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ISBN 978-4-89801--
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老年科医のひとりごと 第32回

真夏の太陽

井口 昭久
愛知淑徳大学健康医療科学部教授

 私は毎朝,大学への通勤途中にコンビニに寄る.そこには登校途中の中学生や工事現場で働いている人もいる.

 大学で読むために読売新聞と,毎日新聞と朝日新聞を買う.家では配達されてくる中日新聞を読む.読売が130円である.毎日が140円で朝日が一番高くて150円である.新聞はどこのコンビニにも置いてある.根強い人気商品であるに違いない.
 新聞にはバーコードが付いていない.店員は価格表を確かめてからレジに打ち込まなければならない.だからちょっとした客の停滞が起きる.私はポケットから出した小銭を払う.右手に掴んだ1円玉や10円玉を数えながら並べてゆく.それを黙って見ていた店員は,「1円足りません」などと言う.

 新聞の文章は無駄がなく,形容詞がない.それに新聞はスキャンダルの宝庫である.

 大学病院にもコンビニがある.5年前の入院生活のときも新聞を読むのが日課であった.私は起床すると点滴台を引きずりながら病室を出て,病院の1階にあるコンビニへ行って新聞を買った.入院患者にとっては病室から出るだけでも大きな環境の変化であった.早朝のエレベーターは空いていた.
 私の病勢は深刻で,社会への復帰は困難であると誰もが思っていた.新聞を読むことで社会とつながっているように思えていたものだ.休刊日には病室に1人取り残されたような気分になった.真夏の太陽(トリミング済)W300
 4つの新聞を抱えてエレベーターに乗ると,勤務交代の看護師たちに出会った.病院の中では季節の移ろいは感じられず,太陽を見ない生活が一生続くであろうと思っていた.
 あれから5年が経った.この頃では,病気であったことを忘れて過ごす日が多くなった.
 コンビニを出ると,真夏の太陽の中に出た.危険な夏といわれているが,私には生きていることを実感する世界だ.

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