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特集 地域包括ケアとは何か 監修 城谷 典保 氏

MEDICAMENT NEWS 第2204号 2015年8月15日

総論:地域包括ケアシステムと在宅医療 Interview

 団塊の世代が75歳を超える2025年に向けて,地域の中で住まい・医療・介護・予防・生活支援のサービスを一体的に提供する「地域包括ケアシステム」構築の取組みが,厚生労働省主導で各領域において進められている。その中で在宅医療・介護の果たす役割は非常に大きいが,具体的なシステムの内容理解についてはまだ周知されてないのが現状であろう。――本特集では,日本在宅医療学会理事長で,在宅医療の現場で活躍されている城谷典保氏に監修を依頼し,地域包括ケアシステムと在宅医療への理解を促す内容の構成をとった。
 本総論では城谷氏に,人口構造の変化に対応して変わらざるを得ない社会構造の変化の中で医療・介護領域はどのように対応すべきなのか,在宅医療が各地域で本格的に推進されるための課題,在宅医療関連学会の動向など,将来の日本の社会にとって警鐘となる発言をいただいた。

城谷DR タイトル_670  

在宅医療・介護の連携は地域包括ケアシステムの根幹

――在宅医療が求められる背景について。

城谷 最近の調査では,終末期の療養場所として,「自宅で療養したい人」(自宅で療養し必要になれば医療機関を利用したいとの回答含む)が60%を超え1),要介護状態になっても自宅や子ども・親族の家での介護を望む人が4割を超えています2)。これらの要望に対応するためにも,在宅医療・介護の推進は不可欠です。

 厚生労働省が進める地域包括ケアにおいては,住み慣れた地域で自分らしい暮らしを最後まで続けることができるよう,住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供されるシステムの構築が目指されています(図1)。特に厚労省は,在宅医療・介護の連携推進に力を入れていますが,その理由は医療と介護の連携こそが地域包括ケアシステムの根幹を支えるものだからです(図2)。これが機能しなければ,地域包括ケアそのものが成り立たないと考えなければいけません。  

 

 

図1 地域包括ケアシステム_R

 図1 地域包括ケアシステムの概念図

 

図2 在宅医療・介護の連携推進の方向性_R

図2 在宅医療・介護の連携推進の方向性について

 

社会構造の変化に対応する~キュアからケアへ~

――在宅医療推進の意義について。

城谷 わが国は世界でも類のない超高齢社会を迎えました。2025年には団塊の世代と言われる人たちが75歳を超え,認知症高齢者,高齢者人口に占める一人暮らし世帯,年間死亡者数などがそれぞれに大きく増加すると予想されます。これは突き詰めて言えば“人口問題”です。人口の構造が変化する時,社会の仕組み自体が対応できなければ,その社会は衰えていきます。70代,80代の高齢人口が増え,高齢化の大波にさらわれる社会では,産業も教育も変わらざるを得ません。人の生き方,人の死に方も変わっていきます。

 こうした社会構造の変化に対し,地域社会のあり方そのものを変革しようとする試みが,国家的プロジェクトである「地域包括ケアシステム」なのです。したがって,従来の医療システムではもはやこの社会構造の変化に対応できないと考えるべきだと思います。これから求められる医療サービスは従来のものとは全く違ってきていることをまず認識しなければなりません。

 

――医療はどのように変わることに?

城谷 これまでの急性期患者を中心に考えていた「治す医療(キュア)」一辺倒の医療から「治し支える医療(ケア)」への転換が必要となります。病院中心の医療から地域完結型医療へ。高度急性期と急性期の病床削減も医療制度改革案として論議されています。特に完治を見込めない慢性期に移行した患者さんの治療においては,医療と介護が切れ目なく地域の中で行われていく必要があり,その中で在宅医療の役割がとても大きくなってきています。

 療養者や家族にとって,疾患や加齢におけるADLの低下は自立した生活を妨げます。また,自然な最期を迎えることが予想される場合に,できるだけ自宅などの環境の中で静かな時間を過ごすことができることが本来の人間の尊厳を守ることにつながります。つまり地域でADLを保ちながら医療と介護をできるだけ継続的に受けられる仕組みづくりが早急に必要なのです。特に大都市周辺,これから急速な高齢化が予想される東京都,神奈川県,埼玉県,千葉県,大阪府などの地域ではその整備が急がれます。  

 

求められる後方支援施設の整備

――在宅医療推進に必要なものは。

城谷 地域完結型医療への転換を図り,医療と介護のネットワークで対応する在宅医療の利用者数は2025年には約30万人と予想されています3)。すると現在より12万人前後の増加になります。24時間対応の在宅医療供給体制の確保,在宅医療・介護サービスの量と質の確保と効率化,ざらに在宅療養の後方ベッドの確保・整備も求められるでしょう。

 例えば,一人開業医が積極的に在宅医療に参加できる環境を作るためには,夜間対応や緊急時の受け入れ,レスパイトなどに後方支援できる医療機関を整備する必要があり,地域包括ケア病棟などを積極的に活用できるようにしなければなりません。

 

医療と介護の連携で重要な看護師の役割

――現状での在宅医療・介護の課題は?

城谷 先ほど医療と介護との連携が地域包括ケアの根幹だと言いましたが,医療スタッフと介護スタッフの間にはもともとの共通言語が異なるため,コミュニケーションが取りにくいという問題があります。その中で私は,橋渡し的な役割を担うのは看護師ではないかと考えています。ご存知のように訪問看護の多くは介護保険の中で展開されています。介護職の先頭にいて,介護の言葉を医療スタッフに翻訳してくれるのが看護師なのです。その役割はこれからもっと大きくなると思います。

 言い方を変えれば,地域包括ケアシステムの中で医師は主役ではなく,主役となるのは訪問看護師であったりケアマネジャーだったりするのです。そのような人たちが作ったケアプランに沿って,医療スタッフは医療を展開します。医療が生活支援のお手伝いをするという言い方をした方がよいという人は多いと思います。  

 

在宅療養を可能にする要件とは~民間企業参入の必要性~

――具体的にどのような形で在宅医療が進むのでしょうか。

城谷 まず必要な在宅医療・介護サービスが地域に存在することが前提になります。そのための仕組みづくりとして,在宅医療連携事業が推進されています。地域包括ケアシステムの構築は,その地域に住んでいる人たちの生活をサポートして地域の中で健康に長生きしてもらうためのもので,医療・介護と共に密接な関係を持つ“生活支援サービス”をいかに提供できるかが鍵になります。そしてこの医療・介護・生活支援サービスによって地域の暮らしを支える仕組みは,民間企業の参入なしには成立しないと私は考えています。ビジネスとして成り立たない仕組みは,基本的に社会に根付いていかないと思うからです。

 例えば在宅医療に関わる多職種スタッフ間のコミュニケーションですが,クラウド上のグループウェアを使うことで,情報共有がタイムラグもなく可能になります。ある患者さんを訪問する医師,看護師,薬剤師などがその度ごとに業務内容をクラウド上に記載し,他のスタッフは次に訪問する際にその画面にアクセスすることで,前回の処置内容が把握できます。必要な場合には,他のスタッフに依頼や確認コメントも書き込めます。

 このようなICT(Information and Communication Technology)を用いなければ,きめ細かな医療・介護サービスを提供することは難しいでしょうし,何より多職種連携がうまく進まないと思います。ICTの発達は目覚ましいものがあります。生体モニターによって血圧,脈拍,心電図,酸素飽和度などを常時モニターし,例えば,呼吸が停まったり,転倒したりした場合にクラウド上にその情報が送られ,医療・介護スタッフに伝えられるといった「見守り支援システム」なども開発されてきているのです。このような技術開発が完成すれば,患者さんは自宅に居ながら,病院とほぼ変わらない医療を受けることができます。つまり地域に仮想病院空間を作ることが可能になるのです。

 ICTの進歩は在宅医療推進を強力に進める力になるでしょう。このようなICTについて,現在多くの企業が激しい開発競争をしていますが,各メーカーは開発した製品をどこに売るのか?患者なのか,病院なのか,あるいは療養施設なのか。また,法制上の問題もクリアしていかなければなりません。そのような民間企業が抱える課題をまとめ,方向性を見つけていく必要性から,「地域包括ケア支援事業連合会(http://bfcc.or.jp/)」が設立されたという経緯があります。

 そしてもちろん,在宅医療・介護の連携の中には地域住民も入ります。家族をはじめ地域に暮らす人たちも介護者として地域包括ケアに参加してもらわなければいけません。そのための啓発活動の展開も大切です。   

 

在宅医療連携拠点事業と地域医師会への期待

――在宅医療事業の中心はどこが担いますか。

城谷 在宅医療連携拠点の効果的な活動の取組みが,厚生労働省の基金により各都道府県の市町村単位で行われています。各地域の実情を踏まえた仕組みを作ることが何より必要です。その仕組みづくりにとって地域の医師会の果たすべき役割は重要になると考えています。地域における在宅医療・介護の関係機関の連携や多職種連携方策を地域で検討していく中で,地域医師会が積極的に関わることができれば,開業医の先生方が在宅医療に参画する機運も大いに高まると思うからです。

 在宅医療に携わる人材育成機関を各地域の医師会で作り,必要な人材を育てていくことも大切です。既に東京大学の高齢社会総合研究機構が進めている柏プロジェクトにおいては,在宅医療推進システムが構築され,また医療・介護スタッフの研修プログラムも作成されているようです。

 一方,地域で在宅医療・介護の仕組みを考える際に,その地域における災害時の対応策を具体的に構築することも重要です。東日本大震災の教訓を忘れてはいけないということをぜひつけ加えたいと思います。

 

――多くの開業医の先生方に在宅医療に参加していただきたいですね。

城谷 在宅医療を受けられる患者さんには2つのタイプがあります。1つは急性期を終えて慢性期に入った患者さんで,従来なら病院で療養していたのですが,地域包括ケアシステムの中では,地域(在宅,施設)での療養となります。このような患者さんは点滴,カテーテル,人工呼吸器などを必要とする医療依存度の高いタイプで,いわば入院の延長上にある在宅医療です。  もう1つは,これまで外来受診をしていて何らかの理由で通院ができなくなった患者さんで,この場合は血圧や血糖など,日常の健康管理を必要とするタイプです。この2つは求められる医療の質が異なります。現在は,医療依存度の高い前者のタイプが半分,健康管理的な医療を必要とする後者のタイプが半分という状況ですが,これからは前者のタイプが増えることが予想されます。

 前者の医療を在宅で行うためには,専門的な技術が必要ではありますが,医療機器やICTの進歩と共に特に難しいものではなくなってきています。したがって地域医師会が研修プログラムを立ち上げて,そこに開業医の先生方が参加していただけるような流れになれば,在宅医療に参画していただける医師も増えていくのではないかと考えています。

 また,病院から在宅医療に移行するに当たっては,病院の医療スタッフも在宅医療についての知識を共有する必要があります。在宅医療の必要性,在宅医療で可能な治療や処置の内容,在宅医療を勧める時期,在宅医療の実際や看取りなど,必要な知識を解説した冊子「在宅医療の知識と実際~病院で働く皆さんへ~」(図3)を公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団が作成し無料で配布していますので,ご希望の方は勇美記念財団のホームページ(http://www.zaitakuiryo-yuumizaidan.com/main/text.html)にアクセスしていただければ幸いです。  

 

図3_R250 囲み影有

図3 「在宅医療の知識と実際~病院で働く皆さんへ~」表紙 (公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団 作成)

 

日本在宅医療学会と日本在宅医学会との合同の動き

――日本在宅医療学会の今後の展望について。

城谷 現在,日本在宅医療学会と日本在宅医学会の両理事会は,基本的に合併する方向で議論を進めています。その背景として,学術団体として日本医学会に加入するために在宅医療分野の学会を一本化する必要があるからです。これまで在宅医療に関わる診療報酬改定の正式な窓口がなく,診療報酬改定のために必要な調査やデータがない状態でした。その結果,改定された診療報酬が現場の状況に合っておらず,現場の混乱を引き起こす結果になったことも少なからずありました。

 内科系学会社会保険連合(内保連)や外科系学会社会保険委員会連合(外保連)と同様な方法で,今後は在宅医療の診療報酬改定に対応していく必要があるのです。現状では,在宅医療に関わる団体が集まって「日本在宅ケアアライアンス」が診療報酬改定に向けての統一した活動をするという動きもありますが,私たちは学術団体として公平な提言を行っていく仕組みも必要だと考えています。

 具体的には,①合同のあり方委員会,②専門制度委員会,③学術雑誌創刊委員会などを共同で運営することで,2020年までには2学会を合同する方向で議論を重ねています。今後の動きにぜひ注目してください。

 

――最後に臨床医に向けたメッセージを。

城谷 現在,両学会でも特に議論しているのが,専門医制度の中で在宅医療をどう位置づけるかという点です。これはどのような医師に在宅医療に関わってもらうのかという問題にもつながっていきます。私自身の考えでは,新卒の医師の総合診療医のサブスペシャリィティーとして在宅医療専門医を目指すコースだけでなく,長年病院で勤務して専門医を務めてきた現在,40代,50代の経験豊富な先生方が次のキャリアパスとして在宅医療に参加してもらえないものかと考えています。

 2025年問題を片づけるには,いま現役で頑張っている医師たちが,ある年齢になったら在宅医療にも参加して地域の医療を支えて,高齢患者さんを高齢のベテラン医師が診る。日本の医療環境をそんな風に変えていける専門医制度にできれば理想的ではないかと思っています。

 高齢の医師にも十分に働ける場がある。地域包括ケアシステムはそのような環境を現実のものにしてくれるのではないかと期待しています。いや,皆で知恵を絞って,そういう環境に必ずしていかなければいけないということです。

(2015年6月23日,収録)

文献
1) 平成22年12月・終末期医療のあり方に関する懇談会:「終末期医療に関する調査」平成10年,15年,20年

2) 平成19年度内閣府,高齢者の健康に関する意識調査
3) 社会保障制度改革推進本部 医療介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会 第1次報告,平成27年6月15日

MEDICAMENT NEWS 第2204号 2015年8月15日