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ISBN 978-4-89801--
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書 評

書評フォーマットあ a2

 睡眠医療に従事する医師・歯科医・検査技師・研究者を対象とした臨床睡眠検査の知識習得と実践のための初めての教科書(入門書)として,2006年5月に『臨床睡眠検査マニュアル』(ライフ・サイエンス)が初刊されて10年にも及ぶ歳月が流れた.

 その間,睡眠医療に関する診断・治療や検査技術などは急速な進歩を遂げ,また,米国睡眠医学会(AASM)から2007年に『AASMによる睡眠および随伴イベントの判定マニュアル』(更新版を含めて“AASMのマニュアル”と呼ぶ)が,2010年にはこの日本語版(同社)も発刊され,その後この更新版(オンライン版)がversion 2.0(2012年),version 2.01(2013年),version 2.1(2014年,日本語版は同年同社から発刊)として矢継ぎ早にAASMのホームページ(www.aasmnet.org)に公開された.

 さらに2014年7月には『睡眠障害国際分類 第2版(ICSD-2)』(2005年)が『睡眠障害国際分類 第3版(ICSD-3)』(日本語版発刊予定)へと改訂されるなど,著しい環境の変化により『臨床睡眠検査マニュアル』の改訂が待望されていた.これに応えるべく,日本睡眠学会教育委員会と臨床睡眠検査マニュアル改訂ワーキンググループ,さらには新しい知見をもった多くの執筆者の献身的な協力により,2015年9月に『改訂版 臨床睡眠検査マニュアル』として新たな装いで発刊された.

 本書発刊直前の2015年7月にはAASMのマニュアルversion 2.2が公開されたが,本書における記録手技,各種イベントの定義,判定基準はAASMのマニュアルversion 2.1,各種疾患の診断基準の多くはICSD-3に従って記載されている.

 本書は,英文サブタイトルが「Clinical Evaluation of Sleep Disorders」とあるとおり,各種の睡眠障害の検査と基本的な臨床評価法を主眼とした内容で7つの章から構成され,初版がそうであったように改訂版でも図表と実用に即した睡眠ポリグラフ検査(PSG)記録が数多く用いられている.掲載内容はそれぞれ重要かつ多岐にわたるが,本稿では要所的に注釈することとした.

 



第1章は「睡眠ポリグラフ検査(PSG)の基礎的知識」で8節からなる.

 第1節の「トランスデューサーの原理」では,各種の生体信号を的確にとらえるための電極・センサーの原理やその特性および有効性などについて,第2節の「生体アンプ・各種フィルターの特性とデジタル脳波計の特徴」では,微弱なアナログ生体信号の増幅とデジタル化および適切なフィルタリングについて,第3節の「PSGの準備・手順・較正」では,電極・センサーの適切な配置と装着および記録条件の設定と記録状態の確認などが解説されている.いずれも,健全なPSGの実施と良質なPSGの記録を得るのに必要な,最も基本となる知識を習得することができる.

 第4節の「記録と睡眠段階判定法」は成人の睡眠段階判定法についてで,AASMのルールについて解説している.成人の睡眠段階判定法については,従来用いられ本書初版でも解説されたRechtschaffen & Kales(R&K)のルール(1968年)からAASMのルールに移行されたが,AASMのルールはR&Kのルールをベースとしたものである.R&Kのルールは研究などの目的によっては今後も継続して利用されると思われ,基礎知識として習得しておくべき存在である.

 第5節の「小児の睡眠段階判定法」では,生後2カ月以上の小児についてはAASMのルール,生後2カ月未満についてはAASMの小児作業班による総説(推奨)に代えて,Curzi-DascalovaとMirmiranの未熟児を含めた新生児のルールを解説している.最新のAASMのマニュアルversion 2.2には,幼児の睡眠段階の判定ルールが追加されている.

 第6節の「PSG記録でみられるアーチファクト」では,PSG記録中に遭遇する数々の生体内および生体外から混入するアーチファクトの種類,原因,回避法などが詳しく説明されており,良質なPSG記録を得るための大きな助力となる.

 第7節の「PSG所見の評価と報告書作成」では,PSG記録から読み取れる各種の睡眠変数(パラメーター)の定義と算出・評価法,睡眠変数に影響を及ぼす様々な要因について詳細に説明されている.

 第8節の「PSGの判定精度管理」では,睡眠医療に従事する施設と従事者によってなされる睡眠段階判定の精度向上と均一化には,その管理体制の確立が重要であることを指摘し,精度評価のための指標値算出方法を紹介している.

 



 第2章は「睡眠障害の診断のための補助検査」で,各種睡眠障害の確定診断を支えるいくつかの検査方法が7節にわたって記載されている.

  第1節の「反復睡眠潜時検査と覚醒維持検査の方法と判定」では,昼間の過度の眠気を評価する客観的方法として,眠りに就く能力を調べる反復睡眠潜時検査(MSLT)と覚醒を維持する能力を調べる覚醒維持検査(MWT)の方法と判定法について,AASMの実施手順勧告(2005年)に従ってまとめ,その適応例を述べている.

 第2節は「睡眠障害に用いる質問紙の理解と使用法」で,これは睡眠障害の主観的評価として使用される.記載された5つの質問紙(ピッツバーグ睡眠質問票,朝方―夜型質問紙,エプワース眠気尺度,アテネ不眠尺度,不眠重症度質問票)は欧米で開発されたものであるが,その日本語版を示し,特徴と評価法を述べている.また,睡眠習慣や生活リズムを調べる目的の睡眠日誌についても解説している.

 第3節は胸腔内圧の変動を反映するとされている「食道内圧モニタリング」についてで,いくつかの測定法の特徴と測定方法・手技および解析法などが述べられている.

 第4節は概日リズム睡眠・覚醒障害(ICSD-2の概日リズム睡眠障害がICSD-3で名称変更,病型も9つから7つに分類)の診断で必要とされる「生体リズム測定の施行・解析法の解釈」についてで,概日リズム(生体リズム)の指標は主に振幅,位相,周期であることを示した上で,睡眠日誌とアクチグラフィで測定した記録および深部体温やメラトニン分泌量の測定で得られた記録の解析と解釈法を解説している.

 第5節は「携帯型装置による簡易検査の適応と限界」であるが,特筆すべきはICSD-3では成人の閉塞性睡眠時無呼吸の診断基準として,ゴールドスタンダードであるPSGに加えて携帯型装置による在宅検査が同等に認められ,ASSMのマニュアルversion 2.2においてもこのことが追加されたことである.

 第6節は「ヒト白血球抗原と髄液オレキシン測定の意義」で,ICSD-3のナルコレプシーの診断基準には脳脊髄液オレキシン濃度の測定が主要な指標となっている.第3章第7節の「過眠症」についてもあわせて参照願いたい.

 第7節の「セファログラム(頭部X線規格写真)」は,閉塞性睡眠時無呼吸の患者の顎顔面骨格形態や咽頭部軟組織形態を計測して閉塞部位を調べ,口腔内装置(マウスピース)適用などの治療方針の決定と評価を行うのに重要な検査法である.ここでは撮影方法と撮影時の留意点や分析項目などが述べられ,さらに三次元セファロ分析や流体シミュレーションを用いた方法を解説している.

 



第3章の「各種PSG所見」には,睡眠関連各種疾患の臨床症状,PSG所見,診断基準などが10節にわたって記載されている.

 第1節は「睡眠呼吸障害」についてで,a,b,cの3項よりなる.「a 閉塞性睡眠時無呼吸症候群」と「b 中枢性睡眠時無呼吸症候群」では,AASMのマニュアルversion 2.1に準じて各種イベントの判定法や使用されるセンサーなどが理解しやすいように取りまとめられ,診断基準はICSD-3に基づいて解説されている.「c 神経変性疾患と睡眠呼吸障害」では,パーキンソン病,多系統萎縮症などに関連する睡眠疾患について解説している.

 第2節は「ノンレムパラソムニア」で,ノンレム(NREM)睡眠中の睡眠時随伴症である睡眠時驚愕症,睡眠時遊行症,錯乱性覚醒,睡眠関連摂食障害の臨床症状,発症背景,PSG所見,診断基準が解説されている.

 第3節は「レムパラソムニア」で,代表的なレム(REM)睡眠中の睡眠時随伴症であるレム睡眠行動障害(RBD)の臨床症状と診断基準を示し,PSGにおける筋脱力のないレム睡眠(RWA)の評価法について解説している.

 第4節の「睡眠中の異常運動(小児も含め),下肢不動化示唆検査」では,むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群,RLS)の診断基準(ICSD-3とIRLSSG)が示された上で,客観的評価法と主観的評価法として下肢不動化示唆検査(SIT)と視覚的評価スケール(VAS)などが解説されている.また周期性四肢運動(障害)については,評価法としての脚動イベントの検出と判定ルールなどが解説されている.

 第5節は,改訂版で新たに追加された「睡眠関連ブラキシズム(歯ぎしり)」で,この誘因となる疾患や薬物などについて分類・解説し,判定基準とPSG所見が示されている.

 第6節の「睡眠とてんかん」では,てんかんとは何か,その種類,発作の誘因・臨床症状・治療,睡眠とてんかんとの関連性などが理解しやすいように図表を含めて丁寧に解説されている.

 第7節は,昼間の過度の眠気などにより,健全な社会生活の維持に影響を及ぼす「過眠症」の代表的な3つの疾患についての記載である.ナルコレプシーは情動脱力発作の有無による分類(ICSD-2)から脳脊髄液オレキシン濃度を評価指標とする2つのタイプの分類(ICSD-3)となったこと,この疾患診断の重要な検査法であるMSLT実施における留意点と診断基準などが解説されている.特発性過眠症は長時間睡眠の有無による分類(ICSD-2)から単一の特発性過眠症に分類(ICSD-3)されたこと,この疾患の診断にはMSLTに加えて24時間PSGあるいは7日間以上連続したアクチグラムと睡眠日誌を対応させて求めた場合の総睡眠時間を用いるなどの規定が解説されている.Kleine-Levin症候群は稀な疾患で,従来は反復性過眠症などと呼ばれていた.本疾患の診断基準には,病相期の認知機能障害,脱抑制行動(性的行動)などの合併症状も加えられたことなどが解説され,病相期における覚醒時背景脳波の徐波化の観察や,SPECTやPETによる画像診断の有効性を指摘している.

 第8節は「循環器疾患と睡眠」で,心不全と中枢性睡眠時無呼吸および周期性四肢運動との関連性,PSG実施中における様々な不整脈,虚血性心疾患などについて解説し,循環器疾患の既往がある場合はもちろん,ない場合でも睡眠中に不整脈や虚血性の変化が起こる可能性があることを指摘している.

 第9節は「小児の睡眠障害」についてで,a,bの2項よりなる.aは睡眠中に生ずる好ましくない身体現象である「パラソムニア」についてで,小児に多くみられる睡眠時遊行症,睡眠時驚愕症,悪夢障害,睡眠時遺尿症,睡眠関連律動性運動異常症,新生児の良性睡眠時ミオクローヌスについて解説している.「b 小児の睡眠呼吸障害」は,それに起因する様々な症状により健全な日常生活や成長にも悪影響を及ぼす.ここでは主に口蓋扁桃肥大・アデノイドに起因する閉塞性睡眠時無呼吸を取り上げて解説している.

 第10節の「各種薬剤がPSGに及ぼす影響」では,PSG,MWTなどの睡眠検査の指標に影響を及ぼす各種薬剤の作用機序,睡眠構築,主観的作用・徴候,検査所見・適応を一覧表にまとめ解説している.

 



第4章の「睡眠脳波の特徴と異常脳波・境界脳波」では,PSG記録の判定を紛らわしくして判断を誤らせたり,PSG記録中に稀にではあるが遭遇する可能性のある異常脳波・境界脳波のPSG記録を示し,その解説を行っている.

 



第5章の「PSG施行中の緊急対応」には,PSG実施中の患者監視(ビデオによる患者監視は緊急事態の早期発見に有効な手段である)において緊急事態が発生した場合の検査技師,医師および看護師への連絡体制や対処法に関すること,また,施設として常備しておくべき器具・薬剤および感染症対策について述べられている.

 



第6章の「陽圧呼吸療法のタイトレーションおよびそのフォローアップ」では,睡眠呼吸障害の病態に応じた陽圧呼吸機器の適切な選択と適正圧の決定について述べられている.

 



第7章は「PSG記録の電子媒体による保存」であるが,これには法的に規定(『医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第4.2版,厚生労働省,2013年10月』を参照)されたデータの真正性,見読性,保存性,プライバシー保護の確保の対応が求められ,そうした上で電子媒体の記録は,運用上の安全管理が担保された外部機関への保存が認められるようになった.ここでは電子媒体の種類や容量,取扱いの注意,保存耐用年数などが具体的に示されており,各睡眠医療機関の実情に応じたPSG記録の電子媒体による保存システム構築の一助となり得る.

 



 またクリニカル・ノートでは,携帯型装置とPSGによる睡眠評価の適応差異,アクチグラフ式簡易装置による周期性四肢運動の測定と応用,PSGの評価項目に影響を及ぼす第1夜効果,睡眠不足の成因およびPSGとMSLTによる所見,閉塞性睡眠時無呼吸の治療に用いる口腔内装置の適応と効果判定について解説されている.

 

 本書は睡眠医療従事者にとって必読の書として推奨され,さらに発展的に関連する原著,総説,書籍などを読破して,スキルのより一層の向上を図られることを期待する.

 

2015年11月11日

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