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ISBN 978-4-89801--
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新薬展望

抗HER2抗体チューブリン重合阻害剤複合体「カドサイラ」―中外製薬㈱―

2015年06月02日

乳がん治療の抗体薬物複合体

 カドサイラ点滴静注用(一般名・トラスツズマブ エムタンシン;遺伝子組換え)は,HER2(ヒト上皮増殖因子受容体2型)陽性の手術不能又は再発乳がん治療に用いる「抗体薬物複合体」である。抗HER2ヒト化モノクローナル抗体と細胞傷害性薬物が,安定したリンカーを介して結合している。HER2を発現する細胞に結合し,抗体薬によるHER2シグナルの伝達阻害作用と抗体依存性細胞傷害(ADCC)作用,細胞傷害性薬物によるチューブリン重合阻害作用で抗腫瘍効果を示す。海外臨床試験では進行・再発乳がん患者の全生存期間を既存治療よりも有意に延長した。副作用は倦怠感,悪心,血小板数減少など。重大な副作用として間質性肺疾患,心障害などがある。

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 乳がん患者の約20%がHER2陽性とされ,細胞増殖のシグナル伝達が活性化している。このHER2を標的とし,シグナル伝達の阻害とADCC作用で抗腫瘍効果をもたらすのが抗HER2抗体薬である。

 かつてHER2陽性は予後不良因子と見られていたが,トラスツズマブを始めとする抗HER2療法が標準治療となった今日では,HER2陽性例は有望な治療手段があるサブタイプと言える。

 有害事象についても,細胞傷害性薬剤で見られる脱毛など,患者のQOLに影響を及ぼすものが低減されている。

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 カドサイラは抗HER2抗体トラスツズマブと細胞傷害性薬物DM1を,リンカーを介して結合させた抗体薬物複合体,すなわち抗HER2療法と細胞傷害性化学療法の融合形である。それにより,薬剤を腫瘍細胞に選択的に作用させ,正常組織への影響を最小限に抑えようというものだ。抗体薬物複合体は血液がんでは10年前に実用化されているが,固形がんではカドサイラが初めてとなる。

 同剤はHER2に結合して細胞内に取り込まれた後に分解され,DM1(を含む代謝物)を遊離する。DM1はメイタンシノイドに分類される薬物で,G2/M期での細胞周期の停止およびアポトーシスを誘導する。トラスツズマブによるシグナル伝達阻害作用,ADCC作用も発現する。

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 海外第Ⅲ相試験「EMILIA試験」は,HER2陽性進行・再発乳がんを対象に行われた。タキサン系薬およびトラスツズマブの治療歴のある患者約1,000人が組み入れられた。対照はカペシタビン(代謝拮抗薬)+ ラパチニブ(HER2チロシンキナーゼ阻害薬)併用療法とし,無作為に2群に分けて投与した。

 その結果,無増悪生存期間は,カドサイラ群は9.6カ月(中央値,以下同),対照群は6.4カ月でカドサイラ群が有意に延長していた。全生存期間についても,30.9カ月対25.1カ月とカドサイラ群が有意に延長していた。

 カドサイラ群の副作用は490例中427例(87.1%)に認められ,主なものは倦怠感(41.0%),悪心(33.7%),血小板数減少( 29.6 % ),AST 増加( 20.4 % ),ALT増加(16.1%)などだった。

 有害事象の発現率を比較すると,Grade3以上の有害事象,治療中止となった有害事象はカドサイラ群の方が低かった。Grade3以上の有害事象でカドサイラ群に多かったのは血小板減少症など,対照群では下痢,手掌・足底発赤知覚不全症候群などだった。

 カドサイラの重大な副作用として間質性肺疾患,心障害,過敏症,末梢神経障害などに注意を要する。

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 進行・再発後の乳がんの治療は,延命とQOLの改善を目的に再発部位,前治療から再発までの期間,HER2陽性か否か,ホルモン感受性などの因子に基づいて選択するのが一般的だ。

 米NCCN(国立総合がんネットワーク)のガイドライン(2014年ver.3)では,HER2陽性の進行・再発患者の1次治療に抗HER2療法2剤(ペルツズマブ,トラスツズマブ)とタキサン系薬の3剤併用療法を挙げている。その後の2次治療はHER2標的治療を続けるものとし,カドサイラを「望ましい」選択肢として掲げている。

 日本乳癌学会の「科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン2013年版」においても,トラスツズマブ投与中もしくは投与後に病勢が進行したHER2陽性転移・再発乳がんに対して「抗HER2療法の継続や再投与は勧められる」とした上で,カドサイラを選択肢に挙げている。

 カドサイラをめぐっては,乳がん手術の補助化学療法の第Ⅲ相試験や胃がんに対する第Ⅱ/Ⅲ相試験も国内外で行われている。固形がんに対してどこまで抗体薬物複合体の可能性が広がるか,今後のデータの蓄積が注目される。

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▷効能・効果
HER2陽性の手術不能又は再発乳癌

▷用法・用量

通常,成人にはトラスツズマブ エムタンシン(遺伝子組換え)として1回3.6mg/kg(体重)を3週間間隔で点滴静注する。

▷薬価

100mg1瓶 235,108円
160mg1瓶 373,945円

(佐賀 健)

MEDICAMENT NEWS 第2196号 5月25日