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ISBN 978-4-89801--
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新薬展望

Rhoキナーゼ阻害薬 「グラナテック」 ―興和㈱―

2015年04月05日

Rhoキナーゼ阻害で眼圧下降

 グラナテック点眼液(一般名・リパスジル塩酸塩水和物)は主経路からの房水流出促進作用を有する世界初の作用機序の緑内障・高眼圧症治療剤である。蛋白リン酸化酵素の1つである「Rho(ロー)キナーゼ」を選択的に阻害し,房水流出路の流出抵抗を減少させて眼圧を下降させる。他剤が効果不十分または使用できない場合に用いる。臨床試験では,単剤でも併用でも優れた眼圧下降効果を示した。1日2回点眼する。副作用は結膜充血など。

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 緑内障に対するエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は眼圧を下降することである(日本緑内障学会「緑内障診療ガイドライン第3版」)。いったん失われた視野は元に戻らないので,生涯にわたる眼圧コントロールが必要となる。

 眼圧下降の点眼剤はプロスタグランジン(PG)関連薬やβ遮断薬が第1選択薬として汎用されている。いずれも有用性は確立しているが,PG関連薬は眼瞼や虹彩の色素沈着や睫毛が伸びるなどの局所性副作用が課題である。β遮断薬は徐脈などの副作用があり,心臓に障害がある患者,高齢者では使いづらいことがある。

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 Rhoキナーゼは平滑筋細胞の収縮,各種細胞の形態制御など,種々の生理機能の情報伝達に関与する低分子G蛋白の1つである。例えば血管平滑筋細胞なら,Rhoキナーゼを阻害すると血管弛緩の方向に働くことになる。

 もともとRhoキナーゼ阻害薬は循環器系薬として開発が進められていたが,2001年,京都大学のグループからRhoキナーゼ阻害薬の房水流出作用が報告され,興和も緑内障治療薬として開発を進めるようになった。実際に,ウサギを用いた基礎研究でグラナテックはPG関連薬よりも眼圧下降効果が優れていることがわかった。開発に拍車がかかり,Rhoキナーゼ阻害薬としては世界で初めての点眼剤として承認された。

 原発開放隅角緑内障の眼圧上昇は,主に線維柱帯における房水流出抵抗の増大が原因と考えられている。Rhoキナーゼ阻害薬は▷線維柱帯細胞の形態の変化▷細胞外マトリクスの変化▷シュレム管内皮細胞の接着への作用――によって,線維柱帯―シュレム管を介する主流出路からの房水流出を促進して眼圧を下降させる。

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 第Ⅲ相試験の1つは,β遮断薬チモロールで効果不十分な原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象に行われた。無作為に2群に分け,チモロールを継続しつつグラナテックまたはプラセボを識別不能なかたちで8週間投与した。

 その結果,朝点眼直前(被験薬の効果のトラフと見られる)の眼圧はベースラインからグラナテック群が2.4mmHg下降,プラセボ群が1.5mmHg下降,点眼2時間後(効果のピークと見られる)ではグラナテック群は2.9mmHg下降,プラセボ群が1.3mmHg下降で,いずれの時点もグラナテック群が有意に優れていた。

 同様に,PG関連薬ラタノプロストで効果不十分な患者に対してもグラナテックの上乗せ効果が確認された。

 承認時までの臨床試験で副作用は662例中500例(75.5%)に認められ,主なものは結膜充血(69.0%),結膜炎(アレルギー性結膜炎を含む)(10.7%),眼瞼炎(アレルギー性眼瞼炎を含む)(10.3%)などだった。

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 実際の治療では年齢や進行度などによって目標眼圧を設定し,それに応じて薬物治療などを行うことになる。グラナテックは他剤が効果不十分または使用できない場合に用いる薬剤とされており,こうした患者に対して上乗せあるいは切り替えで投与することが多いと見られる。他にも同様な位置づけの薬剤があり,具体的な使い分けはこれから検討されていくだろう。

 また,1年以上の長期使用のデータや,緑内障の病型による眼圧下降効果のより詳細な検討,そして様々な作用機序の薬剤との併用効果に関するデータの蓄積も望まれる。グラナテックはRhoキナーゼ阻害薬として世界に先駆けて日本で承認された緑内障・高眼圧症治療剤であり,日本からエビデンスを発信していくことが期待される。

 副作用の結膜充血は同剤の血管弛緩の薬理作用に基づくもので,点眼後発現と消失を繰り返す。臨床試験では,多くの場合,点眼後無処置で2時間程度で消失した。

 興和は同剤を処方された患者向けに,発現と消失を繰り返す一過性の充血は医学的には有害ではないが,持続する場合やかゆみを伴うような場合は眼科医に相談するように,医師や薬剤師を通じて情報提供を行っている。

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▷効能・効果=次の疾患で,他の緑内障治療薬が効果不十分または使用できない場合:緑内障,高眼圧症
▷用法・用量=1回1滴,1日2回点眼する。
▷薬価=0.4%1mL 451円

MEDICAMENT NEWS 第2191号 4月5日