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老年科医のひとりごと 第7回

街の電気屋さん

井口 昭久
愛知淑徳大学健康医療科学部教授

 パソコンが動かなくなって蘇生しなくなった.初期反応はあるが,すぐに点滅しなくなった.思いあぐねて近所の電気屋の息子の携帯に電話をすると,すぐにかけつけてくれた.
 彼は大胆である.私がおそるおそる触っていたところも簡単に触って簡単にやり直す.そして,直してくれた.「どこが悪かったの?」と私が感激して訊くと,「さー」と言って説明できなかった.
 電気屋の息子は何でもできる.インターネットの不具合からテレビの故障,クーラーの修理やトイレの水回りの取り換えだってできる.
 医師でいえば「かかりつけ医」だ.
 しかし医師とは根本的にどこかが違うとずっと思っていたが,先日常備灯の修理をしてもらっているときに気がついた.
 電気屋は電線をいとも簡単に切断する.機械の中身を取り出して強引に引き出して切り捨てる.電気屋に「よくそんな乱暴なことができるね」と言うと,「だめなら新品にすればよいですから」と答えた.そこが外科医と違うところだ.電気屋は難しい作業は店に持ち帰って直してくる.
 それに電気屋は修理の前に説明しない.医師の場合,手術の手技を懇切丁寧に説明して,それによっ%e8%a1%97%e3%81%ae%e9%9b%bb%e6%b0%97%e5%b1%8b%e3%81%95%e3%82%93%e3%81%ae%e5%9b%b3w400て引き起こされる思わぬ副作用や事故も明らかにする義務があり,患者の同意を取らなければならない.この仕組みをインフォームドコンセントという.電気屋はこの面倒な作業を省いてしまう.治らなければ「治りません.新品にした方がいいですよ」と言うだけだ.
 テレビの受像機が時折消えてしまうので,電気屋の息子に来てもらって買い替えの相談をした.しかし「そろそろ寿命ですが,寿命が尽きるまでもう少し時間があると思いますので,それまで待ちましょう」と言った.
 その辺りの感じは医師に似ていなくもない.

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