遺伝子組換え型血液凝固第Ⅷ因子製剤である。現在使用されているコージネイトFS(オクトコグ アルファ)の後継品となる。製法を変更し,コバールトリイは製造工程で動物やヒト由来のタンパク質を使用していない。臨床試験では週2回または週3回の定期的投与で血友病A患者の出血を抑制した。患者の年齢や出血傾向,生活スタイルに合わせた投与量・頻度による治療が可能になる。250IUから3,000IUまで5規格がある。副作用は瘙痒など。


 出血がなくとも長期間にわたって定期的に凝固因子製剤を投与する「定期補充療法」の導入は血友病患者の出血の抑制に大きく寄与している。荻窪病院(東京都杉並区)の花房秀次理事長(血液科部長)は「患者は出血を意識せずに生活できるようになり,実際に出血を経験したことのない患者も見られるようになった」と指摘する。

 直近の調査では,血友病A患者の定期補充療法の普及率は重症型で約8割,中等症型で約4割,軽症型で約1割である(エイズ予防財団,血液凝固異常症全国調査平成27年度報告書)。

 コバールトリイを含めて2014年以降に承認された4つの第Ⅷ因子製剤にも,「定期的に投与する場合」の用法・用量が記載されている。また新薬の中には他剤より血中半減期を延長し週1回の投与が可能な製剤もある。

 ただ,費用対効果を含め,激しいスポーツや手術時,出血時,重症出血における半減期延長製剤と従来型製剤との使い分け,半減期延長製剤の長期投与時の安全性などは今後の検討が必要とされている。


 コバールトリイは,コージネイトFSと同じアミノ酸配列を有する第Ⅷ因子製剤である。培養・精製・製剤化の工程で動物・ヒト由来のタンパク質を使用していない。また,精製工程で20ナノメートルのフィルターでウイルス濾過を行っている。

 日本を含む国際共同第Ⅱ/Ⅲ相試験「LEOPOLDⅡ」は,治療歴を有する12~65歳の重症型血友病A患者(内因性第Ⅷ因子活性が1%未満)80例を対象に行われた。無作為に3群に分け,コバールトリイの低用量定期補充療法群(20~30 IU/㎏,週2回),高用量定期補充療法群(30~40 IU/㎏,週3回),出血時補充療法群とし,12カ月間治療した。推定年間出血率(ABR)を主要評価項目とした。

 その結果,ABRは定期的投与群は2回/人・年で,出血時投与群(60回/人・年)と比べて有意に優れていた。定期的投与群のうち低用量群は4回/人・年,高用量群は2回/人・年で,いずれも出血時投与群に対して有意に抑制した。

 定期的投与群全体で293件の出血が発現したが,そのうち282件(96.2%)はコバールトリイを1回または2回の投与で止血が可能であった。

 日本人集団(n=8)でも同様の有効性が認められた。

 海外第Ⅲ相試験「LEOPOLD Kids」は,治療歴のある12歳以下の重症血友病A患者51例を対象に行われた。非対照でコバールトリイの定期補充療法(週2回以上)を施行したところ,主要評価項目のABR(各回投与後48時間以内に発現した出血をカウント)は0回/人・年(中央値)であった。51例中28例(54.9%)は出血(投与後48時間以内)をしなかった。97件発生した出血(投与後48時間超を含む)のうち87件(89.7%)は同剤2回以下の投与で止血した。

 承認時までの臨床試験で副作用は193例中10例(5.2%)に認められ,主なものは瘙痒(1.0%)だった。


 多くの第Ⅷ因子製剤が開発されたことを踏まえ,花房氏は個々の血友病患者に応じた止血管理を提唱する。すなわち▷標的関節に出血を繰り返す場合は,半減期延長製剤を投与して凝固因子活性のトラフ値を高く維持するか,従来型製剤を頻回に投与する▷激しいスポーツで出血を認める場合には,従来型製剤で運動中の凝固因子活性を高くする――といった具合である。

 血友病A患者の止血管理を困難にするのが,第Ⅷ因子に対する抗体(インヒビター)の発生である。治療歴のある患者を対象としたコバールトリイの臨床試験(n=193)でインヒビターの発現は認められなかった。この点については「治療歴のない患者(PUPs)における発生率を検証していく必要がある」と話している。PUPsを対象とした海外第Ⅲ相試験が進行中であり,データの蓄積が望まれる。

 血友病患者は医療の進歩で予後が向上している。花房氏は「健康成人と変わらないほどに平均寿命が延びるだろう」と話す。

 それとともに,「血友病の発症率は世界共通で出生男児の5,000~1万人に1人だが,本邦における診断率は発展途上国並みに低い。軽症患者が見逃されているのではないか」と指摘している。


▷効能・効果
血液凝固第Ⅷ因子欠乏患者における出血傾向の抑制

▷用法・用量
本剤を添付の溶解液全量で溶解し,緩徐に静脈内注射する。なお,1分間に5mLを超える注射速度は避けること。通常,1回体重1kg当たり10~30国際単位を投与するが,患者の状態に応じて適宜増減する。
定期的に投与する場合,通常,体重1kg当たり20~40国際単位を週2回または週3回投与し,12歳以下の小児に対しては,体重1kg当たり25~50国際単位を週2回,週3回または隔日投与する。

▷薬価基準未収載(5月6日現在)

(佐賀 健)

MEDICAMENT NEWS 第2231号 5月15日