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特集 急性心不全の初期治療に必要なリスク層別化 監修 佐藤 直樹 氏

MEDICAMENT NEWS 第2207号 2015年9月15日

総論:リスク層別化の意義と疾患啓発の重要性 Interview

 急性心不全は肺水腫により突然呼吸困難をきたして救急外来を受診する症例が多い。その生命予後は非常に悪く,がんに匹敵する。ただし,急性期の迅速な初期治療とその後の適切な慢性期の治療継続により,その予後は改善させることが可能であるという。今回は日本医科大学武蔵小杉病院循環器内科の佐藤直樹教授に監修をお願いし,急性心不全の初期治療において重要な役割を果たすリスク層別化についての特集を企画した。本総論において佐藤教授は,急性心不全の早期発見と初期治療の重要性を解説され,その後の適切な治療継続や心不全早期発見のために必要となる疾患啓発に関するNPO法人「日本心不全ネットワーク」の取り組みについても紹介をいただいた。

 

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きわめて悪い急性心不全の予後

――急性心不全治療の現状について。

佐藤 急性心不全患者さんの院内死亡率は6%程度で,心筋梗塞とそれほど変わりません。ところが,1年後の心不全の総死亡率は約20%ときわめて悪いのです。心筋梗塞では急性期に救命できれば1年以内の再発は非常に稀になった現状を考えると,これは深刻な状況であり,現在,循環器系疾患の最も重要な課題と言われています。このデータは,私たちが行っている急性心不全疫学研究のATTEND registryから得られたもの1)で,年齢が高く,入院時の収縮期血圧が低ければ低いほど,生命予後が悪化することも明らかになりました(図1)。このようなリスク層別化を念頭においた急性心不全対応がなされているのかと言えば,まだ不十分であると言わざるを得ません。


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図1 入院時収縮期血圧(SBP)によるリスク層別
( Kajimoto K, Sato N, Takano T, et al:Int J Cardiol 191:100-106, 2015より一部改変)

 

 一方,患者さん自身にも急性心不全の予後はがんと同じくらい悪いのだという危機感がありません。したがって,退院するとすぐ薬剤の服用を止めてしまったり,病院に来なくなったりして,結局再入院を繰り返すことになります。早期からの適切な治療とそれに続く慢性期の適切な治療の継続が心不全には求められますが,その理解が医療側にも一般の人たちにも浸透していないのが急性心不全治療の現状であり,この理解が広まらない限り,急性心不全における様々な問題も解決できないと思います。その意味で,リスク層別化は大変重要になってくるのです。

 

クリニカルシナリオは超急性期対応の重要性を示す

――リスク層別化について。

佐藤 リスク層別化として最もシンプルで分かりやすいのは,急性心不全の病態把握を収縮期血圧によって5つに分類したクリニカルシナリオです。2008年にフランスのMebazaaらによって提唱されました2)。収縮期血圧が急性心不全の強力な予後規定因子であることは欧米で広く理解が得られており,先述のATTEND registryでは日本人のデータでそのことを再確認しています。

 クリニカルシナリオは病態と収縮期血圧に着目することで,心不全発症後,早期にリスク層別化を行い,一刻も早く治療を開始せよと指示しています。発症後90~120分以内には治療を開始することで生命予後の改善が期待し得るからです。 

 

急性期対応の後には必ず循環器専門医に紹介を

――日本でクリニカルシナリオは普及していますか。

佐藤 かなり普及してきていると思います。日本循環器学会の「急性心不全治療ガイドライン」(2011年改訂版)3)にも取り上げられました。

 ただし,Mebazaaらが最も伝えたかったのは,時間軸の重要性です。もともとクリニカルシナリオは,救急隊員や救命救急部などの循環器非専門医を対象とし,発症後90~120分という超急性期の初期対応を的確に行うために作られたものです。つまり,先ほど強調した初期対応が患者の予後に大きく影響するという考えがベースにあります。また,治療が奏効し病態が変化すれば,自ずと治療も変更する必要があります。このように急性期から慢性期へかけた一連の病態に応じた加療が必要なのです。

 しかし,心筋梗塞の場合なら一般内科医は患者さんをすぐ循環器専門医に紹介すると思いますが,急性心不全の場合は,利尿薬投与等で病態が安定してしまうと,その後,循環器専門医による慢性心不全に対する標準治療を受けることがないままになってしまうことも少なくないと思います。一見,うまくいっている急性期対応が実は臓器予備能を失うことになっていたり,その後の慢性期治療がしっかりと行われていなかったりということもあり,このような状況では,心不全の予後改善は期待できないと考えられます。

 急性心不全の迅速な治療を心がけていただき,その後の治療について必ず循環器専門医に紹介するという連携を取っていただくことで,今後,急性心不全患者の予後改善は少なからず改善すると思います。

 

日本心不全ネットワークの活動

――心不全治療の啓発活動について。

佐藤 ATTEND registryの運営組織であるATTEND研究会を母体として,私たちは2014年9月にNPO法人日本心不全ネットワークを設立しました。循環器専門医,実地医家の先生方,理学療法士など,急性心不全治療に関わる多くの医療関係者の皆さんに参加していただいています。ホームページ(http://nhfn.jp/) による啓発活動の他に一般市民や医師・看護師などの医療関係者を対象としたセミナーや講演会などを企画・開催していきたいと考えています。また,若手の循環器専門医の育成やATTEND registryデータベースを基にした基礎研究,臨床研究も引き続き行っていく予定です。

 急性心不全は心筋梗塞における胸痛といった特異的な症状がなく,息切れ(肺水腫),手足のむくみ(体液貯留),倦怠感(低心拍出)などが代表的な症状になります。このよう症状があれば,急性心不全ではないかと疑って,病院に行っていただくだけでも早期発見が可能になり,初期治療を開始できるのです。日本心不全ネットワークのホームページでは,「症状チェックシート」や四コマ漫画を使った「ハートさんコラム」(図2)などで,心不全の症状をとてもわかりやすく紹介していますので,ぜひ多くの皆さんに閲覧していただければと思います

 

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図2 日本心不全ネットワークのホームページより「ハートさんコラム」(http://nhfn.jp/)

 

 

急性心不全治療薬の最新の話題

――薬物治療の最近の話題について。

佐藤 急性心不全治療薬については,過去10年以上,生命予後を改善できた薬剤は出てきていません。ただし現在,serelaxinという急性心不全治療薬の開発が進められていて,生命予後を改善する可能性が示唆され注目を集めています。日本を含むアジアでも治験(第Ⅲ相試験)が行われていますが,最初にお話ししたように急性心不全の治療は初期対応がきわめて重要であるため,適確基準として来院から16時間以内にランダム化可能な患者と指定されています。

 欧米で施行された治験では,来院から平均約7時間で薬剤の投与がなされています。薬剤の保護作用のみならず,この早期介入の基準も関与して,各種バイオマーカー変化の結果から,臓器障害が抑制でき予後改善につながっていることが示唆されています。過去の反省を踏まえ,急性心不全治療ではできるだけ早期に適切な治療を行うという考え方が,新薬開発の治験プロトコールにも反映されるようになったということです。

 ただし,このserelaxinは全ての急性心不全患者を対象とするのではなく,収縮期血圧が125mmHg以上の患者に限定しています。これからの新薬の開発は,こうしたある程度対象を絞り,安全性も考慮しながら効果を確認していくという流れになっていくでしょう。つまり,薬剤も病態や時期によってそれぞれ使い分けをしながら,急性心不全患者さんの生命予後を改善していくアプローチが求められていくようになると思います。

 一方,慢性期に向けた治療に関して,急性心不全の退院時の薬物治療のわが国の現状は,ATTEND registryによれば,ACE阻害薬あるいはARB,β遮断薬は約70%に処方されています。心不全標準治療をより広く普及させるためには,循環器内科医との連携をしっかりとっていただきたいと思います。

 

急性期から慢性期に求められる緊密な医療連携

――心不全治療の今後の展望について。

佐藤 高齢化が進み高齢者の心不全が増加していくことは間違いありません。これまでお話ししたように急性心不全治療の目標として生命予後の改善は最も大切ですが,心不全の病態が安定したら早期にリハビリテーションを開始することも同様に重要になります。高齢患者では,1週間の入院で低下してしまった筋力を回復するのに約1カ月はかかります。

 日本の急性心不全患者さんの入院期間は平均で約1カ月です。心不全は治ったけれど,立てなくなったでは困ります。うっ血をしっかりとコントロールして入院期間は短ければ短いほどいいのです。ですからQOLの改善を治療目標とする場合にも時間軸を考えた治療をしていかなければなりません。

 

――急性期医療と慢性期医療の連携も大切ですね。

佐藤 今後,地域包括ケアの体制が整備されていったとしても,患者さんを寝たきりの状態で自宅や施設に帰してしまっては,その後のケアはきわめて難しいものになります。入院してからの1~2日という短期間の対応によってその後の患者さんのQOLや生命予後が大きく変わってしまうということを急性期医療に携わる人たちはまず認識してほしいと思います。退院後の患者の生活を考えながら急性期治療に当たっていく。そうしなければ心不全患者の再入院を減らしていくことも難しいと感じています。

 

――退院後の注意点としては?

佐藤 慢性心不全の急性増悪で入院となる場合は,入院となる約2週間前から体重が増えたり,むくみが出現しているとの報告があります。そのような変化を早めに察知することが大切です。患者さん本人や家族の方,介護スタッフの皆さんにも心不全の症状のチェックポイントを知っていただき,症状が認められれば早めに医療機関を受診することで,再入院を回避できるケースもあります。このような背景を基に私たちは心不全の症状チェックシートを作成していて,心不全を早期に発見して治療介入するシステムを開始します。

 コールセンターから患者さんご本人あるいは家族を含めてケアにあたる方に連絡を入れ,チェックシートの結果で点数の高い患者は,循環器専門医への受診勧奨をするというシステムです。漠然と血圧や脈拍などのデータをモニタリングしても,心不全の再入院を予防することはできません。息苦しさやむくみなどの情報をきちんと仕分けて,変化があった際には治療介入するといった,個々のケースに応じた情報を管理するシステムが求められるようになると考えています。

 

――多くの人に心不全の知識を持っていただかなければいけませんね。

佐藤 その通りです。例えば,慢性心不全の患者さんには,「朝起きたら必ず足のむくみをチェックしてください」と,具体的にやり方を示して伝え,「押して指の痕が大きく残るようならば,とにかく病院に連絡してください」とお願いしています。これなら高齢の患者さんでも多くの人でチェックをすることが可能です。認知症の患者さんでも家族の方や介護スタッフが見てあげればチェックはできます。また,体重の変化も体液貯留を確認するのに便利です。

 このように,患者さんを含め周囲の人たちが正確な心不全という疾患の理解を共有することで,早期発見・早期治療介入につながると考えています。ただし,地域の医療・介護の在り方は各地域によって異なりますので,その中で中核となる病院のスタッフの皆さんが,心不全についての教育や啓発活動をその地域に合った形で行っていただきたいと思います。そのためのツールとなるものを日本心不全ネットワークではこれからも提供していきたいと思っています。ぜひ活用してほしいですね。

(2015年7月14日,日本医科大学武蔵小杉病院にて収録)

文献
1) Kajimoto K, Sato N, Takano T, et al:Association of age and baseline systolic blood pressure with outcomes in patients hospitalized for acute heart failure syndromes. Int J Cardiol 191:100-106, 2015
2) Mebazaa A, Gheorghiade M, Piña IL, et al:Practical recommendations for prehospital and early in-hospital management of patients presenting with acute heart failure syndromes. Crit Care Med 36:S129-S139, 2008
3) 日本循環器学会:急性心不全治療ガイドライン(2011年改訂版),(www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_izumi_h.pdf)

MEDICAMENT NEWS 第2207号 2015年9月15日