株式会社 ライフ・サイエンス

ライフ・サイエンスは医学・薬学専門出版社として医学・医療の発展に貢献します。

新薬展望

抗悪性腫瘍剤 「アドセトリス」 ―武田薬品工業㈱―

2015年03月15日

抗体と薬物の複合体

 アドセトリス(一般名・ブレンツキシマブ ベドチン:遺伝子組換え)点滴静注用は,細胞表面のCD30抗原を標的とする抗体に,微小管阻害作用を有するモノメチルアウリスタチンE(MMAE)を結合させた「抗体薬物複合体」である。CD30を発現する細胞に結合して取り込まれ,細胞内でMMAEを遊離して選択的に腫瘍増殖抑制作用を示す。再発・難治性のCD30陽性ホジキンリンパ腫,再発・難治性のCD30陽性未分化大細胞リンパ腫に用いる。3週間に1回投与する。副作用はリンパ球減少症,好中球減少症,白血球減少症,末梢性感覚ニューロパチーなど。

◆                ◆               ◆

 悪性リンパ腫はホジキンリンパ腫(HL)と非ホジキンリンパ腫(NHL)に分類され,さらにNHLは腫瘍細胞の起源からB細胞性とT細胞性(NK細胞性を含む)に大別される。

 HLは主にリンパ節に発生し,ホジキン細胞あるいはリード-ステルンベルグ細胞と呼ばれる特徴的な大型細胞を認める。悪性リンパ腫全体の8~10%を占める。無痛性の表在リンパ節腫脹で発見されることが多い。

 未分化大細胞リンパ腫(ALCL)はT細胞性のNHLで,月単位で増殖する「中悪性度」にあたる。全身性ALCL(sALCL)と皮膚原発ALCLに分けられ,sALCLは悪性リンパ腫全体の約2%に認められる。リンパ節腫脹,発熱などの症状が現れる。

 HLの初回治療は,病型や病期に応じて化学療法や放射線治療を単独で施行,あるいは併用する(日本血液学会「造血器腫瘍診療ガイドライン2013年版」)。病期にもよるが,約15~30%が初回治療に対して再発・難治性となる。

 再発・難治例には,例えば,初回とは異なる化学療法(救援化学療法)を施行し,奏効した65歳以下の患者には自家造血幹細胞移植(ASCT)を考慮する(同ガイドライン)。だが,ASCT後の長期無再発生存率は100%にはほど遠いのが現状。高齢や救援化学療法に不応などの理由でASCTの適応にならない患者もいる。

 ALCLは初回化学療法の奏効後に40~65%が再発すると報告されている。再発例には化学療法やASCTが行われるが,標準治療は確立していない。

◆                ◆               ◆

 CD30は膜貫通型受容体の糖蛋白質である。正常細胞では,活性化したリンパ球の表面に認められる。腫瘍細胞ではHLやALCLのほぼ100%に発現していると報告されている。

 このCD30抗原を標的とする抗体に,微小管阻害作用を有するMMAEをリンカーを介して結合させたのがアドセトリスである。

 アドセトリスは血中では安定で,CD30抗原が発現した細胞に選択的に取り込まれると考えられる。細胞内で蛋白分解酵素の働きでリンカーが切断され,抗体と薬物が離れる。遊離したMMAEがチューブリンに結合して微小管形成を阻害し,細胞周期の停止とアポトーシスを誘導する。

◆                ◆               ◆

 第Ⅰ/Ⅱ相試験は再発・難治性のCD30陽性HLおよびsALCLを対象に行われた。第Ⅱ相パートでは同剤を最大16サイクル投与した結果,HL(n=9)に対してCR5例(56%),PR1例(11%),奏効率は67%,sALCL(n=5)に対してはCR4例(80%),PR1例(20%), 奏効率100%だった。

 副作用は20例中20例(100%)に認められ,主なものはリンパ球減少症(75%),好中球減少症(65%),白血球減少症(65%),末梢性感覚ニューロパチー(60%),貧血(35%),疲労(30%),鼻咽頭炎(30%)などだった。

 再発・難治性のCD30陽性HLとsALCLそれぞれを対象とした海外第Ⅱ相試験では,最大16サイクルの投与でHL(n=102)にはCR33%,PR41%,奏効率75%,sALCL(n=58)にはCR59%,PR28%,奏効率86%だった。

 この試験のフォローアップ成績によると,HL患者の全生存期間(OS)中央値は40.5カ月(米国血液学会〈ASH〉2013,#4382),sALCL患者のOS 中央値は55.1 カ月だった(ASH2014,#3095)。

◆                ◆               ◆

 前述の通り,再発・難治性HLおよびsALCLはアンメットニーズが高い疾患であり,同剤はこれらのうちCD30陽性例の治療選択肢の1つとなる。特に,ASCT後に再発した患者,ASCTの適応とならない患者,2レジメン以上の化学療法歴がある患者では貴重な選択肢となるだろう。

 現在,HLについて,またsALCLを含む成熟型T細胞リンパ腫についてアドセトリスを初回治療に用いる第Ⅲ相試験が進行している。この結果によってはそれぞれの治療戦略が書き換わる可能性もある。

 同剤の重大な副作用のうち,末梢神経障害,骨髄抑制はタキサン系抗がん剤などでよく見られる副作用である。十分に観察し,休薬,減量,中止などの処置を行う。一方, ごく一部の症例で急性膵炎や劇症肝炎が報告されており,注意が必要である。

◆                ◆               ◆

▷効能・効果=再発又は難治性のCD30陽性の下記疾患
ホジキンリンパ腫
未分化大細胞リンパ腫
▷用法・用量=通常,成人には,ブレンツキシマブ ベドチン(遺伝子組換え)として3週間に1回1.8mg/kg(体重)を点滴静注する。なお,患者の状態に応じて適宜減量する。
▷薬価=50mg1瓶 465,701円

MEDICAMENT NEWS 第2189号 3月15日