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ISBN 978-4-89801--
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老年科医のひとりごと 第2回

ハンサム

井口 昭久
愛知淑徳大学健康医療科学部教授

 私の勤めているクリニックは大学の構内にある.学生のほかに一般の人も対象としたクリニックである.待合室は高齢者と学生が混在している.
 佐藤さんは69歳の男性である.若い頃は製薬企業に勤めていた.
 若い頃はハンサムな営業マンであった.今は腹が出て昔の面影はない.最近は老人クラブの女性たちに「知的」で売っているようだ.川柳三昧である.名作を持って現れた.「渡らない三途の川と黄信号」
 私は学生の講義で20歳の女学生に聞いてみた.「ハンサムな男と知的な男とどっちが好き?」女学生は迷わず「ハンサム!」と答えた.
 矢島さんは76歳である.定年まで佐藤さんと同じ製薬会社に勤めていた.矢島さんは佐藤さんの上司であった.2人の住まいは近所であるらしい.
 2人とも糖尿病で私の外来へ通院している.
 矢島さんはMR であったので情報が多い.今でも昔の仲間や医者たちと定期的に飲み会をやると言っていた.大先輩の島崎先生が亡くなったのを教えてくれたのは矢島さんだった.「いや先生!あれは間違いだった.島崎先生はまだ生きてます」と教えてくれたのも矢島さんだった.
 矢島さんは最近車の免許証を返上した.目が見にくくなり,耳が遠くなったのでゆっくり運転していた.すると乳母車にも追い越されてしまうようになった.だから潔く運転免許証を返上したらしい.エッセイイラスト_yyy400
 そこで近くの佐藤さんに乗せてもらって私のクリニックへ来るようになった.
 2人の予約の日は合わせるようにしていた.薬を7週間分出そうとすると,7×7で49日分となる.「四十九日はちょっと」と佐藤さんが言うので大抵は6週間分の薬を出して,同じ時刻を予約する.
 「次回の予約だけど,いつものように佐藤さんと同じ日にしようか」と私が言うと「次からは別の日にしてください」と矢島さんが言った.「どうして?」と聞くと「帰りに麻雀に誘われるんですよ.いつも私が負けるんで高くつくんですよ.だからこれからはタクシーにします」と言った.

 

 

 

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