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ISBN 978-4-89801--
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新薬展望

嫌気性菌感染症治療剤「アネメトロ」―ファイザー㈱―

2015年08月17日

メトロニダゾールの注射剤

 嫌気性菌感染症などの標準薬・メトロニダゾール(MNZ)に待望の注射剤が加わった。昨年9月に発売されたアネメトロ点滴静注液 (一般名・メトロニダゾール)である。腹腔内感染症などの嫌気性菌感染症,感染性腸炎(偽膜性大腸炎を含む),アメーバ赤痢に用いる。通常,1日3回点滴静注する。内服困難な患者などにおいて特に有用と見られる。好気性菌などとの混合感染やその疑いの場合は他の抗菌薬と併用する。副作用は下痢など。

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 嫌気性菌は特に腸管内,生殖器で優位に存在し,腹腔内感染症,骨盤内炎症性疾患(子宮付属器炎,骨盤腹膜炎など),誤嚥性肺炎などの原因菌として重要である。嫌気性菌の分離頻度は,感染部位によっても異なるが,虫垂切除術後感染症や大腸術後感染症では70~100%とされている。嫌気性菌感染症の多くは,好気性菌との混合感染である。

 腹腔内感染症は,腸内細菌の血中への侵入,穿孔などによる消化管内の微生物の腹腔内漏出,微生物の肝臓内への進展で生じる。胆管炎・胆嚢炎,二次性腹膜炎,肝膿瘍などだが,急性胆管炎・胆嚢炎の重症例は診断・治療が遅れると全身状態が急激に悪化し,死の転帰をたどることがある。

 抗菌薬としてはカルバペネム系薬,セフェム系薬,ペニシリン系薬などが用いられる。だが近年,これまで主に使用されてきたクリンダマイシンやセフメタゾールなどについて嫌気性菌に対する耐性化が報告されている。また,カルバペネム系薬の使用量の増加により,これらに耐性を示す腸内細菌科細菌の増加も指摘されている。

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 国内外のガイドラインでは嫌気性菌感染症が疑われる患者に対して,好気性菌に抗菌活性を有する抗菌薬とMNZの併用が推奨されている。例えば,「急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン2013」ではMNZについて「標準薬としての位置づけは明確である」としている。

 腹腔内感染症患者の多くは内服が困難と見られる。誤嚥性肺炎などの呼吸器感染症においても同様で,初期治療は注射剤が主体である。
 しかし,国内ではMNZは経口剤と腟剤が1961年に承認されているが,注射剤は長らく未承認であった。そのため国内の各種団体からMNZ注射剤の開発が要望され,ファイザーが手を挙げて開発に着手。2014年7月に承認を取得した。

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 国内第Ⅲ相試験は,腹腔内感染症・骨盤内炎症性疾患患者38名を対象に非盲検,シングルアームで行われた。MNZとセフェム系薬セフトリアキソンを併用し,3~14日間投与した。

 その結果,データレビュー委員会による臨床効果の判定で,有効率は96.7%(29/30例)であった。このうち腹腔内感染症に対する有効率は100%(20/20例),骨盤内炎症性疾患は90.0%(9/10例)だった。

 副作用は38例中14例(36.8%)に認められ,主なものは下痢(23.7%),悪心(5.3%)などだった。いずれも軽度または中等度であった。

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 MNZはニトロイミダゾール系の化合物で,菌体または原虫内の酸化還元系の反応によって還元されてニトロソ化合物となり,嫌気性菌や原虫に対して強い抗菌活性・抗原虫活性を示す。また,還元を受けて生成したヒドロキシラジカルが,DNAの二重らせん構造を不安定にして,作用を示す機序も考えられている。

 MNZは投与後様々な組織や体液に分布し,唾液,歯肉溝滲出液,腹腔内滲出液などに血漿中と同程度の薬物濃度が認められた。

 理由は不明であるが,MNZ耐性化のリスクは少ないとされる。実際に,Bacteroides fragilis属に対するMNZの抗菌活性は,1990年代以前と2000年代で比較して同等であることが示されている。

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 半世紀の歴史をもつMNZに新投与経路・新剤形が承認された。この間,他の抗菌薬が相次いで加わった状況にあっても,なおニーズが高いということだろう。

 前述の通り,各種の感染症治療ガイドラインでも,セフェム系薬あるいはキノロン系薬などとMNZを併用することが推奨されている。

 嫌気性菌感染症は重篤化することが多いので,腹腔内感染症など,内服困難な患者の迅速・確実な治療薬としての役割が期待される。
 もう1つ,抗菌薬の適正使用に貢献できる薬剤としての期待もあるだろう。セフェム系薬などとMNZの併用療法という選択肢があることで,結果的にカルバペネム系薬を温存できるのではないか,ということである。既存薬を生かす新たな治療戦略と言えるだろう。

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▷効能・効果
1. 嫌気性菌感染症
<適応菌種>本剤に感性のペプトストレプトコッカス属,バクテロイデス属,プレボテラ属,ポルフィロモナス属,フソバクテリウム属,クロストリジウム属,ユーバクテリウム属
<適応症>敗血症/深在性皮膚感染症/外傷・熱傷及び手術創等の二次感染/骨髄炎/肺炎,肺膿瘍,膿胸/骨盤内炎症性疾患/腹膜炎,腹腔内膿瘍/胆嚢炎,肝膿瘍/化膿性髄膜炎/脳膿瘍
2. 感染性腸炎
<適応菌種>本剤に感性のクロストリジウム・ディフィシル
<適応症>感染性腸炎(偽膜性大腸炎を含む)
3. アメーバ赤痢

▷用法・容量

通常,成人にはメトロニダゾールとして1回500mgを1日3回,20分以上かけて点滴静注する。なお,難治性または重症感染症には症状に応じて,1回500mgを1日4回投与できる。

▷薬価
500mg1瓶 1,252円

(佐賀 健)

MEDICAMENT NEWS 第2204号 8月15日