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特集 災害時の循環器疾患対策 監修 苅尾 七臣 氏

総論:被災地における血圧管理の重要性 Interview

刈尾タイトル_y650 

 MEDICAMENT NEWS 第2230号 2016年5月5日

 阪神・淡路大震災から21年,東日本大震災から5年。災害に見舞われた被災者の精神的・肉体的ストレスは,循環器疾患にどのような影響を及ぼすのか。また,災害に強い医療システムとはどのようなものか。今回の特集は,2つの大震災に深く関わり,災害時の血圧管理の重要性を明らかにしてきた自治医科大学の苅尾七臣教授に監修を依頼した。苅尾教授は,3学会合同で作成された『2014年版 災害時循環器疾患の予防・管理に関するガイドライン』の班長の一人である。各論では災害時における疾患対策,生活環境の整備,メンタルヘルス,栄養管理などのテーマで6人の執筆者に原稿をお願いした。本総論では,阪神淡路大震災で得られた災害時の循環器疾患予防対策を紹介いただき,東日本大震災に被災した南三陸町に対して,自治医科大学が現在も支援を続けているDCAPネットワークシステムによる「南三陸研究」のデータについても解説いただいた。苅尾教授は,災害時には医療者の日々の医療に対する姿勢が露わになるとし,日頃からの連携体制構築の重要性を強調した。

 

記録を残すことの重要性

――苅尾先生は,21年前の阪神淡路大震災でも医療活動をされていますが,まず当時のご経験についてお願いします。

苅尾 1995年1月17日午前5時47分,阪神淡路大震災が起こりました。震源地は淡路島北部の明石海峡で,近くに野島断層がありました。その頃私は,淡路島国保北淡診療所に勤めていましたので,連日夜を徹して診療に当たりました。

 その後,医師会の要請で,記録を残そうと当時の津名郡における心血管死亡件数のデータをまとめました。1995年1月から4月で冠動脈疾患による死亡は前年と比べ約1.5倍,脳卒中による死亡は約1.9倍,2つを合わせた心血管疾患死亡は約1.7倍となり,心血管疾患リスクが非常に高まっている状況が明らかになりました。

――記録を残せたことがよかったですね。

苅尾 すべてレトロスペクティブなデータですが,北淡町では震災前よりプロスペクティブに自治医科大学高血圧ネットワーク研究が走っていたことや,淡路島は人の出入りが比較的少なかったことが幸いしました。避難所も同じ地域だったこと,ただし,最も大きかった要因は,医師会や行政が日頃から連携し,よくまとまっていたことです。この時に顕著に認められたのが高血圧でした。震災前から比べると震災後1~2週間経つと収縮期血圧で約17mmHgほど血圧が上昇していました。その後,3~5週間の時点で普通の人は正常値に血圧が戻りますが,その後も高血圧が持続する人たちがあり,この人たちは微量アルブミン尿が認められる腎機能が低下しているグループでした(図1) 

 

図1_2_y600

 

予防できる災害時の循環器疾患とは

――高血圧以外にもリスクとなるものは。

苅尾 血液の凝固能の亢進です。血栓マーカーのD-dimerが震災後1~2週間で上昇します。しかもこの上昇はストレスが強い人ほど大きくなる。つまり,避難所であまり体を動かさなくなったり,強いストレスに曝された場合には血液の血栓傾向が高まり,肺塞栓症や深部静脈血栓症の発症リスクが高まります。

 災害時に発症する関連疾患を経時的に見ていくと,災害直後は外傷,圧死,溺死などが起こります。その後1週間ほどで,ストレス関連の循環器疾患のたこつぼ型心筋症,突然死,肺塞栓症などがあり,感染症や精神疾患にも注意が必要です。さらに災害後数カ月の間に発症する高血圧関連疾患として脳卒中,心筋梗塞,大動脈解離,心不全,そして肺塞栓症とこれらの高血圧関連疾患は,対策を講じることで予防できる疾患です。

 

災害時の循環器疾患の発症機序をもとにした予防対策

――具体的な高血圧関連疾患の予防対策について。

苅尾 私たちは阪神淡路大震災のデータから,災害時には,血圧上昇と血液の凝固能の亢進によって,循環器疾患の発症リスクが高まっていくという機序を考えました1)(図2)

 災害ストレスは,精神的ストレスを高め,不眠によるサーカディアンリズムの消失を招きます。これらによって交感神経が活性化されると,β1受容体の作用によってレニンが亢進し食塩を蓄えやすくし,血圧上昇の要因となります。さらに寒さ,感染,脱水,身体活動の低下によっても血液は固まりやすくなります。

 これらの機序の中のそれぞれの要因を進行させないような手を打てば,それが予防につながります。例えば,適切な睡眠(夜間の6時間以上の良質な睡眠)によって交感神経を鎮めることができ,また減塩対策を講じることで血圧上昇を抑えられます。血液の凝固能亢進を抑制するには,水分補給と適切な運動が必要となります。

 実際に私と当院臨床栄養部の佐藤敏子先生は,災害時の高血圧対策の重要性を知ってもらうために東日本大震災2カ月後の5月に「災害時こそ,睡眠と減塩を!」の記事(「NHKきょうの健康」2011年6月号)を執筆し,それをパンフレットにして被災地の皆さんに配布しました。

 こうした考え方に基づき,私たちは災害時の循環器疾患の予防対策を立てました。まず,リスクスコアと予防スコアの2つのチェックシートを作成したのです。

 

図2_y600

 

 リスクスコア(表1)は,年齢(75歳以上),家族(死亡または入院有り),家屋(全壊),地域社会(全滅),高血圧(治療中,または収縮期血圧>160mmHg),糖尿病,循環器疾患の既往の7項目をそれぞれ1点とし,合計7点で4点以上をハイリスク群としました。

 もう1つの予防スコア(表2)は,睡眠の改善,運動の維持,良質な食事,体重の維持,感染症予防,血栓予防,薬の継続,血圧管理の8項目です。実はこのチェック項目を裏返せばリスクスコアになり,表1表2を合わせることで15点満点のリスクスコアになります。最初からリスクスコアが15項目もあって,どんどんチェック項目が増えてしまうと気が滅入るものです。予防スコアとして手元に置き,チェック項目が増えれば,循環器疾患を予防できるということなら,疾患予防に対するモチベーションも維持できるのではないかと工夫しました。予防スコアの方がリスクスコアよりも点数が大きいことが被災心理上の要点です。

 

表1_y600

 

表2_y600

 

*表1,表2のDCAPリスクスコア,DCAP予防スコアにつきましては,画像をクリックいただくことで,
   PDFデータが立ち上がり印刷もできます。実地臨床の現場でご利用いただければ幸いです。

PDFファイルをご覧になるにはAdobe Readerが必要です。img_acrbatreader
プラグインをお持ちでない方は左記ボタンよりソフトをダウンロードしてください。

 

ICTシステムを活用したDCAPネットワーク

――被災された人たちを継続的にフォローしていく必要がありますね。

苅尾 東日本大震災の際に私たちは被災した宮城県の南三陸町の支援に向かいました。公立南三陸診療所(当時)に当大学の卒業生である西澤匡史先生が勤務されていたからです。震災の1カ月半後にはICT(Information and Communication Technology)を利用して遠隔血圧モニタリング・リスク管理を行う「災害時循環器予防ネットワーク( Disaster Cardiovascular Prevention(DCAP)Network)」システム(以下,DCAPシステム)を導入しました(図3)。このシステム構築には,血圧計開発メーカーであるA&D社をはじめとし,多くの関連企業が無償ボランティアで参画いただき,誠に感謝しています。このシステムは,被災者の皆さん一人ひとりに健康管理カードを作っていただき,避難所や被災者の自宅に家庭血圧計を設置することで,そこで計測されたデータをクラウド上のデータセンターに送信し,個々人の健康データとして蓄積していくものです。先ほどのリスクスコアと予防スコアのデータも同様に記録されています。クラウド上のデータを当院の循環器内科で確認し,ハイリスクと認められた人のデータを南三陸町の医療機関に送ることで,その人の新たな治療介入が始まります。

 

図3_y600

 

 高血圧を管理する基準として,私たちは「災害高血圧(Disaster Hypertension)」を「災害後に生じる高血圧(≧140/90mmHg)」と定義し,血圧管理フローチャートを作成しました2)(図4)。災害高血圧の特徴は,被災直後から発生して,生活環境と生活習慣が回復・安定するまで持続するものです。災害後の2~4週間で血圧はピークに達し,平均5~25mmHgほど上昇します。そしてこの血圧上昇は白衣効果と個人差が非常に大きいことが特徴になります。例えば,災害前に130mmHg程度だった人が災害後に200mmHg以上にもなる場合がある。通常,災害高血圧は一過性ですが,高齢者,CKD,肥満,メタボリックシンドロームなどで食塩感受性が亢進している場合には,高血圧が遷延していくため,注意が必要になります。

 災害直後から2カ月間くらいは,図4の血圧管理フローチャートに従い,2週間ごとに治療の見直しを行っていましたが,このDCAPシステムによって,その後も411名の方たちを家庭血圧とABPM(24時間血圧モニタリング)の両方を使って継続的にフォローしています(2016年2月時点)。南三陸病院の西澤匡史先生と当院の循環器内科の連携の下で行われているこの取り組みを,私たちは「南三陸研究(Minamisanriku Recovery from the Earthquake Study)」と呼んでいます。

 

図4_y600

 

DCAPシステムの個別治療で良好な血圧管理が可能に

――南三陸研究の成果について。

苅尾 ICTと家庭血圧・ABPMを組み合わせたDCAPシステムにより一人ひとりの患者さんの長期フォローが可能になりました。血圧変動の長期データが蓄積され,変動が予想される時期にきめ細かな治療介入を行うことで,理想的な血圧コントロールが実現できました。震災後1年ほどは,震災ストレスと環境の変化が大きいのですが,2年目以降は血圧の季節変動が見られるようになってきます。血圧の季節変動は気温が大きく関係し,寒くなるほど血圧は高くなります。個々の患者さんのデータを毎年記録しておくことで,同じ時期に血圧が上がることが予想できるため,一人ひとりに応じた薬剤調節を節目,節目の時期に行っていくと,結果的に1年を通じて,収縮期血圧が平均125mmHg程度という正常域に血圧をコントロールできるようになりました。これは米国の高血圧治療における関連合併症の予防効果を見たSPRINT(Systolic Blood Pressure Intervention Trial)の大規模研究の結果を裏付けるものです。SPRINTでは,収縮期血圧120mmHg未満目標群が140mmHg未満目標群に比べ,心血管病発症率を有意に低下させていました3)。私たちがICTを用いて行ったDCAPシステムによる血圧管理はそのレベルに達したということです。

 自治医科大学ではABPMを用いたJAMP研究(Japan Ambulatory Blood Pressure Prospective Study)を行っていますが,既にデータが得られているJAMP研究の全国5,000人ほどのデータと南三陸研究のデータを比較すると,24時間血圧で収縮期血圧が130mmHg以上の高血圧群がJAMP研究では約6割に対し,南三陸研究では約4割になりました。つまり,南三陸研究の方が血圧のコントロール状況が良いという結果なのです。

 降圧薬の使い分けについての検討はまだですが,阪神淡路大震災の時には交感神経のアドレナリン受容体に作用するβ遮断薬やα遮断薬が以前から投与されていた人では,血圧の急激な上昇が見られませんでした。β遮断薬については,早朝の心筋虚血を抑制することが知られています。

 

住環境が血圧に影響を与える~ウィンター・モーニングサージに注意~

――被災地の方たちのほうが良好な血圧管理が達成されているのですね。

苅尾 DCAPシステムのおかげです。南三陸町における南三陸研究の取り組みは「震災からリカバリーしてさらによい健康を手に入れよう」という意味合いが込められています。

 ところが最近,残念ながら脳卒中を発症した方が1例いらっしゃいました。この方は70代男性で,診察室での収縮期血圧が122mmHgと正常域でした。ただし,糖尿病,高血圧,脂質異常症の既往があり,頸動脈肥厚は1.2mm,ABI(足関節上腕血圧比)は0.89と全身の動脈硬化がやや進んでいました。24時間血圧でも平均の収縮期血圧は122mmHgなのですが,冬季の早朝2時間の平均をみると4.5mmHg程度上昇していました。一般に早朝血圧は4mmHg上がると脳卒中リスクが20%上昇すると言われています。この患者さんは避難所から自宅に戻られた方でした。気温と血圧は高齢者においては非常に関連性があって,特に冬季は血圧モーニングサージが増強します(図5)。私たちは冬季の早朝高血圧が高齢者の循環器疾患の発症リスクであるとして,これを「ウィンター・モーニングサージ」と呼び,警鐘を鳴らしていました4)

 今回の東日本大震災では,生活環境が循環器疾患に及ぼす影響についても検討を行っています。避難所から仮設住宅に移られた人とご自宅に戻られた人を比較してみると冬季に自宅に戻られた高齢者の方々の血圧が10mmHgほど上昇していました。慶應義塾大学工学部と自治医科大学との共同研究では,床上10cmの温度は床上1mの温度より密接に血圧と関係していることが分かりました(文献作成中)。つまり足元の温度が重要なのです。また,家の中の温度が一様に同じならいいのですが,寒いところから急に暖かいところに移動したりすると血圧は変動します。平面的な温度の均一性が冬季の血圧上昇を防ぐ上で大切であることが明らかになってきました。仮設住宅には断熱性が優れた建材が使われており,また各部屋が隣接しているので暖まりやすい。一方,自宅で暮らしている人のほうが断熱性の乏しい環境に置かれている。したがって今後,ウィンター・モーニングサージを防ぐためには,きめ細かな薬物療法に加えて,住環境への配慮も必要になってきます。

 

図5_y600

 

災害に強い医療体制の構築のためには~日頃の連携づくりの大切さ~

――南三陸研究のデータで,次々に新たな知見が得られているのですね。

苅尾 今回の南三陸研究の取り組みは,個々人のデータがクラウド上に蓄積され,遠隔地(自治医科大学)で管理されるという点で,今後,万が一災害に見舞われた場合でも,そのデータは安全に保存されます。投与されている薬剤の履歴も記録されており,新たな災害でストレス状態に陥った際でも平常の時の状況と容易に比較できます。通常の血圧変動枠からどれだけ逸脱し,そして収束していくかが明らかになり,それらをチェックして新たな介入が必要になってくれば,地域の医療者に連絡して薬剤を処方してもらいます。通常の枠内に血圧が収まっている人はわざわざ地域の病院に行かなくてもよい。つまり,先手先手の循環器疾患の予防医療が可能になるのです。今回,南三陸町に導入されたDCAPシステムは災害に強いシステムであると同時にオーダーメイドの予防医療を達成できるシステムでもあると言えます。

――災害に強い医療体制を作っていくためには?

苅尾 災害時には日頃どのような姿勢で医療と関わっているかが問われます。つまり災害は一種のストレス負荷試験なのです。社会に対し医療を通じてその医療者がどんなスタンスで何をやってきたが浮き彫りになります。やはり医療者であるならば,災害が起こった際には何を置いても医療現場に駆け付けるべきでしょう。その意味で日頃から人間性を磨いておくことは大切です。次の段階は,災害の起こった地域にそのような医療者が何人いて,その人たちがいかに連携できるかです。日頃から医療連携体制がしっかり取れていれば,災害が起こり道路が寸断されたとしても,キーパーソンとなる人たちが連絡を取り合い,役割分担することで,スムーズに仕事は進んでいきます。東日本大震災での南三陸町では,西澤先生がいてくれたので,うまくいきました。志のあるボランティアがたくさん来てくれても司令塔になる人がいなければ,皆何をしていいか分からないので動けません。ですから,地域医療における連携の絆を日頃から作っておく必要があるのです。南三陸町においては,その連携の絆とICTシステムがうまく連動した形になりました。

 

「南三陸研究」の可能性~良好な血圧管理後の問題は腎障害と認知症~

――南三陸研究は,これからの日本の地域医療のモデルケースになるのでは?

苅尾 今回の取り組みは,集団に対する医療ではなく,一人ひとりに対しどのような個別治療を行って,どれだけ個別の予防医療を実現できるかがテーマになりました。災害時には個々の人たちでストレスの現われ方もそれぞれ違うため,個別治療でなければうまく対応できないことも分かりました。その意味で,血圧と心拍数はストレス状態のバイオマーカーです。家庭血圧とICTのおかげで,個々人のデータが蓄積され,血圧コントロールを主体とした個別治療に応用できるようになりました。南三陸町には,6つあった診療所が3つに半減しましたが,南三陸研究の取り組みによって,医療の質は落とさずに良い結果を得ることができました。医療資源の乏しい地域の医療にとってこのようなICTシステムは今後ますます重要になってくると思います。その意味で南三陸研究をきちんとデータ化し,広く発信していく必要があります。

 東日本大震災からほぼ5年が経ち,南三陸町で脳卒中になった方は先ほど紹介した1例のみで,心不全の方も3例です(2016年2月時点)。生活環境も考慮しながら収縮期血圧120mmHg未満という非常に良好な血圧管理が可能になると,循環器イベントを劇的に減らせられるということが分かりました。そのようなパーフェクトな血圧管理が達成された後に,次は何が課題となってくるのか? 実は南三陸町では既に問題となっていて,それが認知症と腎障害です。この2つは,南三陸研究の取り組みによる血圧管理をもってしても,まだ十分に抑制されるかどうかわかりません。

 

地域の特性を見据えた医療が世界のフロントラインに~必要なのはシステムを動かす人材~

――南三陸研究が継続されれば,それらの問題究明にも役立ちそうですね。

苅尾 南三陸研究では,月に1回,当院に阪神淡路大震災で一緒に医療に従事した恩師・松尾武文先生(前・兵庫県立淡路病院院長,現・自治医科大学客員教授) や西澤先生たちが集まって,南三陸町のデータを検討しています。地域医療というものは,目の前の患者さんの治療に真剣に向き合うことが大切ですが,医学の進歩に貢献するという面では少し遠いイメージがあるかもしれません。しかし,この地域医療の場こそが世界のフロントラインでもあるのです。一人ひとりの患者さんを診ながら,新しい視点とICTを導入することで,被災地や医療資源の少ない地域でも理想的な医療が可能になる。そのシステムモデルを私たちは発信していきたいですね。

 全国規模の研究などでは全てのデータが平均化されて検討されますが,今回の南三陸町のデータは,季節変動や生活環境などの地域特性を詳細に検討していくことで,良好な血圧管理が達成できました。最も予後が悪いと思われた被災地住民の予後,全国平均よりも格段に改善される可能性もあるのです。これからの研究の方向性として,こうした個人や地域の特性に着目することがますます求められていくと思います。

 ただし,どんなにいいシステムを作っても,その価値がわかり,蓄積されたデータからその重要性を引き出せる人材がいなければ,力は発揮できません。システムは受け手側に主導権が託されています。今回のDCAPシステムは突貫工事で作ってもらったものの,3つのシステムのうち1つは壊れてしまいました。2つのシステムで始めたのですが,西澤先生たちのような地域医療に対し震災前から真剣に取り組んでいた人たちだからこそ,そのシステムの重要性を理解し,うまく活用することができたのです。日頃の価値観と危急の時の瞬発力能力が災害医療には必要です。繰り返しますが,災害時にこそ,地域医療体制の全てが露わになり,医療者の本質が問われます。まさにストレス負荷試験です。災害時の医療を考えることは,超高齢化する地域医療という大問題を考えることと同義でもあるのです。

(2016年2月1日,自治医科大学にて収録)

文献
1) Kario K:Measuring the effects of stress on the cardiovascular system during a disaster:the effective use of self-measured blood pressure monitoring. J Hypertens 28(4):657-659, 2010
2) Kario K:Disaster hypertension―its characteristics, mechanism, and management― . Circ J 76( 3):553-562, 2012
3) SPRINT Research Group, Wright JT Jr, et al:A Randomized Trial of Intensive versus Standard Blood-Pressure Control. N Engl J Med 373(22):2103-2116. 2015
4) Kario K:Caution for winter morning surge in blood pressure:a possible link with cardiovascular risk in the elderly. Hypertension 47( 2 ):139-140, 2006

 

編集部より
 4月14日以降に発生した熊本県を中心とする地震により被災された皆様におかれましては心よりお見舞い申し上げます。また被災地医療現場でのご支援に当たられておられる医療者および関係者の皆様には感謝の気持ちと共に適切な情報の下で支援活動が遅滞なく行われることを強く祈念いたしております。
 4月18日には,日本循環器学会・日本心臓病学会・日本高血圧学会により,「避難所における循環器疾患の予防」に関する3学会共同声明が出されました。本声明では「災害時循環器疾患の管理・予防に関するガイドライン」より,避難所における循環器疾患の予防の9つのポイント(①睡眠の改善,②運動の維持,③血栓予防,④良質な食事,⑤体重の維持,⑥感染症の予防,⑦内服薬の継続,⑧血圧の管理,⑨禁煙の勧め)がまとめられ,示されています。その詳細およびガイドライン(オリジナル版,ダイジェスト版)は,3学会のいずれのホームページでも閲覧可能です。

 MEDICAMENT NEWS 第2230号 2016年5月5日