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ISBN 978-4-89801--
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新薬展望

選択的SGLT2阻害剤―2型糖尿病治療剤―「ジャディアンス」―⽇本ベーリンガーインゲルハイム㈱・本イーライリリー㈱―

2016年02月02日

MEDICAMENT NEWS 第2220号 1月25日

心血管イベントリスクを低下

 ジャディアンス錠(一般名・エンパグリフロジン)は選択的SGLT2(ナトリウム依存性グルコース共輸送担体2)阻害薬である。インスリン分泌能の低下やインスリン抵抗性に関わりなく,過剰なグルコースを尿中に排出することで血糖値を下げる。糖尿病治療薬として初めて,心血管アウトカムに特化したプラセボ対照比較試験で心血管イベント発症リスクの低下(主要評価項目でプラセボ群に対する優越性)を示した。1日1回朝食前または朝食後に経口投与する。副作用は頻尿,低血糖など。


 2型糖尿病患者において,診断後早期からの厳格な血糖コントロールが心筋梗塞と全死亡のリスクを低減することは英国のUKPDS研究で明らかになっている。その一方,罹病期間の長い患者や心血管イベントリスクの高い患者では,厳格な血糖コントロールによっても大血管障害のリスクを低減できないことがわかってきた(VADT試験〈米〉,ACCORD試験〈米,カナダ〉,ADVANCE試験〈国際共同〉)。

 米FDAは2008年にガイダンスを発表し,米国で発売される新規糖尿病薬に対して,心血管イベントリスクを評価する試験の実施を義務付けた。このガイダンスに従い,各製薬企業はおよそ4,000~2万人規模の心血管アウトカム試験を行っている。すでにいくつかのDPP-4阻害薬で結果が報告されている。ただ,それらはプラセボ群に対する優越性ではなく非劣性の証明,すなわちイベントリスクが増大しなかったという結論にとどまっている。

 これに対して,ジャディアンスは糖尿病治療薬として初めて,心血管アウトカムに特化したプラセボ対照比較試験で,主要評価項目である複合心血管イベントのリスクを有意に低減した(Zinmanら,2015年)。SGLT2阻害薬で初めての心血管アウトカム試験の報告でもある。


  その「EMPA-REG OUTCOME 試験」は,心血管イベントリスクの高い2型糖尿病患者7,020人を対象に,日本を含む世界42カ国で行われた。標準治療(糖尿病治療薬,降圧薬,コレステロール降下薬など)に上乗せ投与する形でジャディアンス(10mg群,25mg群)またはプラセボ群とし,3.1年(中央値)追跡した。

 その結果,主要評価項目である複合心血管イベント(心血管死,非致死的心筋梗塞,非致死的脳卒中)の発現率は,ジャディアンス(2用量を併合した)群10.5%,プラセボ群12.1%であった。ハザード比は0.86(95.02%信頼区間:0.74-0.99)で,非劣性に加えてジャディアンスの優越性が証明された。上記の3項目に「不安定狭心症による入院」を加えた重要な副次評価項目については,ジャディアンス群12.8%,プラセボ群14.3%で,ジャディアンスの非劣性が確認された。

 心血管死は3.7%と5.9%でジャディアンス群が38%の有意なリスク減少,全死亡は5.7%対8.3%とジャディアンス群でリスクが有意に32%減少した。

 有害事象発現率はジャディアンス群90.2%,プラセボ群91.7%であった。主なものは低血糖(それぞれ27.8%,27.9%),尿路感染(18.0%,18.1%)などだった。性器感染はジャディアンス群(6.4%)がプラセボ群(1.8%)よりも有意に多かったが,それ以外の有害事象の発現率は両群で同様だった。 


 SGLT2阻害薬は,腎におけるグルコースの再吸収を減少させ,尿中へのグルコース排泄を促進し,血糖値を低下させる。この作用はインスリン非依存性であるため,低血糖を起こしにくいことが期待されている。2014年以降,ジャディアンスを含めて6成分7銘柄が相次いで発売されたのは記憶に新しいところだ。

 その中で,今回の結果がSGLT2阻害薬のクラスエフェクトなのか,ジャディアンスに限ったものなのか,現時点では明確ではない。

 論文では,ジャディアンスの心血管アウトカムに対する効果を「多面的作用」とした上で,動脈壁硬化の改善,心機能の変化,心酸素需要の変化(低下),心腎効果,アルブミン尿減少,尿酸低下が複合的に関与している可能性と,確立された知見として血糖,体重,内臓脂肪,血圧への効果を挙げている。

 少なくとも言えるのは,試験の対象となったのが,すでに心血管イベントリスク低下が(心血管アウトカムに特化しない試験で)証明されている他の糖尿病治療薬や降圧薬などを服用している患者であること。そうした患者にジャディアンスを上乗せすることで,リスクをさらに低減できることである。

 SGLT2阻害薬の副作用として,重症低血糖,尿路・性器感染症,ケトアシドーシス,脱水,皮膚症状などがある。「SGLT2阻害薬の適正使用に関する委員会」のrecommendationに基づいて,併用薬の種類や数に十分注意すること,高齢者には慎重に適応を判断すること,薬疹を疑わせる皮膚症状が認められた場合には速やかに投与を中止し皮膚科にコンサルテーションすることなどが必要である。


▷効能・効果
2型糖尿病

▷用法・用量
通常,成人にはエンパグリフロジンとして10mgを1日1回朝食前または朝食後に経口投与する。なお,効果不十分な場合には,経過を十分に観察しながら25mg1日1回に増量することができる。

▷薬価
10mg1錠 205.50円
25mg1錠 351.20円

(佐賀 健)

MEDICAMENT NEWS 第2220号 1月25日