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老年科医のひとりごと 第24回

性格は変わらない

井口 昭久
愛知淑徳大学健康医療科学部教授

 吉岡さんはこの頃,暗い表情をすることがある.
 彼女は73歳で糖尿病の持病がある.言葉は断定的であるが断片的なので彼女の言いたいことの文脈を理解するには一呼吸置かなければならない.
 半ズボン履いて若々しいね,と私は運動靴を履いていた彼女に言った.
 「卓球やってるって前から言ってるじゃない」そういえば昔からピンポンをやっているといっていたっけ.
 「でもね,この前見ちゃったから」何を?「卓球やってるときに倒れてね.救急車がきたの」どこが悪かったの?「意識がなくなったの」もうよくなったの?「わからない」どうして?「あれから会っていないから」あなたが倒れたの?「違う.違う.友達が倒れたの」どうやら自分のことではないらしい.「だから私,最近自信がなくなっちゃったの」
 「それに主人が相手にしてくれないの」前から?「前は仲良かった」
 いくつになったんだっけ?「74歳だって前にも言ったでしょ」ご主人は元気?「すぐ怒るの」昔からそうだったの?「昔は優しかったんだけどね」性格が変わったの?「そう!性格が変わっちゃったの」そうかー.悲しいね.どういうときに怒るの?「私が外出すると怒るの.だからこの頃,話をしないの」家庭内離婚だね.寂しいね.「寂しいわ.先生何とかしてよ」何とかしてよって言われてもねー.
 卓球を一緒にやればいいじゃない.「それがダメなのよ.運動は全くやらないの」そうかー.動かな性格は変わらない(トリミング済W310)いの?「全然動かないの.テレビばっかり見てるの」そんなことしてたら寝たきりになるよって言いなさいよ.「そんなこと言ったらもっと怒られるわ」
 性格はいつから変わったの?「20年前から」そんなに前からか.
 「優しかったのは前の主人よ」なんだ,再婚か.「そうよ,前の人は優しかったんだけど,今の主人になってから怒りっぽくなったの」いつから?「ずっとよ」じゃ性格は変わってないってことじゃない.

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