株式会社 ライフ・サイエンス

ライフ・サイエンスは医学・薬学専門出版社として医学・医療の発展に貢献します。

書籍検索(単行本)

キーワード検索

著者名や書籍タイトルを入力してください。
複数キーワードの場合は、スペースを入れてください。

発行年 年 ~ 
ISBN 978-4-89801--
分類

検索したい項目をチェックしてください。チェックがない場合は全てを検索します。

定期刊行物検索(新聞・雑誌)

キーワード検索

執筆者や特集タイトルを入力してください。
複数キーワードの場合は、スペースを入れてください。


新聞・雑誌別検索

検索したい項目をチェックしてください。チェックがない場合は全てを検索します。

発行年月

2010年以降のデータを検索できます。

月 ~

新薬展望

抗悪性腫瘍剤「ゼルボラフ」 ―中外製薬㈱―

2015年05月14日

悪性黒色腫の分子標的薬

 ゼルボラフ錠(一般名・ベムラフェニブ)は,BRAF遺伝子変異を有する根治切除不能な悪性黒色腫を適応とする抗悪性腫瘍剤である。がんの増殖に関与するBRAF蛋白の変異型を選択的に阻害する「BRAFキナーゼ阻害剤」である。使用にあたっては,コンパニオン診断薬でBRAF遺伝子変異の有無を事前に判定し,変異を有する患者に用いる。1日2回投与する。海外第Ⅲ相試験では,標準治療薬に対して無増悪生存期間,全生存期間,奏効率の全てで統計学的な有意差をもって上回った。副作用は発疹,関節痛,光線過敏症など。特徴的な副作用として皮膚有棘細胞がんなどがある。

◆                ◆               ◆

 悪性黒色腫は皮膚悪性腫瘍の1つで,極めて悪性度が高い。発症率はすべての皮膚腫瘍の4%,皮膚悪性腫瘍の中でいえば12%だが,皮膚腫瘍で死亡する患者の約8割は悪性黒色腫の患者が占めている。

 罹患率は人種差が大きく,白人に多く黒人に少ない。黄色人種の罹患率はその中間といったところで,国内では毎年約1,500人の新規罹患がある。

 日本皮膚科学会の「皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン」では,術前検査で遠隔転移がなければ原発巣切除を推奨している。遠隔転移がある場合は化学療法が選択肢となるが,国内では有効な抗がん剤はダカルバジンに限られていた。しかし最近になって,新たに2つの新薬が登場した。その1つが分子標的薬のベムラフェニブである。

◆                ◆               ◆

 悪性黒色腫の多くは,BRAF遺伝子の突然変異により,600番目のアミノ酸であるバリン(V)がグルタミン酸などに変化している。悪性黒色腫患者のうち,白人では3人に2人,アジア人では3人に1人にBRAF遺伝子変異がある。

 ベムラフェニブは,BRAF V600変異発現がん細胞のシグナル伝達を選択的かつ強力に阻害することで,がん細胞の増殖抑制及び細胞死に誘導する。

◆                ◆               ◆

 海外第Ⅲ相試験は,BRAF V600変異を有する根治切除不能なⅢ期/Ⅳ期の悪性黒色腫患者675例を対象に行われた。無作為にダカルバジン群(3週間ごとに静注内投与)とベムラフェニブ群(1日2回経口投与)に分けて比較した。

 その結果,ベムラフェニブ群の無増悪期間中央値は5.32カ月で,ダカルバジン群(1.61カ月)を有意に上回った。病勢増悪または死亡の相対リスクは74%減少した。

 全生存期間中央値でも,ベムラフェニブ群(9.23カ月)はダカルバジン群(7.75カ月)を有意に上回った。死亡の相対リスクは63%減少していた。

 奏効率においても,ベムラフェニブ群(48.4%)はダカルバジン群(5.5%)を有意に上回る成績を示していた。

 ベムラフェニブ群の副作用は336例中326例(97.0%)に認められ,主なものは発疹(湿疹,丘疹等)(60.1%),関節痛(49.1%),光線過敏症(36.9 % ), 脱毛症(34.8%),疲労(41.1%)など。概ね忍容性があり,副作用の多くは休薬もしくは用量変更で対処可能だった。

 重大な副作用として皮膚有棘細胞がんなどがある。皮膚有棘細胞がんは,比較的予後の良好ながん(0~Ⅰ期で治療すれば5年生存率はほぼ100%)ではあるが注意は必要だろう。国内第Ⅰ/Ⅱ相試験(n=11)では,皮膚有棘細胞がんは認められていない。これが単に母数の少なさに拠るのか,人種差に拠るのかは現時点では明らかにされていない。

◆                ◆               ◆

 ベムラフェニブの悪性黒色腫患者への適応の判定には,コンパニオン診断薬の「コバスBRAF V600変異検出キット」を用いた遺伝子検査を行う必要がある。現時点では,同キット以外による検査や免疫染色によるベムラフェニブの適応判定は認められていない。

 実際の遺伝子変異測定では,ロシュ・ダイアグノスティックスが販売する自動測定装置(コバス4800システム コバス z480)を用いる。装置にサンプルをセットすると機械が自動的に解析し,測定結果がレポートとして出力される。

 検査に認められた保険点数は6,520点。「ベムラフェニブの投与方針の決定までの間に1回算定できる」とされた。

◆                ◆               ◆

 ベムラフェニブの国内治験例は数が非常に限られていること,これまでの国内外の検討で,皮膚有棘細胞がん,QT間隔の延長など重篤な副作用が起きていることから,販売後の安全対策にも注意が払われている。

 承認条件として,使用成績調査(全例調査)及び「医薬品リスク管理計画書(RMP)に基づく安全対策」の実施が課せられている。全例調査では6年をかけて500例の症例集積を目指す。

 さらに中外製薬独自の安全対策として,施設・使用予定医師に関する要件の確認,投与対象の慎重な選定,いざという時のための「ゼルボラフ緊急時連絡カード」の運用などを行う。中外製薬では,独自の安全対策を並行することで適正使用を徹底する意向だ。

◆                ◆               ◆

▷効能・効果=BRAF遺伝子変異を有する根治切除不能な悪性黒色腫

▷用法・用量=通常,成人にはベムラフェニブとして1回960mgを1日2回経口投与する。

▷薬価=240mg1錠 4,935.50円

 

MEDICAMENT NEWS 第2194号 5月5日