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ISBN 978-4-89801--
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新薬展望

尋常性ざ瘡治療剤「ベピオ」―マルホ㈱―

2016年01月13日

ざ瘡に抗菌作用と角層剥離作用

 ベピオゲル(一般名・過酸化ベンゾイル)は尋常性ざ瘡の治療薬である。酸化剤の過酸化ベンゾイル(BPO)が有効成分で,BPOの分解で生じるフリーラジカルが抗菌作用と角層剥離作用を有し,炎症性皮疹と非炎症性皮疹(面皰)を改善する。1日1回,洗顔後に塗布する。52週間の長期試験でも効果が維持され,寛解維持にも使用できる。これまで耐性菌発現の報告はない。副作用は皮膚剥脱(鱗屑),適用部位刺激感など。

 


 

 尋常性ざ瘡は毛包脂腺系の慢性炎症性疾患である。毛漏斗部が上皮の過角化によって閉塞し毛包内に皮脂が貯留した面皰から始まり,炎症性皮疹である紅色丘疹,膿疱,小結節,嚢腫などへと進展する。実際にはこれらの皮疹が種々の程度で混在することが多い。ありふれた疾患ではあるものの,多感な思春期の顔面に皮疹が発現すること,高度な炎症では瘢痕を残すことがあり,患者のQOLに及ぼす影響は見過ごせない。

 かつては限られた治療法しかなかったが,2000年代に入って海外の標準薬が国内でも承認され,治療薬が揃いつつある。それに伴い,病態と進行段階に応じて治療薬を使い分けることが可能になった。すなわち,P. acnesなどによる炎症の制御を主眼とした急性期の治療と,面皰形成を抑制して炎症性皮疹の再発を防ぐ寛解維持期の治療である。

 外用抗菌薬(ナジフロキサシン,クリンダマイシンなど)と経口抗菌薬(ミノサイクリンなど)は炎症性皮疹に,レチノイド様作用で面皰を改善するアダパレンは非炎症性皮疹あるいは炎症性皮疹に用いられる。実際には種々の段階の皮疹が混在することから,外用抗菌薬とアダパレンを併用するケースが多いと見られる。

 ただし,抗菌薬の長期連用は耐性菌発現の点で好ましいとは言えない。実際に,クリンダマイシン,クラリスロマイシンに対してそれぞれ約20%の薬剤耐性菌が報告されている(Nakaseら,2014年)。一方,アダパレンは皮膚乾燥や皮膚不快感などの副作用が比較的高頻度に発現する。

 


 

 BPOは海外では尋常性ざ瘡の治療に標準的に用いられている。抗菌作用と角層剥離作用の双方を有するのが特徴だ。BPOの分解で生じたフリーラジカルがP. acnes,S. epidermidisといった細菌の膜構造・DNA・代謝などを直接障害して抗菌作用を示す。また,フリーラジカルは角質細胞同士の結合をゆるめて角層剥離を促す。

 BPOは抗菌薬とは異なり,作用部位が非特異的で細菌の増殖時期に関係なく殺菌的に作用するため,細菌の耐性獲得は困難と考えられる。これまで耐性菌発現の報告はないという。

 


 

 ベピオの第Ⅱ/Ⅲ相試験は,顔面の尋常性ざ瘡患者を対象に行われた。12週間の投与で,主要評価項目である炎症性皮疹数の減少率はベピオ群(n=203)が72.7%,プラセボ群(n=201)が41.7%で,同剤群が有意に優れていた。炎症性皮疹数は2週後からプラセボ群と有意差をもって減少し,以後も一貫して減少した。非炎症性皮疹数についても2週後からプラセボ群に比べて有意に減少し,その後も経時的に減少した。

 52週間にわたる長期投与試験(n=231)においても,炎症性皮疹,非炎症性皮疹の双方を2週から経時的に減少させ,12週後以降も減少率は維持された。患者から分離されたP. acnesの抗菌薬感受性と炎症性皮疹の減少率に明確な違いは見られなかった。

 承認時までの臨床試験で副作用は435例中190例(43.7%)に認められ,主なものは,皮膚剥脱(鱗屑)(18.6%),適用部位刺激感(14.0%),適用部位紅斑(13.8%),適用部位乾燥(7.4%)などだった。

 


 

 ベピオは抗菌作用と角層剥離作用を1剤に併せ持つので,炎症性皮疹と非炎症性皮疹の双方を治療できる。なおかつ耐性菌発現の懸念が低いことから,急性期から寛解維持期まで,尋常性ざ瘡治療のベースに位置づけることが考えられる。臨床試験で2週後にプラセボよりも有意な効果が見られており,特に紅色丘疹や膿疱といった炎症性皮疹に悩む患者に受け入れられるだろう。一方で,52週間の長期投与試験で効果が維持されたことは,寛解維持療法としての使用を裏付けている。

 重症度や皮膚の状態などに応じて,抗菌薬とアダパレンのいずれかまたは両剤を,皮膚刺激症状に注意しながらベピオと併用することも考えられる。

 同剤の臨床試験では接触皮膚炎の副作用が約3%の頻度で発現した。中止してステロイド外用剤を使用するなどの対応が必要となる。長期投与試験で副作用発現時期は開始1カ月以内が多かった。日光曝露を最小限にとどめる,保湿剤を適宜併用するといった対策を,開始当初から十分に指導しておく必要があるだろう。

 


 

▷効能・効果
尋常性ざ瘡

▷用法・用量
1日1回,洗顔後,患部に適量を塗布する。

▷薬価
2.5%1g 120.90円

 

(佐賀 健)

MEDICAMENT NEWS 第2218号 1月5日