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ISBN 978-4-89801--
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新薬展望

抗悪性腫瘍剤「レンビマ」―エーザイ㈱―

2015年10月31日

日本発の甲状腺癌治療薬

 レンビマカプセル( 一般名・レンバチニブメシル酸塩)は根治切除不能な甲状腺癌の治療薬である。VEGFR(血管内皮増殖因子受容体),FGFR(線維芽細胞増殖因子受容体)などの受容体チロシンキナーゼを阻害する分子標的薬だ。甲状腺癌の腫瘍血管新生と悪性化に関与する複数のキナーゼを同時に阻害することで抗腫瘍効果を発揮する。1日1回投与。臨床試験では,無増悪生存期間(PFS)をプラセボよりも有意に延長した。副作用は高血圧,下痢など。

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 一般に甲状腺癌は組織型から乳頭癌,濾胞癌,未分化癌,髄様癌の4つに分けられる。乳頭癌が全体の約90%を占め,この乳頭癌と濾胞癌を合わせて分化型甲状腺癌(DTC)と分類する。

 組織型を問わず,治療は外科手術が第1選択で,甲状腺全摘あるいは部分切除が行われる。ヨウ化ナトリウム(131I)カプセルを経口投与し細胞内部からβ線を放出(内照射)する放射性ヨウ素治療(RAI)は,DTCにおける甲状腺全摘後の残存組織の破壊や遠隔転移の治療に施行される。

 DTCは比較的悪性度が低く,10年生存率は70~90%程度とされる。ただし再発・転移でRAI抵抗性の患者の場合,10年生存率は10%程度とされる。

 未分化癌は予後不良であり,放射線治療(外照射),手術,化学療法を集学的に施行しても1年生存率は20%程度である。髄様癌はRAIが無効で化学療法の効果も極めて限られている。

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 腫瘍細胞は自らの生存・増殖・転移のために様々な因子を産生する。その1つがVEGFである。近隣の血管内皮細胞に作用し,酸素や栄養を取り込むための血管網を構築する。

 エーザイの筑波研究所は,血管新生の過程で血管内皮細胞が遊走・増殖して形成される「血管様管腔構造」に着目。VEGFで誘導された管腔構造の形成を阻害できるかどうかの評価系を確立した。また,ヒト甲状腺癌細胞を皮下移植したマウスにおける腫瘍増殖の抑制,およびそのことと血管新生抑制との相関も評価。さらには,ヒト癌移植マウスに長期投与し生存期間延長を示した化合物が残った。それがレンビマである。

 同剤はVEGFR1-3,FGFR1-4,PDGFR(血小板由来増殖因子受容体)-α,KIT(幹細胞因子受容体),RET(rearranged during transfectionがん原遺伝子)を標的とするマルチターゲットのチロシンキナーゼ阻害剤である。VEGFR2とのX線共結晶構造解析では,既存薬とは異なる結合様式を示した。標的分子に素早く結合し強力なキナーゼ阻害作用を示すという。

 甲状腺癌においてはVEGFRとFGFRが協働して血管新生に関与し,RET 遺伝子変異は乳頭癌と髄様癌の発症と悪性化に関与すると見られている。レンビマはマルチキナーゼ阻害作用によって,幅広い組織型の甲状腺癌に抗腫瘍効果を示すと考えられている。

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 国際共同第Ⅲ 相試験「SELECT試験」は,RAI抵抗性・難治性の再発・転移DTC患者392例を対象に日本を含む21カ国で行われた。無作為に2群に分けてレンビマ群またはプラセボ群とした。その結果,主要評価項目のPFSはレンビマ群は18.3カ月でプラセボ群(3.6カ月)に対して有意な延長を示した。奏効率も64.8%対1.5%で有意にレンビマ群が優れていた。

 レンビマ群の副作用は261例(日本人30例を含む)中254例(97.3%)に認められ,主なものは高血圧(67.8%),下痢(60.9%),食欲減退(51.7%),体重減少(47.1%),悪心(41.0%),疲労(39.8%),口内炎(36.8%),蛋白尿(32.6%),手掌・足底発赤知覚不全症候群(31.8%)などだった。

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 再発・転移甲状腺癌の治療は,QOLを維持しながら生存延長を目指すことがゴールとなる。国立がん研究センター東病院頭頸部内科の田原信科長によると,転移巣があっても比較的緩徐に進行し,通常の日常生活を送れる患者がいるという。「そうした患者に分子標的薬を投与すると,副作用や医療費の負担がのしかかる可能性もある。メリットとデメリットを天秤にかけて患者を選択する必要がある」(田原氏)。

 その上で,レンビマの投与対象として例えば▷外科的切除や放射線治療の適応がない再発・転移患者▷RAI治療後1年以内の急激な病勢進行患者▷痛み,呼吸苦で日常生活に支障をきたした患者――を挙げる。

 分子標的薬は手足症候群,高血圧,蛋白尿,血栓塞栓症など,従来の細胞障害性抗癌剤とは異なる副作用が発現する。

 田原氏は「副作用を早めに察知し適切な支持療法を行うこと,減量・休薬・再開をこまめに行うことで,投与を長期間継続できる。そのためにも,従来から甲状腺癌の治療にあたっている外科医のみならず,腫瘍内科医や放射線科医,看護師,薬剤師など,チームで診療に取り組むことが必要だろう」と話している。

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▷効能・効果
根治切除不能な甲状腺癌

▷用法・用量
通常,成人にはレンバチニブとして1日1回24mgを経口投与する。なお,患者の状態により適宜減量する。

▷薬価
4mg1カプセル   3,956.40円
10mg1カプセル   9,354.20円

(佐賀 健)

MEDICAMENT NEWS 第2211号 10月25日