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老年科医のひとりごと 第46回

老人差別は老人にあり

井口 昭久
愛知淑徳大学健康医療科学部教授

 Yさんは糖尿病患者である.私の外来に来るときには卓球場からの帰りのようで身軽な服装をした80歳の女性である.
 足元がきっちりとしまっているパンツとスポーツシューズを履いている.
 1週間に3回は市内の卓球場で過ごすらしい.
 私は彼女から毎回卓球の話を聞いているうちに最近の高齢者の卓球事情に詳しくなってきた.
 高齢者で卓球をする人が増えているそうだ.手先から指先まで様々な体の部分を使うために反射神経が向上し,競争心が出て若返るという.加えて,勝負をするときに頭を使うので認知症の予防にも役立つそうだ.
 Yさんは古い仲間たちとともに現在の卓球の発展に貢献してきたと自負している.
 最近では老人同士の人間関係がややこしくなっているらしい.
 「私は,40年も卓球をやってるんだけどね,嫌になっちゃうわ」
 「嫌になっちゃう」が口癖である.
 彼女が一番気に食わないのは,新しく入ってきた人たちに年寄り扱いされることだという.若い頃は,年を取れば取るほど年の差なんか気にならなくなるだろうと思っていたが,それが逆で年を取れば取るほど年の差が気になるんだそうだ.老人差別は老人にあり(W280)
 「あの人は私より1歳年上だとか,年下だとかさ」
 彼女は「お姉さん」といわれるのが一番嫌だという.「私は好き嫌いが激しい方でね.中には“ちょっとー?!”っていう人もいるわけよ」,「私を指さして,“小学校は一緒だったんだけどね,私より2つ年上でね,だからお姉さんなんだよね”なんていうわけよ」
 それでYさんは,その78歳の新人を仲間外れにしようと思っているのだそうだ.
 Yさんは「卓球は人間関係だよ,先生!」と言って「嫌になっちゃう」を繰り返した.

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