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ISBN 978-4-89801--
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新薬展望

抗悪性腫瘍剤「ファリーダック」―ノバルティスファーマ㈱―

2016年03月20日

MEDICAMENT NEWS 第2225号 3月15日

多発性骨髄腫に3剤併用で

 ファリーダックカプセル(一般名・パノビノスタット乳酸塩)は再発または難治性の多発性骨髄腫(MM)の治療剤である。遺伝子発現など様々な生物反応を調節するヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)を阻害する。標準治療の1つであるボルテゾミブとの併用で相乗的に骨髄腫細胞のアポトーシスを誘導すると示唆される。臨床試験ではデキサメタゾンを加えた3剤併用投与で無増悪生存期間(PFS)を延長した。副作用は血小板減少症,下痢など。


 MMは形質細胞ががん化した造血器悪性腫瘍である。骨髄腫細胞は骨髄中で増殖して正常な造血を妨げるほか,M蛋白(細菌やウイルスを攻撃する能力を持たない免疫グロブリン)を大量に産生し,様々な臓器障害をきたす。また,骨髄腫細胞が分泌するサイトカインによって破骨細胞が活性化され,骨吸収が亢進する。臨床的には貧血,発熱,出血傾向,易感染性,腎障害,骨痛・骨折,高カルシウム血症に基づく諸症状などを呈する。

 治療については,この10年で多くの新規薬剤が承認されている。最初に承認されたボルテゾミブは,骨髄腫細胞内で変性蛋白の処理にあたるプロテアソームという酵素を阻害する薬剤だ。その結果,変性蛋白が蓄積してアポトーシスが誘導される。サリドマイドなどはサイトカイン産生調節作用などを有する免疫調節薬である。これらの新規薬剤はそれぞれ作用プロファイルが異なり,適応も一部異なるので,医療現場では患者背景などに応じて逐次使用されていると見られる。

 ただ,MMは再発を繰り返す疾患であり,前治療レジメン数が増えれば増えるほど,奏効期間が短縮すると報告されている(Kumarら,2004年)。


 クロマチン構造を形成するヒストンや,微小管を構成するチューブリンなどの非ヒストン蛋白は様々な生物反応を発現する。例えば,ヒストンの脱アセチル化でクロマチン構造が凝縮し,遺伝子の転写が抑制されると考えられる。反対にヒストンのアセチル化が維持されれば,クロマチン構造が弛緩し,がん抑制遺伝子の発現が活性化され,細胞のアポトーシスや細胞周期停止が誘導されると考えられている。ヒストンおよび非ヒストン蛋白の脱アセチル化を触媒する酵素群がHDACである。

 また,前述のようにプロテアソームを阻害して変性蛋白の細胞内蓄積を狙っても,骨髄腫細胞は別の経路(アグリソーム経路)を活性化して変性蛋白を自己分解する。その経路にもHDACが関与していると見られる。

 ファリーダックはヒストンおよび非ヒストン蛋白の脱アセチル化を阻害し,がん抑制遺伝子の発現亢進やアグリソーム経路の阻害などを介して骨髄腫細胞のアポトーシスや細胞周期停止をもたらすと考えられる。


 国際共同第Ⅲ 相試験「PANORAMA-1」は,1~3レジメンの前治療歴を有するMM患者(ボルテゾミブ抵抗性を除く)768例を対象に日本を含む34カ国で行われた(San-Miguelら,2014年)。無作為に2群に分け,ファリーダック+ボルテゾミブ+デキサメタゾン群またはプラセボ+ボルテゾミブ+デキサメタゾン群とした。

 主要評価項目のPFSは,ファリーダック群11.99カ月(中央値),プラセボ群8.08カ月(同)で,ファリーダック群が有意に延長していた。血中・尿中のM蛋白の減少などから判定した腫瘍縮小効果は,ファリーダック群はCR10.9%,near CR(nCR)16.8%,プラセボ群はそれぞれ5.8%,10.0%で,CR/nCR達成率においてファリーダック群が有意に高かった。

 ファリーダック群の副作用は381例(日本人18例を含む)中345例(90.6%)に認められ,主なものは血小板減少症(55.9%),下痢(50.9%),疲労(31.0%),貧血(26.5%),好中球減少症(23.6%)などだった。


 MM治療において,既存治療に対する耐性を克服しQOLを維持しながら生存期間の延長を目指す上で,これまでと作用機序が異なるファリーダックの意義は大きいと言える。例えば,1次治療のボルテゾミブ投与後に再発し,同剤を再投与する際にファリーダックとデキサメタゾンを上乗せする,あるいは,1次治療でレナリドミドを用いた患者の2次治療をファリーダック+ボルテゾミブ+デキサメタゾン併用療法とすることが考えられる。

 注意すべき副作用に下痢,悪心・嘔吐,血小板減少症,感染症などがある。また,ファリーダックは用法・用量が独特であり,アドヒアランスの確保が重要となる。ノバルティスファーマは患者と家族向けに副作用の概略やセルフケア,投与方法をまとめた小冊子を作成している。


▷効能・効果
再発または難治性の多発性骨髄腫

▷用法・用量
ボルテゾミブおよびデキサメタゾンとの併用において,通常,成人にはパノビノスタットとして1日1回20mgを週3回,2週間(1,3,5,8,10および12日目)経口投与した後,9日間休薬(13~21日目)する。この3週間を1サイクルとし,投与を繰り返す。なお,患者の状態により適宜減量する。

▷薬価
10mg1カプセル  36,583.90円
15mg1カプセル  54,875.80円

(佐賀 健)

MEDICAMENT NEWS 第2225号 3月15日