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ISBN 978-4-89801--
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老年科医のひとりごと 第14回

卑しい老人

井口 昭久
愛知淑徳大学健康医療科学部教授

 私の現在勤務している所は女子学生が多数を占める大学である.
 教官たちの外見は若々しい.朱に交われば赤くなる.皆スマホをやっている.だから私も2年前にスマホを買った.しかしガラケーも手放せない.
 ほとんどスマホに触ることはないので進歩しない.必要がなければ進歩はない.
 私はなるべくガラケーを使っている現場は目撃されないように努力している.そしてスマホを見せびらかすことにしている.
 私は会議ではスマホをいじっている.日程表を覗いたり書き込んだりするふりをしているのだ.しかし実際の日程は紙のノートに書き込んでいてスマホを利用することはできない.
 スマホをいじっているときにガラケーに電話がかかってきたりする.スマホへ電話がかかってくることはない.誰にも電話番号を教えていないので当たり前だ.自分でもスマホの電話番号がわからない.
 スマホを指先でスイスイすると反応しなかったりし過ぎたりする.反応しないのは指先が乾燥しているからに違いない.私は老人性皮膚乾燥症である.反応するといきすぎてしまう.「う」を出したいのにあいうえおと「お」までいってしまう.
 「スイッチはいい加減に触ってはならない」と「痴漢をしていけない」と同じように人生のどこかで学んでいる.
 だからあちこち触ってみて違っていたらやり直すということが苦手だ.「アプリ」というやつは取返しがつかなくなりそうで怖くて手が出ない.ガラケイとスマホ(W270)
 「1度間違うと取り消しがつかなくなる」という先入観から抜け出せない.
 中身はガラケーで外見はスマホの形をした機械ができぬものかと思っている.
 「それではただの見栄だけじゃないですか」と学生に「じゃないですか」を強調して言われた.確かにただの見栄だけだ.
 「老年は青年より劣るものではない.老年が青年を演じようとするときにのみ老年は卑しいものとなる」と,ヘルマン・ヘッセは言っている.
 私は卑しい老人だ.

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