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新薬展望

抗ウイルス剤 「ダクルインザ」「スンベプラ」 ―ブリストル・マイヤーズ㈱―

2015年03月05日

 経口剤のみでC型肝炎治療

 インターフェロン(IFN)を用いずに,2種類の経口剤でC型慢性肝炎を治療する「IFNフリー」の治療法が初めて承認された。昨年秋に上市された直接作用型抗ウイルス剤DAAs)の「ダクルインザ錠」(一般名・ダクラタスビル塩酸塩)と「スンベプラカプセル」(一般名・ダクラタスビル塩酸塩)の併用療法である。

 C型慢性肝炎またはC型代償性肝硬変で,IFNを含む治療に不適格の未治療あるいは不耐容の患者,IFNを含む治療が無効だった患者に用いる。投与期間は24週間。臨床試験ではウイルス持続陰性化率は約85% であった。副作用はALT増加,AST増加,頭痛,発熱など。

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 C型肝炎ウイルス(HCV)感染による炎症が持続すると,数十年で一定の頻度で肝硬変,肝がんへと進展する。

 2011年, HCVの非構造(NS)蛋白のうちNS3/4Aプロテアーゼに作用するプロテアーゼ阻害剤テラプレビルがDAAsの第1号として上市され,ペグ化IFNα+リバビリンとの3剤併用が当時の標準治療となった。その後もいくつかのプロテアーゼ阻害剤が上市され,同様に使われている。

 一方で,IFNを含む治療が困難な患者には有効な選択肢がなかった。例えば高齢,貧血,うつ病などの背景があるため不適格となる患者,副作用で継続が困難な患者,治療を完遂したがウイルス陰性化が得られなかった患者などである。

 肝線維化の進行とともに肝がんのリスクが上昇するので早期治療が求められる半面,肝硬変の患者はIFN抵抗性であることや既存のDAAsの適応とならないというジレンマもあった。

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 ダクルインザ(ダクラタスビル=DCV)とスンベプラ(アスナプレビル=ASV)は,作用機序の異なるDAAsを併用して抗ウイルス効果を増強するとともに,「IFNフリー・リバビリンフリー」で副作用や通院負担を軽減することを目的に開発された。

 DCVはNS5A複製複合体阻害剤で,HCVの複製に必須の蛋白であるNS5Aの機能を阻害する。ASVはNS3/4Aプロテアーゼを阻害し,HCV複製に必要な蛋白間の切断を阻害する。

 DCV/ASV併用療法の第Ⅲ相試験は,C型慢性肝炎(ジェノタイプ1b型)222例を対象に行われた。内訳は,IFNを含む治療に不適格の未治療患者と不耐容患者を合わせて135例(不適格未治療・不耐容群),IFNを含む治療が無効の患者が87例(前治療無効群)だった。全体のうち65歳以上の割合は40.1%, 男性は34.7%, 代償性肝硬変(Child-Pugh分類A)を有する症例は9.9%だった。

 非盲検下でDCV/ASVを24週間投与。投与終了24週後に血中HCV RNAが定量下限未満(SVR24)だった患者の割合を主要評価項目とした。

 その結果,SVR24率はIFN不適格未治療・不耐容群で87.4%,前治療無効群で80.5%,合計で84.7%だった。代償性肝硬変のない患者では84.0%,代償性肝硬変患者では90.9%だった。

 また年齢,性別,ベースラインのHCV RNA 量,IFN抵抗性に関わるIL28B 遺伝子型に関わらず,良好なSVR24率が得られた。

 被験者214例中30例(14.0%)は投与前にNS5A領域のアミノ酸配列の変異(Y93H)が検出された。この群のSVR24率は43.3%だった。

 承認時までのDCV/ASVの臨床試験で副作用は255例中158例(62.0%)に認められ, 主なものは,ALT増加(17.6%),AST 増加(14.1%), 頭痛(12.9%),発熱(11.8%)などだった。

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 DCV/ASVはすでに日本肝臓学会の「C型肝炎治療ガイドライン(第3.2版)」で,IFN不適格の未治療患者,副作用で中止した患者,前治療が無効だった患者の治療選択肢として記載されている。なおこのガイドラインでは,治療前に薬剤耐性を有する患者がいるため「治療前には極力Y93/L31変異を測定し,いずれかの変異があれば原則としてDCV/ASVは選択肢としない」としている。

 SVR24を得ることや耐性発現の防止には,副作用の発現に注意しつつ,服薬を遵守し24週間の投与を完遂することが重要である。

 「IFNフリー」の課題の1つに,肝発がん抑制効果の検証がある。IFNを含む治療は肝発がん抑制効果が証明されているが,IFNフリーについては現時点では得られていない。

 DCV/ASVの第Ⅱ相,第Ⅲ相試験の被験者35例で,肝発がんの予測因子とされるAFP値がIFN群と差がないことが示されたが(第65回米国肝臓学会#1012,2014),今後長期間の追跡が待たれる。

 DCV/ASVに関する課題といえば,適応がIFNを含む治療に不適格未治療・不耐容あるいは前治療無効例に限られていることが挙げられる(2月25日現在)。HCV治療においてDCV/ASVへのニーズは高く,適応範囲の拡大が期待される。

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▷効能・効果(両剤共通)=セログループ1(ジェノタイプ1)のC型慢性肝炎又はC型代償性肝硬変における次のいずれかのウイルス血症の改善
⑴インターフェロンを含む治療法に不適格の未治療あるいは不耐容の患者
⑵インターフェロンを含む治療法で無効となった患者

▷用法・用量=通常,成人にはダクラタスビルとして1回60mgを1日1回経口投与する。
 通常,成人にはアスナプレビルとして1回100mgを1日2回経口投与する。
 ダクラタスビル塩酸塩とアスナプレビルを併用し,投与期間は24週間とする。

▷薬価=ダクルインザ錠60mg1錠 9,186.00円
    スンベプラカプセル100mg1カプセル 3,280.70円

 
 MEDICAMENT NEWS 第2188号 3月5日