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ISBN 978-4-89801--
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新薬展望

結核化学療法剤「デルティバ」―大塚製薬㈱―

2015年08月26日

40年ぶりの新機序抗結核薬

 デルティバ錠(一般名・デラマニド)は「多剤耐性肺結核」の適応が認められた初めての薬剤である。リファンピシン(RFP)以来,約40年ぶりの新しい作用機序の抗結核薬でもある。他の抗結核薬と併用し,1日2回投与する。副作用は不眠症,頭痛など。重大な副作用としてQT延長に注意する。高精度な薬剤感受性試験ができる医療機関を登録し,当該患者への投与の適格性を確認して薬剤を供給するなど,耐性菌発現を防ぐための適正使用プログラムが定められている。

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 結核は決して「過去の病気」ではない。HIV/エイズ,マラリアと並ぶ3大感染症に位置付けられ,いまだ人類が克服できない感染症である。

 その大きな理由が,結核菌の頑強さ。変異しやすく薬剤耐性を作りやすい。あるいは感染後,「休眠菌」として体内に存在し,数年から数十年後に再燃することがある。抗結核薬の副作用で治療が継続できないこともあるし,開発途上国では治療へのアクセス自体も課題となる。

 国内に目を向けると,新規患者数は減少傾向をたどっているが,今なお年間10万人あたり約15人が罹患する。これは先進国の中では高い値で,結核の「中蔓延国」に位置づけられている。特に高齢者,糖尿病患者,在日外国人などにおける発病が懸念されている。

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 結核の標準治療は,抗結核薬の併用療法で結核菌を撲滅することである(日本結核病学会「『結核医療の基準』の見直し―2014年」)。初回治療では,感受性のある薬剤を4剤併用する。組み合わせの原則はRFP,イソニアジド(INH),ピラジナミド(PZA),エタンブトール(EB)の4剤で,6カ月は治療する。

 一方,RFP,INHの両剤に耐性の場合を多剤耐性結核(MDR-TB)という。MDR-TBの国内新規発生数は年間100~200人とされている。この場合は,PZA,EB,キノロン系抗菌薬,注射用抗結核薬などから感受性のある4~5剤を併用する。MDR-TBの治療期間は少なくとも20カ月で,成功率は40~70%とされる。死亡率は3年で18%,5年で25%と高い(吉山ら,2005年)。

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 デルティバは,結核菌の細胞壁を構成するミコール酸の生合成を阻害する。ミコール酸はブドウ球菌や大腸菌などには存在しないので,同剤は抗酸菌特異的に作用することになる。ミコール酸合成阻害作用という意味ではINHと同様だが,作用点は異なる。そのためデルティバは,INHを含む既存の抗結核薬に感受性・耐性菌に対して抗結核菌活性を示し,交叉耐性は認められていない。

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 国際共同第Ⅱ相試験は,MDR-TB患者を対象に9カ国で行われた。患者ごとの最適な標準治療に,デルティバまたはプラセボを上乗せして56日間投与した。その結果,喀痰培養陰性化が得られたのは,同剤(100 mg1日2回)群は45.4%(64/141例)だったのに対して,プラセボ群は29.6%(37/125例)にとどまり,両群に有意な差が認められた(Glerら,2012年)。

 この試験に参加した患者の2年後の転帰を追跡した研究もある。いずれかの時期に同剤を6カ月以上投与された群(n=192)では死亡したのは1%だったが,同剤投与が2カ月未満の群(n=229)では8.3 % であった(Skripconokaら,2013年)。

 国際共同試験で副作用は395例中208例(52.7%)に認められ,主なものは不眠症(12.2%),頭痛(10.4%),QT延長(7.1%),傾眠(6.3%)などだった。

 QT延長には,同剤の代謝産物の1つが関与すると見られる。大塚製薬は,投与開始前および投与中の定期的な(1カ月に1回程度の)心電図検査等の施行を呼び掛けている。

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 デルティバは,今年4月に改訂されたWHO必須医薬品リスト(第19版)に収載された。欧州でも承認されており,MDR-TBの標準薬として使用されていくものとみられる。ただ,同剤に限ったことではないが,治療が適切に行われないと耐性菌の発生につながるのは明らかだ。

 日本結核病学会は,同剤の適正使用のために,精度の高い薬剤感受性試験や服薬確認体制の整備などの要件を満たす医療機関で,1例ごとに適否を判断して投与することを求めている。

 メーカー側も最適な治療アクセス計画(RAP)を策定。投与が考えられる患者,医師・薬剤師,医療機関・薬局を登録し,専門医からなる適格性確認委員会が薬剤供給の適否を判断する仕組みを構築した。

 貴重な新薬であるがゆえに,慎重な患者選択と適正な使用が求められるといえるだろう。

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▷効能・効果
〈適応菌種〉本剤に感性の結核菌
〈適応症〉多剤耐性肺結核

▷用法・容量
通常,成人にはデラマニドとして1回100mgを1日2回朝,夕に食後経口投与する。

▷薬価
50mg1錠 6,125円

(佐賀 健)

MEDICAMENT NEWS 第2205号 8月25日