株式会社 ライフ・サイエンス

ライフ・サイエンスは医学・薬学専門出版社として医学・医療の発展に貢献します。

書籍検索(単行本)

キーワード検索

著者名や書籍タイトルを入力してください。
複数キーワードの場合は、スペースを入れてください。

発行年 年 ~ 
ISBN 978-4-89801--
分類

検索したい項目をチェックしてください。チェックがない場合は全てを検索します。

定期刊行物検索(新聞・雑誌)

キーワード検索

執筆者や特集タイトルを入力してください。
複数キーワードの場合は、スペースを入れてください。


新聞・雑誌別検索

検索したい項目をチェックしてください。チェックがない場合は全てを検索します。

発行年月

2010年以降のデータを検索できます。

月 ~

新薬展望

オレキシン受容体拮抗薬「ベルソムラ」 ―MSD㈱―

2015年07月03日

新機序の不眠症治療薬

 ベルソムラ錠(一般名・スボレキサント)は,覚醒を維持する神経ペプチド・オレキシンに着目した不眠症治療薬である。オレキシンの受容体への結合を可逆的に阻害することで,脳を覚醒状態から睡眠状態へ移行させる。従来のGABA(γ-アミノ酪酸)受容体作動薬などとはまったく異なる機序で睡眠を誘発する。臨床試験では,入眠効果と睡眠維持効果が投与第1日夜から認められた。副作用は傾眠など。

◆                ◆               ◆

 オレキシンは神経ペプチドで,米テキサス大学の柳沢正史氏(現・筑波大学),櫻井武氏(現・金沢大学)らがオーファン受容体のリガンドとして1990年代に発見した。

 視床下部のオレキシン神経細胞によって産生され,動物実験では脳脊髄液中のオレキシン濃度は覚醒時に高くなり,睡眠中は低いことが示されている。オレキシン受容体は脳内に広く分布し,ノルアドレナリン,ヒスタミン,ドーパミンなど覚醒に関わる神経細胞にシグナルを送り,覚醒システム全体を活性化している。

 睡眠システムと覚醒システムは相互に抑制的に働いて調節されているが,オレキシンは,覚醒中に急に睡眠が生じないように適切な覚醒の維持に寄与していると考えられる。

 そこでオレキシンの作用をブロックして覚醒維持を阻害し,バランスを睡眠優位に切り替えて睡眠を誘導するのがオレキシン受容体拮抗薬のベルソムラである。

◆                ◆               ◆

 国際共同第Ⅲ相試験は原発性不眠症患者を対象に日本を含む16カ国で行われた。1,022例(うち日本人247例)を無作為に分け,ベルソムラまたはプラセボを3カ月間投与した。睡眠の導入,維持のそれぞれについて,患者の申告による主観的評価と終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)による客観的評価を行った。別の海外第Ⅲ相試験も原発性不眠症患者1,019例を対象として同様のデザインで行われており,両試験を統合解析した。

 その結果,入眠効果の指標である主観的睡眠潜時(入眠までに要した時間)は,ベルソムラ(国内承認用量,以下同)群はベースラインの74.5分から1週で14.4分短縮。プラセボ群は74.8分から8.3分の短縮にとどまり,実薬群が有意に改善していた。1カ月後,3カ月後も両群に有意な差がみられた。

 睡眠維持の指標である主観的総睡眠時間は,ベルソムラ群がベースライン(311.0分)から1週で29.4分延長したのに対して,プラセボ群は311.2分から14.4分の延長にとどまり,両群間に有意差が認められた。1カ月後,3カ月後においても実薬群が有意に改善していた。

 PSGによる客観的評価では,実薬群はプラセボ群と比較して服用初日の夜に入眠までの時間と中途覚醒時間の有意な短縮が認められた。

 精神運動機能を評価するテストでは,服用初日,3カ月後のいずれにおいても,実薬群は翌朝の精神運動機能の低下は認められなかった。

 投与中止後に易刺激性や易興奮性などを生じる退薬症候,および服用前よりも不眠が悪化する反跳性不眠についても,明らかな発現リスクは認められなかった。

 承認時までの臨床試験で副作用は254例中53例(20.9%)に認められ,主なものは傾眠(4.7%),頭痛(3.9%),疲労(2.4%)などだった。

 同剤の作用機序から考えられるカタプレキシー(情動脱力発作)は臨床試験では発現していない。

◆                ◆               ◆

 ベルソムラの上市で,日常診療においてGABA受容体作動薬(ベンゾジアゼピン〈BZD〉系薬など),メラトニン受容体作動薬の3つの作用機序の不眠症治療薬がそろったことになる。

 一般的にGABA受容体作動薬は,血中濃度半減期によって超短時間作用型から長時間作用型までに分類され,入眠困難や中途覚醒,早朝覚醒,熟眠障害といった患者の症状に合わせて選択されている。メラトニン受容体作動薬は「不眠症における入眠困難の改善」が適応となっている。

 患者によっては同時に複数の愁訴があったり,経過中に不眠のタイプが変化したりすることも考えられる。1種類の不眠症治療薬で十分な効果が得られない場合などに2種類,3種類の併用が行われることもある。だが,こうした併用療法について,近年の診療ガイドラインや診療報酬上の評価は消極的である。

 BZD系薬が有する筋弛緩作用などが好ましくない患者がいることも考えられる。

 その点では,入眠困難と中途覚醒の双方に効果が得られ,かつ持ち越し効果のリスクが低いベルソムラは時代の趨勢に合致していると言えるだろう。ただし,新規作用機序の薬剤ということもあり,まずは原発性不眠症で初回治療の患者などに対して単剤で投与経験を蓄積することが望ましい。

◆                ◆               ◆

▷効能・効果
不眠症

▷用法・用量
通常,成人にはスボレキサントとして1日1回20mgを,高齢者には1日1回15mgを就寝直前に経口投与する。

▷薬価
15mg1錠 89.10円
20mg1錠 107.90円

(佐賀 健)

MEDICAMENT NEWS 第2199号 6月25日