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ISBN 978-4-89801--
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新薬展望

リンパ脈管筋腫症治療剤(mTOR阻害剤)「ラパリムス」―ノーベルファーマ㈱―

2015年08月03日

mTOR阻害作用を希少疾患に

 ラパリムス錠(一般名・シロリムス)は,妊娠可能な女性に好発する希少疾患「リンパ脈管筋腫症(LAM)」の初めての治療剤である。この疾患は,平滑筋に似た性質を持つ細胞(LAM細胞)が肺やリンパ節などで増殖し,肺においては組織を破壊するが,同剤はLAM細胞の増殖を妨げ,病態の進行を抑制する。臨床試験では呼吸機能の安定などが示された。1日1回投与。副作用は口内炎など。


 LAMは主に肺やリンパ節などでLAM細胞が異常増殖し,肺の組織を破壊して嚢胞を形成する疾患である。労作時呼吸困難,気胸といった呼吸器症状,あるいは乳び胸水・腹水,腎血管筋脂肪腫などをきたす。LAM細胞が産生するサイトカインや酵素が肺の構造破壊に関与すると考えられている。肺の構造破壊は不可逆的で,進行すると呼吸不全となり酸素吸入が必要となる。

 細胞周期を調節する蛋白・mTOR(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質)の活性を抑制しているTSC1 やTSC2 遺伝子の変異によってmTORが恒常的に活性化し,細胞増殖のシグナルが送られてLAM細胞が増殖すると考えられる。閉経後女性にはLAMが見られなかったり,閉経後に症状が落ち着いたりすることから,ホルモンとの関係も指摘されている。

 LAMは難病法により指定難病に認定されており,特定医療受給者証交付先として586名が登録されている(平成25年度)。

 根本治療は確立しておらず,抗エストロゲン療法などが用いられることがある。対症的に気管支拡張薬投与,在宅酸素療法などが,重症化した場合には肺移植が施行されることもある。


 ラパリムスの有効成分・シロリムスは別名ラパマイシンといい,太平洋上のチリ領・イースター島の土壌から分離された放線菌の代謝産物である。1970年代にマクロライド系抗生物質として見出された。その後,免疫抑制作用を有することが明らかとなり,欧米では臓器移植における臓器拒絶反応の予防に用いられている。

 そのmTOR阻害作用からLAMへの応用も模索されるようになり,日本・米国・カナダの医師主導治験「MILES試験」でLAM患者の呼吸機能の維持が確認された。

 ラパリムスはmTORの活性を阻害することでLAM細胞の増殖を妨げる。また,肺の構造破壊に関与すると見られるサイトカインや酵素がLAM細胞から産生されるのを抑制し,LAMの病態進行を抑制すると考えられる。


 MILES試験は18歳以上のLAM患者89例を対象に行われた。全例が女性で,閉塞性肺障害の程度(COPDの病期分類を参考とした)は中等症以上であった。日本からは24例が登録された。無作為に2群に分けてラパリムス群またはプラセボ群とし,12カ月間投与。主要評価項目は,投与期間を通した呼吸機能(1秒量=最大吸気位から最大努力で呼出した時の最初の1秒間に呼出した気量)の傾きとした。

 その結果,1秒量はラパリムス群が1カ月あたり平均1.1mL増加したのに対して,プラセボ群は平均11.8mL減少しており,両群に有意差が認められた。投与中止後12カ月間の1秒量の傾きはラパリムス群が8mL減少,プラセボ群が14mL減少で,両群に有意な差は認められなかった。

 ラパリムス群の副作用は46例中45例(97.8%)に認められ,主なものは口内炎(63.0%),下痢(56.5%),ざ瘡(43.5%),疼痛(43.5%),感染(41.3%),呼吸障害(37.0%)などだった。

 国内の医師主導治験「MLSTS試験」は,ラパリムスの安全性を確認することを主たる目的として行われた。対象となったのはLAM患者63例(全例女性)である。副作用は63例中63例(100%)に認められ,主なものは口内炎(88.9%),鼻咽頭炎(41.3%),上気道の炎症(34.9%),頭痛(33.3%),下痢(33.3%)などだった。日本人における新たな副作用の発現はなかった。

 口内炎は高頻度に発現しており,投与継続にあたって対策が重要である。重大な副作用の1つとして,間質性肺疾患がMILES試験で1例,MLSTS試験で2例に発現した。


 ラパリムスの位置づけとして,MILES試験に基づき,閉塞性肺障害の程度が中等度以上の症例に用いて呼吸機能低下の抑制を図ることが考えられる。同試験では投与中止により1秒量の傾きが減少に転じたことから,安全性に留意しながらの投与継続が必要だろう。海外では5年間にわる長期投与をしたサブグループで,呼吸機能の安定が示されている(Yaoら,2014年)。

 比較的軽症のLAM患者については,呼吸機能の推移を観察し,ある時期にラパリムスを開始する治療戦略が考えられる。


▷効能・効果
リンパ脈管筋腫症

▷用法・用量
通常,成人にはシロリムスとして2mgを1日1回投与する。なお,患者の状態により適宜増減するが,1日1回4mgを超えないこと。
▷薬価
1mg1錠 1,285円

(佐賀 健)

MEDICAMENT NEWS 第2202号 7月25日