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ISBN 978-4-89801--
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新薬展望

アントラサイクリン系抗悪性腫瘍剤の血管外漏出治療剤 「サビーン」 ―キッセイ薬品工業㈱―

2015年03月25日

抗がん剤の血管外漏出に対処

 サビーン点滴静注用(一般名・デクスラゾキサン)は,アントラサイクリン系抗がん剤の血管外漏出(EV)による組織障害を抑制する薬剤である。この適応が認められた初めての薬剤となる。EV発現後6時間以内に可能な限り速やかに投与を開始し,3日間連続で投与する。臨床試験では,EVによる外科的処置の発生率や壊死の発現などにおいて有効性が認められた。

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 EVはカテーテル先端の移動などをきっかけに生じる。抗がん剤が血管外に漏出すると,周囲の軟部組織に障害をきたし,発赤,腫脹や疼痛を生じる。進行すると水疱,潰瘍や壊死に至ることがある。これらは患者の負担,苦痛となるばかりでなく,外科的処置が必要となれば,がん治療スケジュールの延期をもたらす可能性もある。

 EVの発現頻度は抗がん剤投与の0.1~6.5%と報告されている。中でも,乳がんや悪性リンパ腫などに用いられるドキソルビシンなどのアントラサイクリン系薬は「壊死起因性」に分類され,漏出した薬剤が少量であっても,重度の組織障害や組織壊死につながるとされる。

 患者側のリスク因子としては,過去に複数回化学療法を施行した患者,循環機能障害に関連する疾患を有する患者などがある。血管レベルで言うなら,穿刺を繰り返した血管,屈曲部位の血管,細く脆弱な血管など,穿刺部位の正常な構造性が減弱している血管が挙げられる。

 従来,EV事象が生じた際には,直ちに抗がん剤の注入を止めるとともに,諸症状の対症療法としてステロイド注射剤あるいは外用剤の投与,解毒剤の投与,冷罨法,温罨法,外科的処置などが行われている。ただ,保険適応のある治療薬はなかった。

 そこで,「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」でデクスラゾキサンが取り上げられ,開発企業が公募されていた。

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 アントラサイクリン系薬はDNAの塩基対間に挿入してDNAと安定的に結合する。これにトポイソメラーゼⅡが結合してDNA-トポイソメラーゼⅡ複合体を形成して安定する。その結果,開裂した DNAの再結合を阻害して抗腫瘍効果を示す。

 サビーンはトポイソメラーゼⅡと結合してATP結合部位の立体構造を変化させ,DNAがトポイソメラーゼⅡに結合するのを阻害する。また,DNA-トポイソメラーゼⅡ複合体に結合し,DNA切断前の状態で安定化させる。これらの結果として組織障害抑制作用を示すと考えられる。

 海外第Ⅱ/Ⅲ相試験では,アントラサイクリン系薬のEV患者にサビーンを3日間投与した。蛍光法による組織生検でEVが確認された36例を有効性評価対象とし,サビーン投与から90日間におけるEVに対する外科的処置,EVによる壊死の発現を検討した。

 その結果,外科的処置を実施したのは36例中1例(2.8%)で,事前に規定した基準(35%)を下回ったことから有効と判定された。EVによる壊死の発現は1例(外科的処置を行った症例と同一症例)だった。最終評価時,36例中23例(63.9%)はEV部位の症状を認めなかった。36例中26例(72.2%)は予定の化学療法を遅延なく継続できた。

 別の試験を含め,承認時までの海外臨床試験で副作用は80例中57例(71.3%)に認められ,主なものは悪心(27.5%),発熱(13.8%),注射部位疼痛(13.8%),嘔吐(12.5%)などだった。

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 サビーン発売前に刊行された日本がん看護学会の「外来がん化学療法看護ガイドライン2014年版」は,同剤が欧州のガイドラインで使用が推奨されていることや国内で承認されたことに触れた上で,「(わが国でも)推奨度を検討していく必要があるだろう」と記載している。

 保険適応がある唯一の薬剤ということもあり,サビーンはアントラサイクリン系薬のEVが生じた際の標準的な治療薬として浸透していくと見られる。

 その一方で,EVを起こさないための取り組みや早期発見,早期対応は今までにも増して重要となるだろう。特に,EVが発生した際に看護師や薬剤師を含めたチームで速やかに処置・治療に取り掛かれる体制作りが望まれる。キッセイ薬品工業は,EVの予防策や対応をまとめた小冊子を作成し,医療従事者に配布したりウェブサイトに掲載している。

 臨床試験ではサビーンの副作用として骨髄抑制,悪心,発熱などが見られた。被験者はアントラサイクリン系薬を投与されていることもあり,どちらの薬剤がどれだけの影響を与えているかの判別は困難であるが,サビーン投与で異常が認められた場合にはその投与を中止するなど適切な処置を講じる。

 なお,作用機序から考えて,サビーンはアントラサイクリン系薬以外のEVには効果が期待できないことは念を押しておきたい。

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▷効能・効果=アントラサイクリン系抗悪性腫瘍剤の血管外漏出

▷用法・用量=通常,成人には,デクスラゾキサンとして,1日1回,投与1日目及び2日目は1,000mg/㎡(体表面積),3日目は500mg/㎡を1~2時間かけて3日間連続で静脈内投与する。なお,血管外漏出後6時間以内に可能な限り速やかに投与を開始し,投与2日目及び3日目は投与1日目と同時刻に投与を開始する。また,用量は,投与1日目及び2日目は各2,000mg,3日目は1,000mgを上限とする。
 中等度及び高度の腎機能障害のある患者(クレアチニンクリアランス:40mL/min未満)では投与量を通常の半量とする。

▷薬価=500mg1瓶 45,593円

MEDICAMENT NEWS 第2190号 3月25日