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ISBN 978-4-89801--
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老年科医のひとりごと 第27回

半分

井口 昭久
愛知淑徳大学健康医療科学部教授

 天白川は名古屋市内を流れる2級河川である.私の2人の男の子はその川の傍で育った.

 私は5歳の次男を抱きかかえて河原から天白川へ放り投げようとしたことがあった.「すみませんでした!もうしません!許してください!」子供にしては大人びた言葉を使って次男は懸命に謝った.

 次男はジュースを分けていた.長男と自分の分をコップに半分ずつに分けていた.

 腰をかがめて眺めると少しだけ右のコップの水平線が高い位置にあった.その分量の多いコップを我が所持にしてしまったのをパパが見ていたのだ.そして「半分」の掟を破った次男は天白川へ捨てられる運命になってしまったのだった.ここで懲らしめておかないと大人になってからキミは大悪人になってしまうとパパは思ったのだ.

 「半分」の価値観を我が家へ運んできたのは長男であった.長男が保育園で最初に覚えた言葉が「ハンブン」であった.「人が実存することを奪ってはならない」という人類の最も基本的な法則を保育園で教わってきたのだ.

 爾来,我が家では「半分」は絶対的な価値をもつことになった.この規律を破ったものはどのような天罰を受けてもしょうがない.そのお仕置きを誰も止める者はなかった.ママも冷たく見ているだけだった.

 私もそれ以来「半分」をモットーにして生きてきた.人生は平等を巡る攻防である.何故か半分(トリミング済W280)

 

 私は5年前に食道がんになった.

 死ぬと思ったときに「せめて平均寿命までは生きたいものだ」と思った.平均寿命より若くして死ぬ人は誰でもそう思うものらしい.人は他人より少しでも貰い物が少ないと僻むものである.

 私は「神様,幸福も不幸も皆と同じにしてください.そして,平均寿命より前に私を天白川へ捨てないでください」と願ったものだ.

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