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ISBN 978-4-89801--
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老年科医のひとりごと 第80回

知らない貯金

井口 昭久
愛知淑徳大学健康医療科学部教授

 私の財布には三文判が入れてある.大学を卒業して初めて買った印鑑をそのまま持ち続けている.郵便局の貯金通帳のために買い求めたものである.囲みの部分が欠けているので印鑑を押してもまん丸にならない.「井口」の文字も欠けている.
 若い頃は1つだけしか持っていなかったので,何でもかんでもその印鑑で済ませていた.銀行の印鑑も,同じものを使っていた.長い間1つ持っていれば問題のない時代が続いた.
 貧相な印鑑のワリには通帳の中身は年代に応じて増えてきた.預金を預ける銀行も増えてきた.郵便局の通帳もなぜか増えたがその度に印鑑を用意した.どれも三文判であった.そして人生の中盤に差し掛かるころからどういういきさつでそうなったのか覚えていないが私の身の回りには10種類以上の三文判が散在するようになった.三文判はどれも似たようなもので私には見分けがつかない.
 銀行で預金を下ろそうとすると銀行員に「印鑑が違います」と言われたものだ.
 引き出しの奥から探し当てたそれらしき印鑑を再度持っていくと,銀行員は眺めまわして「これは違います」と言った.「丸い部分の欠け具合の違いであって中身は同じです」と私は主張したのだが「いいえ,中身が違います」とプロの目はごまかせなかった.
 最近では現金の引き出しも,各種支払いもコンビニで済ますので銀行や郵便局へ出掛けることはなくなった.
知らない貯金(W300) 最近の新聞によると引き取り手のない郵便局の貯金が数百億円もあるそうだ.そして古い貯金は払い戻せなくなるかもしれないという.私の知らぬ財産が眠っている可能性がある.
 古い印鑑でしか証明されない私の忘れていた莫大な貯金がなくなってしまうのではないかと心配になった.私は数種類の印鑑をもって郵便局へ出掛けた.
 そして「私の知らない貯金」を調べてもらった.
 結論は「そうした貯金は一切ない」ということだった.ひとりごと-バックナンバーバ