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ISBN 978-4-89801--
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新薬展望

細菌ワクチン類「メナクトラ」―サノフィ㈱―

2015年09月20日

髄膜炎菌感染を予防

 

 ワクチンで予防できる疾患(VPD)がまた1つ加わった。侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)である。この疾患は急速に進行し,適切な治療を受けても5~10%は発症から24~48時間以内に死に至ると報告されている。国内の発症数は少ないものの,重篤な感染症の1つだと言える。今年5月に発売されたメナクトラ筋注(一般名・4価髄膜炎菌ワクチン (ジフテリアトキソイド結合体))は,髄膜炎菌(血清型A,C,Y,W-135)によるIMDを予防する4価髄膜炎菌ワクチンである。流行国・地域への渡航者,国内の感染ハイリスク者などに接種することが考えられる。副反応は疼痛など。

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 髄膜炎菌はグラム陰性の好気性双球菌。莢膜多糖体の糖鎖の違いで13種類の血清型に分類される。臨床的に分離される菌の約90%は血清型A,B,C,Y,W-135である。

 患者や保菌者から主に飛沫感染し,鼻咽頭粘膜に生息する。通常,感染は一過性だが,免疫力低下などの要因で血中や髄液中に菌が侵入し,IMDを発症することがある。初期症状は発熱,頭痛,嘔吐など,かぜの症状に類似している。髄膜炎,菌血症,敗血症,そして劇症型の「ウォーターハウス―フリーデリクセン症候群」を含めてIMDという。

 治療はペニシリンGや第3世代セフェム系薬が奏効する。ただ,適切な治療を受けていても重症例は急速に進行し,患者の5~10%は24~48時間以内に死亡すると報告されている。回復しても,10~20%の頻度で難聴,神経障害などの後遺症や,壊死による四肢切断に至ることもある。

 IMDは,国内では全数把握の5類感染症に指定され,2014年は37例の発生が報告されている。05年からの報告例を見ると,年齢別には0~4歳,15~19歳に発症のピークがある。高齢者も発症する。

 川崎医科大学小児科学の尾内一信主任教授によると,5歳未満と10歳代,寮生活などの高密度生活集団,流行地域への渡航・滞在,感染患者との接触の可能性がある家族・介護者,髄膜炎菌を扱う企業や研究の従事者,補体欠損症,抗補体(C-5)抗体薬のエクリズマブを投与する患者などがハイリスクとなる。

 思春期,特に寮生活や合宿をしている場合は,狭い空間での共同生活,ペットボトルの回し飲みや食器類の共有など,髄膜炎菌感染のリスク下にあると考えられる。2011年に宮崎県の高校の全寮制運動部寮でIMDの集団感染が生じ,1名が死亡している。

 アフリカ中部には「髄膜炎ベルト」と呼ばれるIMD多発地帯があり,2009年の流行期には5,000人以上が死亡したとされる。米国では年間800~1,200人の発生が報告されている。

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 メナクトラは,4種類の血清型(A,C,Y,W-135)の髄膜炎菌莢膜多糖体にキャリア蛋白(ジフテリアトキソイド)を結合させたワクチンである。

 国内第Ⅲ相試験では,2~55歳の被験者(n=200)に単回接種したところ,ワクチンに含まれる4種類の血清型のいずれに対しても80%以上の抗体保有率であった。

 成人(n=194)における特定注射部位反応の発現率は,疼痛30.9%,紅斑(発赤)2.6%,腫脹1.0%,特定全身反応の発現率は筋肉痛24.7%,倦怠感15.5%,頭痛11.3%,発熱1.5%だった。

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 川崎医大小児科学の中野貴司教授はメナクトラの上市について「コモンな乳児の感染症に対するワクチンと位置づけは少し異なるが」と前置きしつつ,「IMDはひとたび流行が起きると予後が悪いので,大切なワクチンだと考えている」と歓迎する。

 それとともに,「かつて青年海外協力隊の若者は,髄膜炎菌感染症流行地域へ赴任するときも,現地に着いてからワクチンを接種していた。多くの人が海外へ出かける時代に,日本国内でワクチンを打ってから行ける環境が整ったのは素晴らしいことだ」とする。尾内氏も「IMDが集団発生するリスクは存在しており,ワクチンを必要とする集団がある」と話している。

 中野氏によると,米国では11~12歳への定期接種が推奨されており,10代の接種率は78%(2013年)に達している。日本においては「一番(IMDを)予防してあげたい年代を見据えるなら,11~13歳が最適年齢と考えられる。その時期にDT(沈降ジフテリア破傷風混合トキソイド)ワクチンと同時接種するのがよいのではないか」との見方を示す。

 日本を含む先進国では血清型Bの頻度が高いと報告されているが,メナクトラには血清型Bに由来する抗原は含まれていない。また,米国では2回目の接種が推奨されている。これらの点について中野氏は,「メナクトラの4価で血清型B以外をかなりカバーできるので,まずは第1歩。2回目の接種の必要性も,これからの検討課題」と話している。

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▷効能・効果
髄膜炎菌(血清型A,C,YおよびW-135)による侵襲性髄膜炎菌感染症の予防

▷用法・用量
1回,0.5mLを筋肉内接種する。

▷薬価
0.5mL1瓶 19,827円(健保等一部限定適用)

(佐賀 健)

MEDICAMENT NEWS 第2207号 9月15日