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ISBN 978-4-89801--
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新薬展望

ゴーシェ病治療用酵素製剤「ビプリブ」 ―シャイアー・ジャパン㈱―

2015年06月10日

希少疾患に新たな選択肢

 ビプリブ点滴静注用(一般名・ベラグルセラーゼ アルファ;遺伝子組換え)は,ゴーシェ病治療用酵素製剤である。同疾患で欠損あるいは低下している酵素・グルコセレブロシダーゼを補うことで,細胞に蓄積した糖脂質・グルコセレブロシドを分解し,諸症状(貧血,血小板減少症,肝脾腫及び骨症状)を改善する。隔週点滴静脈内投与する。ヒト細胞株から産生されるヒト型グルコセレブロシダーゼで,生体内酵素と同一のアミノ酸配列を有する。糖鎖修飾として高マンノース型糖鎖が付加されている。海外臨床試験での主な副作用は頭痛,浮動性めまいなど。

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 ゴーシェ病は,遺伝性の希少疾患であり,ライソゾーム病に分類される。症状や発症時期からⅠ型,Ⅱ型,Ⅲ型に分けられる。国内患者数は約150人と推定される。

 1998年に遺伝子組換えゴーシェ病治療剤のイミグルセラーゼが承認・発売され,ゴーシェ病の諸症状(貧血,血小板減少症,肝脾腫及び骨症状)の改善を目的に使用されている。

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 酵素補充療法の久々の新薬として開発されたのがビプリブである。製造販売するシャイアー社は英国で創業したグローバル製薬企業。希少疾患に特化した事業戦略をとっている。日本では提携先の企業を通じて複数の製品を販売しているが,初の自社販売品として,ビプリブを昨年9月に発売した。

 既存薬がチャイニーズハムスター卵巣細胞由来であるのに対して,ビプリブは遺伝子活性化技術によりヒト細胞株から産生されるのが特徴だ。生体内のグルコセレブロシダーゼとアミノ酸配列が同一であり,既存薬に比べて抗体産生率が低い。

 もう1つの特徴として,高マンノース型糖鎖が付加されていることが挙げられる。ビプリブは標的細胞であるマクロファージなどにマンノース受容体を介して取り込まれるが,高マンノース型糖鎖を付加することでマクロファージへの取り込み率がイミグルセラーゼの約2.5倍となっている。

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 海外臨床試験(TKT034試験)は,イミグルセラーゼからビプリブに切替えるデザインで行われた。イミグルセラーゼの投与を30カ月以上受けていた9歳以上のⅠ型ゴーシェ病患者40例を対象に,同じ用量のビプリブに切替え,隔週で51週投与した。その結果,同剤の忍容性はおおむね良好で,ヘモグロビン濃度,血小板数,肝容積,脾容積について効果の維持が認められた。

 別の海外臨床試験(HGT-GCB-039試験)は,未治療のⅠ型ゴーシェ病患者34例を対象に行われた。ビプリブ群またはイミグルセラーゼ群に無作為に分け,隔週で39週投与した。主要評価項目であるヘモグロビン濃度変化量でビプリブの非劣性が示された。

 承認時までの海外臨床試験で副作用は94例中44例(46.8%)に認められ,主なものは頭痛(10.6%),浮動性めまい(7.4%),関節痛(6.4%),悪心(6.4%),背部痛(5.3%)等だった。

 重大な副作用としてInfusion-related reaction(頭痛,浮動性めまい,低血圧,高血圧,悪心,疲労,無力症,発熱等)が発現する可能性がある。

 海外コア試験(TKT025試験,TKT032試験,HGT-GCB-039試験及びTKT034試験)においてビプリブに対するIgG抗体は94例中1例(1%)で報告された。ビプリブに対するIgE抗体が検出された患者は,現在確認されていないという。

 国内第Ⅲ相試験では6例中3例(50.0%)に副作用が認められた。内訳は,悪心/嘔吐,湿疹,網膜剥離/増殖性網膜症が各1例(16.7%)であった。Infusion-related reactionは1例(16.7%)に認められた。

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 同剤の上市で,患者数が極めて限られるゴーシェ病に新たな治療選択肢が導入されたことになる。例えば,既存薬で副作用が発現していたが他に選択肢がなかったために投与を続けている患者や,既存薬で治療目標に達していない患者,あるいは新規に診断された患者でビプリブの投与を検討できる。

 先に述べた産生細胞や製剤の違いが,臨床においてどのようなメリットとして現れるかは今後の報告に期待したい。

 海外のコホート研究では,イミグルセラーゼからビプリブに同一用量で切替えた19例のうち,切替え後にヘモグロビン濃度や血小板数の改善,肝容積,脾容積の減少がみられた患者がいた(Elsteinら,2012年)。論文ではこれを「ブースター効果」と表現している。

 なお,両剤とも酵素製剤なので血液脳関門を通過せず,神経症状に対しては効果が期待できない。

 ゴーシェ病は希少疾患だが,脾腫のある患者や原因不明の血小板減少が発現している患者などに,ゴーシェ病が疑われる例が含まれている可能性も考えられる。この疾患に改めて関心が持たれれば,それも新薬上市の一つの意義といえるだろう。

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▷効能・効果
ゴーシェ病の諸症状(貧血,血小板減少症,肝脾腫及び骨症状)の改善

▷用法・用量
通常,ベラグルセラーゼ アルファ(遺伝子組換え)として,1回体重1kgあたり60単位を隔週点滴静脈内投与する。

▷薬価
400単位1瓶 300,146円

(佐賀 健)

MEDICAMENT NEWS 第2197号 6月5日