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ISBN 978-4-89801--
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新薬展望

抗悪性腫瘍剤 「ジャカビ」 ―ノバルティス ファーマ㈱―

2015年04月17日

骨髄線維症患者の脾腫を縮小

 ジャカビ錠(一般名・ルキソリチニブリン酸塩)は希少な血液がんである骨髄線維症(MF)の治療薬である。MFは骨髄の線維化により正常な血液の産生が妨げられる進行性の疾患だ。髄外造血による脾腫,それに伴う腹部不快感や腹痛,あるいは倦怠感・寝汗・体重減少などの消耗性全身症状が現れる。ジャカビはヤヌスキナーゼ(JAK)1およびJAK2を選択的に阻害するチロシンキナーゼ阻害剤であり,細胞増殖に関与するJAK-STAT経路のシグナル伝達を阻害することで脾腫を縮小し,諸症状を改善する。1日2回投与。副作用は血小板減少症(血小板数減少を含む),貧血など。

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 MFは骨髄増殖性腫瘍に属する疾患。病因は十分に解明されていないが,造血幹細胞の遺伝子異常などにより,骨髄中で巨核球と顆粒球系細胞が増殖すると考えられている。これらの細胞が産生するサイトカインが種々の病態の形成に関与していると示唆されている。

 骨髄線維化に伴う髄外造血による脾腫,脾腫に伴う腹部不快感・腹痛,貧血に伴う動悸・息切れ・倦怠感,他に体重減少,発熱,寝汗などが現れる。

 厚生労働省研究班による「骨髄線維症診療の参照ガイド第2版」(平成25年度)では,予後を改善する標準的治療法は現時点では確立しておらず,患者と十分に相談しながら治療方針を決めていくこととされている。貧血を改善する薬物療法として蛋白同化ホルモンやステロイドの投与が,脾腫に伴う腹部症状にはハイドロキシウレア投与,脾臓摘出,脾臓への放射線照射が行われる。

 根治が望める治療法として同種造血幹細胞移植があるが,移植関連死や重篤な合併症が発生する可能性があるため適応は慎重に判断する必要がある。また年齢,ドナーとの適合などの条件で施行できない患者もいる。

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 MF患者ではJAK2やトロンボポエチン受容体であるMPLなどの遺伝子変異により,細胞増殖に関わるJAK-STATシグナル伝達経路が恒常的に活性化している。消耗性全身症状にはTNF-αやIL-6などの炎症性サイトカインが関与していると考えられ,サイトカインのシグナル伝達にはJAK1の関与が示唆されている。

 ジャカビは,JAK-STAT経路を阻害して脾腫を縮小させるとともに,炎症性サイトカインの産生を抑制して症状を改善すると考えられる。

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 海外第Ⅲ相試験「COMFORT-Ⅰ試験」では,MF患者309例を無作為に2群に分け,ジャカビまたはプラセボを投与した。主要評価項目である「24週時の脾臓容積が35%以上縮小した被験者の割合」は,ジャカビ群41.9%,プラセボ群0.7%で,ジャカビ群が有意に優れていた。ジャカビ群の91.3%(73/80例)で脾臓縮小効果がデータカットオフ時点まで持続していた。副次的評価項目である総症状スコアが50%以上改善した患者はジャカビ群45.9%,プラセボ群5.3%だった。

 中央値144週における全生存率(OS)の評価では,ジャカビ群はプラセボ群と比較してハザード比0.687であったが,有意な差はみられなかった。

 もう1つの海外第Ⅲ相試験「COMFORT-Ⅱ試験」(n=219)では, Best Available Therapy(BAT)を対照とし,48週時の脾臓容積の縮小効果を検証した。この試験でも脾臓容積の縮小やQOLの改善が認められた。

 中央値151週におけるOSの評価では,BAT群に対するジャカビ群のハザード比は0.48で,BAT群と比較して死亡の相対リスクを有意差をもって52%低減した。

 なお,両試験においては,プラセボあるいはBAT群からジャカビ群へのクロスオーバーが認められていた。

 両試験で副作用は301例中239例(79.4%)に認められ,主なものは血小板減少症(血小板数減少を含む)(45.2%),貧血(28.9%),下痢(10.0%),疲労(8.6%),体重増加(8.0%)などだった。

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 ジャカビは骨髄線維症の適応を有する新規薬剤として,患者の予後リスクや脾腫の程度,自覚症状の程度を踏まえ,選択肢の1つとして用いられるだろう。すでに日本血液学会の「造血器腫瘍診療ガイドラインWEB版(第1.1版)」にも盛り込まれ,予後予測モデルによりHighリスクと判断され,適切なドナーが得られず,かつ全身倦怠感,脾腫に伴う腹部症状などがある場合は,ジャカビを投与すると示されている。

 一方,ジャカビのJAK2阻害作用によって正常の造血機能も抑制すると考えられる。臨床試験でも血球減少,中でも血小板減少症,貧血の副作用が発現しており,注意を要する。また,ジャカビがJAK1/2を阻害することで免疫を抑制する可能性がある。肝炎ウイルスの再活性化,帯状疱疹など,感染症についても注意が必要である。

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▷効能・効果=骨髄線維症

▷用法・用量=通常,成人には本剤を1日2回,12時間毎を目安に経口投与する。用量は,ルキソリチニブとして1回5mg~25mgの範囲とし,患者の状態により適宜増減する。

▷薬価=5mg1錠 3,706.80円

 

MEDICAMENT NEWS 第2192号 4月15日