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ISBN 978-4-89801--
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新薬展望

抗悪性腫瘍剤「ヤーボイ」―ブリストル・マイヤーズスクイブ㈱/小野薬品工業㈱―

2016年04月20日

MEDICAMENT NEWS 第2228号 4月15日

「免疫チェックポイント」を阻害

 世界初の「免疫チェックポイント阻害剤」として知られるヤーボイ点滴静注液(一般名・イピリムマブ:遺伝⼦組換え)が,国内でも昨年上市された。適応は根治切除不能な悪性黒色腫(MM)である。同剤は,活性化T細胞に発現する抑制性のシグナルを遮断し,T細胞の活性化を持続させる。また,制御性T細胞(Treg)の機能低下などを介しても腫瘍免疫反応を亢進させる。3週間間隔で4回投与する。副作用は消化器症状,発疹など。投与終了数カ月後に重篤な副作用が発現した報告があるので,終了後も観察を十分に行う。


 MMはメラノサイト由来の悪性腫瘍で,黒褐色の病変が足底,指趾の爪,顔面などに出現する。原発巣に対しては外科的切除が標準的で,遠隔転移した場合は転移臓器や患者の状態に応じて外科的切除,放射線治療,薬物療法などが行われる。薬物療法としては,アルキル化薬のダカルバジンや同剤を主体とした併用化学療法が施行されているが,十分な効果は得られていない。遠隔転移を認めるMMの5年生存率は約10%とされる(Garbeら,2011年)。


 このように悪性度の高いMMだが,薬物療法をめぐって国内では2014年から大きな進歩があった。新たなメカニズムを持つ薬剤が相次いで上市されたのだ。その1つがヤーボイである。

 T細胞の活性化には,T細胞受容体による抗原ペプチドの認識に加え,抗原提示細胞上のCD80/86とT細胞上のCD28との結合による「共刺激シグナル」が必要。一方で,免疫過剰を防ぐため,抑制性のシグナルも発現する。その機能を担うのが「免疫チェックポイント」と呼ばれる分子群である。T細胞活性化に伴って発現するCTLA-4(細胞傷害性Tリンパ球抗原-4)もその1つで,CD28に代わって抗原提示細胞上のCD80/86に結合し,T細胞の活性化を抑制する。

 世界初の免疫チェックポイント阻害剤であるヤーボイは,CTLA-4に対するヒト型モノクローナル抗体だ。CTLA-4とCD80/86との結合を阻害して活性化T細胞における抑制性のシグナルを遮断し,腫瘍抗原特異的にT細胞の免疫反応を亢進させる。

 また,免疫応答に抑制的に働くTregにもCTLA-4が発現している。ヤーボイ投与によるTregの機能低下などによっても腫瘍免疫反応が亢進すると考えられる。


 海外第Ⅲ相試験は,治療歴のある根治切除不能な(Ⅲ/Ⅳ期)MM患者676例を対象に行われた。無作為に3群に分け,ヤーボイ+gp100(MMペプチドワクチン=本邦未承認)併用群,ヤーボイ単剤群,gp100単剤群とした。主要評価項目の全生存期間は,ヤーボイ+gp100群が10.0カ月(中央値,以下同),ヤーボイ単剤群が10.1カ月,gp100単剤群が6.4カ月で,ヤーボイ両群がgp100単剤群に対して有意に延長していた。ヤーボイ+gp100群とヤーボイ単剤群との間に有意差は認められなかった。

 ヤーボイ単剤群の副作用は131例中105例(80%)に認められ,下痢(27%),そう痒症(24%),疲労(24%),悪心(24%),発疹(19%),嘔吐(12%),食欲減退(11%)などだった。


  前述した新規メカニズムの薬剤とは,ヤーボイ,別の免疫チェックポイントを阻害する抗PD-1(programmed cell death-1)抗体,細胞増殖に関与するBRAFキナーゼの阻害剤である。これらを患者の状態に応じて使い分け,有効な薬剤を逐次使用していくことが治療の要諦となるだろう。

 最新の欧米のガイドラインでは,免疫チェックポイント阻害剤単剤なら抗PD-1抗体を1次治療とし,2次治療以降にヤーボイを推奨している。BRAF遺伝子変異を有する患者に対してはBRAFキナーゼ阻害剤も使用可能であるが、免疫チェックポイント阻害剤とどちらを優先するかの基準は確立しておらず,今後の検討が待たれるところだ。

 一方,免疫チェックポイント阻害剤を投与した患者のうち,ある一定の頻度で長期生存例が見られることがわかってきた。例えば,ヤーボイの臨床試験と後方視的研究を統合解析すると(n=1,861),生存期間中央値は11.4カ月,3年生存率は22%である(Schadendorfら,2015年)。前治療の有無などに関わらず,生存曲線は3年を経過したころからプラトーになった。こうした長期生存例の背景についても検証が望まれる。

 同剤の重大な副作用として,大腸炎,消化管穿孔,重度の下痢,肝機能障害,下垂体機能低下症,infusion reactionなどがある。投与終了数カ月後に重篤な下痢,大腸炎,消化管穿孔が発現した報告もあるため,投与終了後も慎重に観察し,ステロイド投与などの適切な処置を行う必要がある。


▷効能・効果
根治切除不能な悪性黒色腫

▷用法・用量
通常,成人にはイピリムマブ(遺伝子組換え)として1日1回3mg/kg(体重)を3週間間隔で4回点滴静注する。

▷薬価
50mg1瓶 485,342円

(佐賀 健)

MEDICAMENT NEWS 第2228号 4月15日