株式会社 ライフ・サイエンス

ライフ・サイエンスは医学・薬学専門出版社として医学・医療の発展に貢献します。

書籍検索(単行本)

キーワード検索

著者名や書籍タイトルを入力してください。
複数キーワードの場合は、スペースを入れてください。

発行年 年 ~ 
ISBN 978-4-89801--
分類

検索したい項目をチェックしてください。チェックがない場合は全てを検索します。

定期刊行物検索(新聞・雑誌)

キーワード検索

執筆者や特集タイトルを入力してください。
複数キーワードの場合は、スペースを入れてください。


新聞・雑誌別検索

検索したい項目をチェックしてください。チェックがない場合は全てを検索します。

発行年月

2010年以降のデータを検索できます。

月 ~

新薬展望

抗悪性腫瘍剤「サイラムザ」―日本イーライリリー㈱―

2015年08月07日

進行胃がんの2次治療に

 サイラムザ点滴静注液(一般名・ラムシルマブ;遺伝子組換え)は胃がん治療では初めての血管新生阻害剤である。血管内皮増殖因子受容体-2(VEGFR-2)に対するモノクローナル抗体薬で,血管新生に関わるVEGFR-2の活性化を阻害し,腫瘍増殖を抑制する。2週間に1回投与する。臨床試験では,進行胃がんの2次治療において標準薬パクリタキセルへの上乗せ効果が確認された。重大な副作用として血栓塞栓症,出血,消化管穿孔などに注意する。

.

 胃がんは,年齢調整罹患率は低下傾向にあるものの,なお日本人のがん罹患率で第1位(2011年)である。患者数そのものは高齢化のために増加傾向にあり,年間12万人が罹患していると推定される。患者の約20%は,がん細胞の増殖にかかわる蛋白・HER2(ヒト上皮増殖因子受容体2型)が陽性である。

 治療は病期などによるが,内視鏡治療,外科手術,化学療法などを単独あるいは組み合わせて施行する。

 日本胃癌学会の「胃癌治療ガイドライン医師用第4版」(2014年5月改訂)には切除不能進行・再発胃がんに対するアルゴリズムがある。例えば,HER2陽性例では,1次治療に細胞障害性抗がん剤のカペシタビン+シスプラチン(CDDP)に抗HER2抗体薬トラスツズマブを加えた3剤併用療法を施行する。

 その後の2次治療においては,ドセタキセルまたはパクリタキセルを,3次治療でイリノテカンを用いる。その逆の順序でもよい。

 HER2陰性例においては,1次治療にS-1(テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤)+CDDPを用いて,2次治療以降の進め方はHER2陽性例と同様である。

 こうした治療により,1次治療では13~16カ月,2次治療の単剤化学療法では9~10カ月の生存期間中央値が得られる。ただし,2次治療で併用化学療法が単剤を上回る有効性を示すことはなかった。

 また,昨今様々ながん種で開発の進歩が著しい分子標的薬についても,トラスツズマブを除いては,有効性を示すことができないでいた。国立がん研究センターの大津敦氏(先端医療開発センター長)は「VEGF,EGFR(上皮細胞増殖因子受容体),mTOR(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質)などのそれぞれの分子を標的とした薬剤だが,有効性を示せなかったということは胃がん組織の多様性を示している」と指摘する。

.

 サイラムザは,がんの増殖,転移に関わる血管新生において重要な役割を担う蛋白・VEGFR-2に特異的に結合するモノクローナル抗体薬である。VEGFRは1,2,3のサブタイプが知られているが,同剤は,VEGFがVEGFR-2に結合することを阻害して,VEGFR-2の活性化を阻害し,血管内皮細胞の増殖,遊走を阻害する。結果として腫瘍血管新生が阻害され,腫瘍の増殖が抑制される。

 大津氏は「胃がんにおいてはVEGFR-2が,血管新生のカギとなる最も重要な蛋白だと言える」と説明する。

.

 国際共同第Ⅲ相試験「RAINBOW」は,化学療法歴を有する進行胃がんまたは胃食道接合部がん患者665例(日本人140例を含む)を対象に行われた。無作為に2群に分け,サイラムザ+パクリタキセル(週1回法)群とプラセボ+パクリタキセル(同)群とした。

 全生存期間(中央値)はサイラムザ群9.6カ月,プラセボ群7.4カ月で,有意な上乗せ効果が確認された。無増悪生存期間も4.4カ月対2.9カ月で,サイラムザ群が有意に延長していた。

 奏効率は28%対16%,SD(病勢安定)を含めた病勢コントロール率は80%対64%で,いずれもサイラムザ群が有意に高かった。

 QOLスコアは両群でほぼ同じであり,上乗せによるQOLへの悪影響は認められなかった。

 サイラムザ群(n=327)の副作用は疲労/無力症(56.9%),好中球減少症(54.4%),白血球減少症(33.9%),下痢(32.4%),鼻出血(30.6%)などだった。

.

 同剤は,胃がん治療において承認された初めての血管新生阻害剤となる。それとともに,2次治療において細胞障害性抗がん剤との併用療法という新たな治療選択肢を提供するものである。大津氏は「トラスツズマブ以来の2剤目の分子標的薬として(胃がん治療の)現場に出てきたのは喜ばしいこと」と歓迎する。

 一方,臨床試験で動脈血栓塞栓症,静脈血栓塞栓症,出血,消化管穿孔などが発現しており,十分な観察が必要である。こうしたリスクのある患者には慎重に投与する。

 医療経済の観点も踏まえ,サイラムザの効果を予測するバイオマーカーがあるかどうかはぜひ知りたいところであり,解析が待たれる。

.

▷効能・効果
治癒切除不能な進行・再発の胃がん
▷用法・用量
通常,成人には2週間に1回,ラムシルマブ(遺伝子組換え)として1回8mg/kg(体重)をおよそ60分かけて点滴静注する。なお,患者の状態により適宜減量する。
▷薬価
100mg1瓶  75,265円
500mg1瓶 355,450円

(佐賀 健)

MEDICAMENT NEWS 第2203号 8月5日