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ISBN 978-4-89801--
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新薬展望

グルコシルセラミド合成酵素阻害薬「サデルガ」―ジェンザイム・ジャパン㈱―

2016年04月28日

MEDICAMENT NEWS 第2229号 4月25日

ゴーシェ病の「基質合成抑制療法」

 サデルガカプセル(一般名・エリグルスタット酒石酸塩)は,ライソゾーム酵素の1つ,グルコセレブロシダーゼの活性低下または欠如で発症する「ゴーシェ病」の治療薬である。グルコシルセラミド(グルコセレブロシド)の合成を阻害して,諸症状(貧血,血小板減少症,肝脾腫,骨症状)を改善する。ゴーシェ病に対する初めての「基質合成抑制療法(SRT)」の薬剤であり,唯一の経口薬でもある。副作用は頭痛など。主にチトクロームP450(CYP)2D6で代謝されるため,事前にその遺伝子型を確認して投与の可否や用法・用量を判断し,併用薬にも十分注意する。


 ゴーシェ病はライソゾーム病の1種である。グルコセレブロシダーゼ遺伝子の異常により,グルコセレブロシダーゼ活性が低下あるいは欠如することで発症する。この酵素で分解されるはずの基質・グルコシルセラミドが主にマクロファージに蓄積し,肝臓,脾臓,骨髄,肺などで組織障害をきたす。具体的には,肝脾腫,貧血,出血傾向,骨痛,けいれんなどの症状が現れる。日本では約150例が報告されている。

 神経症状の有無と重症度からⅠ型(慢性非神経型),Ⅱ型(急性神経型),Ⅲ型(亜急性神経型)に分類され,それぞれに発症時期や予後も異なる。日本人患者(n=129)ではⅠ型が42%を占める(井田,2012年)。

 治療は1990年代に導入された酵素補充療法(ERT)が普及している。文字通り,体内で不足しているグルコセレブロシダーゼを補うものである。それによりグルコシルセラミドを分解し,ゴーシェ病の諸症状を改善する。ただし,ERTは隔週の点滴静注が必要である。また有害事象としてアナフィラキシー様反応や点滴に伴う反応がある。


 SRTのサデルガは,グルコシルセラミド合成酵素を選択的に阻害し,グルコシルセラミドの合成を抑制する薬剤である。

 海外第Ⅲ相試験「ENCORE」はゴーシェ病Ⅰ型患者159例を対象に行われた。ERTのイミグルセラーゼで治療中の患者を無作為に2群に分け,サデルガへの切り替え群またはイミグルセラーゼ継続群とし,52週間投与した。

 ヘモグロビン濃度,血小板数,肝容積,脾臓容積の変化率で一定の基準(効果維持基準)を満たした患者の割合は,サデルガ群83.8%,イミグルセラーゼ群93.6%で,サデルガ群の非劣性が確認された。因果関係が否定できない有害事象は,サデルガ群38%,イミグルセラーゼ群11%に認められた。

 国際共同第Ⅲ相試験「EDGE」はゴーシェ病Ⅰ型患者(治療歴を問わず)170例(日本人10例を含む)を対象に行われた。非盲検でサデルガを26~78週間投与。前出の4項目と骨症状からなる有効性複合評価項目を達成した患者の割合は83.0%であった。日本人集団では100%であった。

 申請時までの国内外の臨床試験で副作用は393例中159例(40.5%)に認められ,主なものは頭痛(5.3%),浮動性めまい(4.6%),下痢(4.3%),消化不良(4.1%)などだった。


 ERTは20年の歴史があり,特に使用実績が豊富なイミグルセラーゼには有効性・安全性のデータが蓄積されている。そこに経口SRTのサデルガという新たな治療選択肢が加わり,QOLの観点も含めて,患者に適した薬剤を選ぶことができるようになった。

 同剤の臨床試験の結果を踏まえるなら,新たに診断されたⅠ型の成人患者に用いる,あるいはERTで症状が安定している患者に対して,患者の利便性も考慮してサデルガに切り替える,といったことが考えられる。ただし,ERTもサデルガも神経症状に対する効果は期待できないとされている。

 同剤は,用法・用量に関連する使用上の注意(添付文書参照)に記載されているように,投与にあたってCYP2D6の遺伝子型を確認する必要がある。この多型により,体内薬物動態に個人差が生じるためだ。酵素活性が欠損しているPoor Metabolizerでは同剤の血中濃度が上昇する恐れがある。よって,投与を避けることが望ましいが,投与する場合は通常よりも減量する。逆に,活性が過剰なUltra Rapid Metabolizerでは,血中濃度が低くなり効果が減弱する恐れがあり,投与を避けることが望ましい。

 併用薬についても、CYP2D6やCYP3A阻害作用を有するかどうかに注意し,用法・用量を調整したり,サデルガを投与しないこととする。

 イタリアの研究では,ある診断アルゴリズムに基づいて精査すると,脾腫かつ/または血小板減少症を呈する196例中7例(3.6%)がゴーシェ病と診断された(Mottaら,2016年)。

 ゴーシェ病は,国内の報告例はこれまでに約150名という希少疾患だが,肝脾腫,貧血,血小板減少などがある患者に対して,その可能性を念頭においてよいかもしれない。


 ▷効能・効果
ゴーシェ病の諸症状(貧血,血小板減少症,肝脾腫および骨症状)の改善

▷用法・用量
通常,CYP2D6 Extensive MetabolizerおよびIntermediate Metabolizerの成人にはエリグルスタット酒石酸塩として1回100mgを1日2回経口投与する。なお,患者の状態に応じて適宜減量する。

▷薬価
100mg1カプセル 
76,925.90円

 

(佐賀 健)

MEDICAMENT NEWS 第2229号 4月25日