株式会社 ライフ・サイエンス

ライフ・サイエンスは医学・薬学専門出版社として医学・医療の発展に貢献します。

書籍検索(単行本)

キーワード検索

著者名や書籍タイトルを入力してください。
複数キーワードの場合は、スペースを入れてください。

発行年 年 ~ 
ISBN 978-4-89801--
分類

検索したい項目をチェックしてください。チェックがない場合は全てを検索します。

定期刊行物検索(新聞・雑誌)

キーワード検索

執筆者や特集タイトルを入力してください。
複数キーワードの場合は、スペースを入れてください。


新聞・雑誌別検索

検索したい項目をチェックしてください。チェックがない場合は全てを検索します。

発行年月

2010年以降のデータを検索できます。

月 ~

新薬展望

チロシンキナーゼ阻害剤/抗線維化剤「オフェブ」―日本ベーリンガーインゲルハイム㈱―

2016年01月20日

MEDICAMENT NEWS 第2219号 1月15日

肺線維症の呼吸機能低下を抑制

 オフェブカプセル(一般名・ニンテダニブ エタンスルホン酸塩)は,原因不明の間質性肺炎である特発性肺線維症(IPF)の初めての分子標的薬である。IPFは慢性かつ進行性の経過をたどり,呼吸不全に陥る。診断後の生存期間は平均3~5年で,大腸がんや乳がんよりも予後不良だと言える。オフェブはIPFの病態への関与が示唆されているいくつかの増殖因子受容体を標的とするチロシンキナーゼ阻害剤である。臨床試験では呼吸機能の低下を抑制することが確認された。1日2回投与。副作用は下痢,肝機能障害など。

 


 

 IPFはびまん性肺疾患の1つである。高齢の男性に多く,加齢や喫煙,感染,生活環境などが要因となって発症する。慢性的な刺激によって肺胞上皮細胞が傷害され,その修復過程における異常で線維化病変が形成されると考えられる。通常は緩徐に進行し,「線維化のなれの果て」(東邦大学呼吸器内科の本間栄教授)として不可逆的な蜂巣肺を呈する。

 発症時の主症状は労作時の呼吸困難や乾性咳嗽で,聴診時に患者の80%超で捻髪音を聴取する。25~50%でばち状指が見られる。進行すると着替えや入浴などのわずかな負荷でも息切れするようになる。

 インフルエンザ罹患などをきっかけに急性増悪して呼吸不全となることがある。経過中に肺がんを合併し,それが直接の死因になることもある。

 北海道で行われた疫学調査では有病率は人口10万人あたり10.0人で(Natsuizakaら,2014年),全国に約1万3,000人の患者がいると推計されている。高齢化に伴い患者数の増加が懸念されている。

 標準的薬物治療は確立しておらず,疾患の進行をできるたけ抑えることが主眼である。抗線維化剤としてはピルフェニドンが2008年から使われている。同剤は国内外の臨床試験のメタ解析で無増悪生存期間を延長することが示されているが(Spagnoloら,2010年),光線過敏症と胃腸障害の副作用が課題となっている。

 去痰剤として承認されているN-アセチルシステイン(NAC)は抗酸化作用などを有することから,適応外で使用されている。ネブライザーを用いて1回20~30分の吸入を1日2回行う必要がある。

 


 

 オフェブはPDGFR(血小板由来増殖因子受容体),FGFR(線維芽細胞増殖因子受容体),VEGFR(血管内皮増殖因子受容体)といった受容体型チロシンキナーゼの阻害剤である。線維化に関わる分子を選択的に阻害して,IPFの線維化病変の形成を抑制する。

 国際共同第Ⅲ相試験「INPULSIS」は欧・米・アジアなど(日本を含む)で行われた。IPF患者1,066例を無作為に2群に分け,オフェブ群またはプラセボ群とし,52週間投与した。IPFの病勢進行の重要な指標とされる努力肺活量(FVC)の年間減少率を主要評価項目とした。
 すると,プラセボ群が223.5mL/年であったのに対してオフェブ群は113.6mL/年にとどまり,両群に有意差が認められた。日本人集団(n=126)における結果も全体集団と一貫していた。

 有害事象はオフェブ群(n=638)95.5%,プラセボ群(n=423)89.6%に認められた。オフェブ群の主な副作用は下痢(53.6%),悪心(19.1%),肝酵素上昇(10.5%),腹痛(10.2%)など。そのうち日本人集団(n=76)では下痢(67.1%),肝酵素上昇(27.6%),食欲減退(14.5%),悪心(11.8%)などだった。

 


 

 自治医科大学呼吸器内科の杉山幸比古教授は「オフェブは軽症から重症まで,幅広い患者に使え,急性増悪を抑制する可能性がある。国際ガイドラインでは,オフェブ,ピルフェニドンは『適応があれば使用すべき』と評価されている。(両剤の)使い分けはこれからの課題だ」と説明する。

 杉山氏によると,ピルフェニドンの副作用の光線過敏症は,帽子やサンスクリーン塗布などによる遮光で対応できるものの,戸外の仕事に従事する患者では対策にも限界がある。胃腸障害は制御が困難で,投与中止に至る患者もいるという。一方,オフェブでは主に下痢が問題となるので,こうした副作用プロファイルの違いに基づいて使い分ける。

 本間氏は「進行した場合には2つの抗酸化剤の併用療法も考えられる」との見方を示す。また,患者は高齢者が多いので,まずは(適応外だが)安価で副作用が少ないNACを用いることも考えられるという。

 オフェブの国際共同試験では日本人集団で下痢の発現頻度が高かったが,そのうち85%は軽度であった。補液や止瀉薬などで管理できない場合は減量,中断する。肝機能障害などにも注意が必要である。

 IPFは初期段階で治療を開始した方が,効果は高いとされている。有効な治療薬が承認された現在,いかに早期に患者を発見し,治療開始を検討するかが進行抑制の鍵を握ると言えるだろう。

 


 

▷効能・効果
特発性肺線維症

▷用法・用量
通常,成人にはニンテダニブとして1回150mgを1日2回,朝・夕食後に経口投与する。なお,患者の状態によりニンテダニブとして1回100mgの1日2回投与へ減量する。

▷薬価
100mg1カプセル 4,382.90円
150mg1カプセル 6,574.40円

 

(佐賀 健)

MEDICAMENT NEWS 第2219号 1月15日