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ISBN 978-4-89801--
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新薬展望

低ホスファターゼ症治療剤「ストレンジック」―アレクシオンファーマ合同会社―

2015年11月08日

遺伝性疾患の骨石灰化障害を改善

 ストレンジック皮下注(一般名・アスホターゼ アルファ;遺伝子組換え)は希少な遺伝性疾患・低ホスファターゼ症(HPP)の酵素補充療法剤である。世界に先駆けて日本で承認された。HPPは骨の石灰化障害を特徴とする全身性代謝性疾患で,新生児・乳児では胸郭の骨の低石灰化による胸郭変形などで生命に関わることがあり,年長小児・成人ではQOLを著しく低下させる。同剤は欠損した酵素を主に骨を標的として補充することで,骨石灰化を促進し,正常な骨格形成を促す。骨格系合併症や機能障害,QOLも改善する。週6回または週3回投与する。副作用は注射部位反応など。重大な副作用として低カルシウム血症がある。

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 組織非特異型アルカリホスファターゼ(TNSALP)は全身に存在する酵素で,骨石灰化の役割や,ピリドキサール-5‘-リン酸(活性型ビタミンB6)を脱リン酸化して血液脳関門を通過できるようにする役割を担っている。HPPは,このTNSALPをコードする遺伝子の変異によりアルカリホスファターゼ(ALP)活性が低下・消失することで発症する。

 TNSALPが正常に機能していれば,骨芽細胞膜上で無機ピロリン酸(PPi)から無機リン酸が生成されてカルシウムと結合し,骨石灰化が生じる。しかし,ALP活性が低下・消失すると,基質であるPPiが蓄積し,骨石灰化障害をきたして骨の破壊や変形,重篤な筋力低下,筋骨格の疼痛などが生じる。胸郭の石灰化障害は呼吸機能障害につながる。カルシウムとリン酸が他の部位に蓄積することによる臓器障害も呈する。

 中枢神経系においては,ALP活性の低下・消失があると脳内でピリドキサールが生成されず,神経伝達物質が不足してけいれん発作(ビタミンB6依存性けいれん)を起こすことがある。

 HPPは国内に100~200人の患者がいると推定されている。発症時期と症状の広がりに基づき,最重症の「周産期致死型」から「周産期良性型」「乳児型」「小児型」「成人型」「歯限局型」まで6つの病型が知られている。新生児から成人まであらゆる年齢層に症状が現れ,その発現様式・部位は病型や患者ごとに異なる。

 治療はこれまで対症療法に限られていた。例えば,不十分な胸郭形成による呼吸不全に対しては気管挿管による人工呼吸,骨石灰化障害に伴う高カルシウム血症にはカルシウム制限食や利尿剤投与,ビタミンB6依存性けいれんに対してはビタミンB6投与である。

 最重症の周産期致死型はほとんどが1年以内に,重症である乳児型では半数が数年で死亡していた。死因は呼吸不全が多い。一方,周産期良性型の生命予後は良好である。

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 ストレンジックは,ヒトTNSALPの触媒領域にヒト免疫グロブリンG1のFc領域と10個のアスパラギン酸を結合させた融合蛋白製剤である。欠損しているTNSALPを補充することで,上昇したTNSALP基質(PPiなど)濃度が低下する。骨の石灰化障害が改善し,正常な骨形成が促進される。

 東北大学大学院の藤原幾磨教授(小児環境医学分野)は「酵素補充療法はこれまでも世界で試みられてきたが,骨に酵素を到達させることが難しかった。ストレンジックは10個のアスパラギン酸を分子に結合することで,骨のハイドロキシアパタイトに結合してとどまることができ,骨において酵素活性を示すことができるようになった」と解説する。

 日本人5例を含む国際共同試験は,5歳以下の周産期型および乳児型HPP患者28例を対象に6カ国で行われた。ストレンジックを週3回または週6回投与し,投与24週までのくる病所見の重症度の変化をX線画像で評価した。その結果,骨の石灰化を迅速かつ持続的に改善することが示された。改善は96週時点でも持続していた。168週時点の推定全生存率は84%だった。

 その他の海外で行われた臨床試験では,胸郭の石灰化と呼吸機能の改善,成長の改善,身体機能や運動能力の向上,疼痛の軽減,QOLの向上も認められた。

 国内外の臨床試験で副作用は71例中60例(84.5%)に認められ,主なものは注射部位紅斑(52.1%),注射部位変色(23.9%),注射部位疼痛(22.5%),注射部位そう痒感(19.7%),注射部位紅斑(15.5%),注射部位腫脹(15.5%)などだった。重大な副作用として低カルシウム血症に注意する。

 国際共同試験で示された全生存率の改善傾向について藤原氏は「胸郭の石灰化が促進され,呼吸機能が改善したことが理由と思われる」との見方を示す。その上で「回避可能な症状を確実に防ぐためには,早期にかつ正確にHPPを診断することが重要である。血清ALP値の低下や,骨格系,全身の特徴的な症状が認められたらHPPを疑っていただきたい」と話している。

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▷効能・効果
低ホスファターゼ症

▷用法・用量
通常,アスホターゼアルファ(遺伝子組換え)として,1回1mg/kgを週6回,または1回
2mg/kgを週3回皮下投与する。なお,患者の状態に応じて,適宜減量する。

▷薬価
12mg1瓶 131,859円
18mg1瓶 197,788円
28mg1瓶 307,671円
40mg1瓶 439,530円
80mg1瓶 879,061円

 

(佐賀 健)

MEDICAMENT NEWS 第2212号 11月5日