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ISBN 978-4-89801--
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新薬展望

ヒト抗PCSK9モノクローナル抗体製剤「レパーサ」―アステラス・アムジェン・バイオファーマ㈱/アステラス製薬㈱―

2016年04月06日

MEDICAMENT NEWS 第2227号 4月5日

LDL-Cを下げる抗体薬

 レパーサ皮下注(一般名・エボロクマブ:遺伝子組換え)は,高コレステロール血症に対する初めての抗体薬である。血中LDLの肝細胞内への取り込みを促進し,血中LDL-コレステロール(LDL-C)値を低下させる。家族性高コレステロール血症(FH)または高コレステロール血症で,心血管イベントの発現リスクが高く,HMG-CoA還元酵素阻害剤(スタチン)で効果不十分な患者に用いる。臨床試験ではスタチンへの追加投与でLDL-Cをさらに70%強,低下させた。2週間に1回または4週間に1回投与する。


 血中のLDLは肝細胞表面のLDL受容体と結合し,LDL-LDL受容体複合体となって細胞内に取り込まれる。その後,LDLは分解されるが,LDL受容体は肝細胞表面に戻る。この「リサイクリング」が血中LDL-Cの恒常性を維持している。

 一方,肝臓などで合成されるPCSK9(ヒトプロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型)は,肝細胞表面でLDL受容体と結合して細胞内に取り込まれる。PCSK9と結合したLDL受容体は分解され,肝細胞表面に戻らないため,肝細胞表面のLDL受容体が減少し血中LDL-Cが上昇する。

 抗PCSK9抗体のレパーサは,PCSK9とLDL受容体との結合を阻害して,肝細胞表面に戻るLDL受容体を増加させ,血中LDL-Cを低下させる。


 国内第Ⅲ相試験「YUKAWA-2」は,心血管イベントの発現リスクが高く,4週間以上のスタチン投与でもLDL-Cが100mg/dL以上の高コレステロール血症患者404例(FHヘテロ接合体を含む)を対象に行われた。アトルバスタチン5mg/日群と20mg/日群のそれぞれにレパーサ(140mg/2週,420mg/4週)またはプラセボ(2週間に1回,4週間に1回)を上乗せした計8群とし,12週間治療した。

 主要評価項目の1つである「投与10週時点と12週時点を平均したLDL-C変化率」は,レパーサ各群はベースラインから72~76%低下,プラセボ各群は1.0%上昇~1.3%低下で,対応する両群間に有意な差が認められた。効果は,レパーサの2つの用法・用量,アトルバスタチンの用量,患者背景,ベースラインのPCSK9血中濃度にかかわらず認められた。経時的推移を見ると,レパーサ群はLDL-Cが初回投与2週後から低下し,12週後まで持続。そして96~98%がLDL-C 70mg/dL未満を達成した。

 非盲検の国際共同長期継続投与試験では,1年後の平均LDL-C変化率はベースラインから65~70%低下であった(日本人集団の中間解析)。

 承認時までの臨床試験で副作用は日本人患者565例中56例(9.9%)に認められ,主なものは糖尿病(1.4%),注射部位反応(0.7%),肝酵素異常(0.7%),CK(CPK)上昇(0.7%),頸動脈内膜中膜肥厚度増加(0.7%),筋肉痛(0.7%)などだった。

 糖尿病に関しては,臨床試験で空腹時血糖値やHbA1cの変化量はレパーサ群とプラセボ群で類似していたことなどから,医薬品医療機器総合機構の報告書は「現時点で,本剤投与時に耐糖能異常等に関する明らかなリスクは示唆されていない」と判断している。


 スタチンでLDL-Cが約39mg/dL低下すると,高コレステロール血症患者の主要心血管イベント発現リスクが1年で約20%低下することが,メタ解析から明らかになっている(Cholesterol Treatment Trialists’ Collaboration,2010年)。

 しかし,スタチンを投与していてもLDL-Cの低下が不十分な場合はイベント発現のリスクが高いこともわかっている(Boekholdtら,2014年)。国内では,心血管疾患の二次予防を目的として高コレステロール血症の薬物治療を受けている患者のうち約40%がLDL-Cの管理目標値(100mg/dL未満)に到達していないと報告されている(寺本ら,2013年)。

 治療満足度が高いとされる高コレステロール血症だが,いまだに満たされないニーズがあると言える。
 また,FHのように,スタチン単剤では十分なLDL-C低下効果が得られないこともある。FH患者は生下時よりLDL-Cが高く,早期に動脈硬化が進行して冠動脈疾患のリスクが高まる。国内の疫学調査で頻度はFHヘテロ接合体は200人に1人,FHホモ接合体は17万人に1人とされる(Mabuchiら,2011年)。

 FHに詳しい国立循環器病研究センター研究所の斯波真理子・病態代謝部長は「早期に的確に診断し,適切な治療を行うことによって,確実に予後を向上させることができる」と話す。

 なおレパーサをめぐっては,心血管イベントの再発抑制効果と安全性を検討する大規模臨床試験「FOURIER」が世界規模で行われている。心血管疾患の既往を有する脂質異常症患者約2万8,000人を無作為に2群に分け,スタチン併用下でレパーサとプラセボを比較するものだ。


▷効能・効果
家族性高コレステロール血症,高コレステロール血症
ただし,心血管イベントの発現リスクが高く,HMG-CoA還元酵素阻害剤で効果不十分な場合に限る。

▷用法・用量
家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体および高コレステロール血症:通常,成人にはエボロクマブ(遺伝子組換え)として140mgを2週間に1回または420mgを4週間に1回皮下投与する。

家族性高コレステロール血症ホモ接合体:通常,成人にはエボロクマブ(遺伝子組換え)として420mgを4週間に1回皮下投与する。効果不十分な場合には420mgを2週間に1回皮下投与できる。なお,LDLアフェレーシスの補助として本剤を使用する場合は,開始用量として420mgを2週間に1回皮下投与することができる。

▷薬価基準未収載(3月29日現在)

(佐賀 健)

MEDICAMENT NEWS 第2227号 4月5日