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ISBN 978-4-89801--
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老年科医のひとりごと 第50回

ノック

井口 昭久
愛知淑徳大学健康医療科学部教授

 診察室は患者がいないときは私1人になる.
 その日は暇であった.ドアをノックする人がいた.
 戯れに「タカギさんどうぞ」と大きな声で言ってみた.
 ドアを開けたのは事務の高木さんであった.私のいい加減の推測は当たっていたのだ.突然,名前を呼ばれたタカギさんは「どうして私だってわかったんですか?」とびっくりした.
 「私はね,ノックの音で誰かわかるんよ.小さな音でツンツンとたたく人は事務の小室さんで,なぜるように優しくノックする人は高木さんよ」と真面目な顔をして言うと,「本当ですか?」と高木さんが念を押した.
 「嘘だよ.わかる訳ないだろ」と言うと高木さんは「お医者さんが言うと本当だと思うじゃない!」と憮然として言った.

 新型コロナウイルスが流行っている.
 感染した患者が私のクリニックの診察室のドアをいつノックしても不思議ではない.
 テレビは朝から晩までこの話題でもちきりである.
 この騒ぎを通じて日本国民は医者と風邪の関係の理解を深めた.患者は医者にさえ診てもらえばどんな病気でもたちどころに診断してもらえると思っていた.しかし,繰り返される報道によって新型コロナウイルスは初期であろうと中期であろうとPCR検査によってしか診断ができないことを知った.
ノック画像(W270) それに発熱があっても2日間は家にいて医者に行くなとのお達しは「医者へ行ってもしょうがない」ということにホカならない.新型コロナばかりではなく普通の風邪にも効く薬はありませんといっているのである.
 医者の主観と経験は何の役にも立たず「黙って座ればピタリと当たる」という超能力を医者はもっていないことがばれてしまったのである.これからは「お医者さんが言うことは本当かどうか疑わしい」ということになるかもしれない.

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