株式会社 ライフ・サイエンス

ライフ・サイエンスは医学・薬学専門出版社として医学・医療の発展に貢献します。

書籍検索(単行本)

キーワード検索

著者名や書籍タイトルを入力してください。
複数キーワードの場合は、スペースを入れてください。

発行年 年 ~ 
ISBN 978-4-89801--
分類

検索したい項目をチェックしてください。チェックがない場合は全てを検索します。

定期刊行物検索(新聞・雑誌)

キーワード検索

執筆者や特集タイトルを入力してください。
複数キーワードの場合は、スペースを入れてください。


新聞・雑誌別検索

検索したい項目をチェックしてください。チェックがない場合は全てを検索します。

発行年月

2010年以降のデータを検索できます。

月 ~

ニュース記事から

  • MNバックナンバー

インタビュー・先進医療の現在 髙橋 直人 氏

Progress in Medicine Vol.37 No.8 2017-8
 
東京慈恵会医科大学附属柏病院における
早期胃がんのセンチネルリンパ節ナビゲーション手術
-真の低侵襲治療とは「術後の人生の喜びを確保すること」-

高橋先生の図(W230)      慈恵柏病院外観(W320)

 
 早期胃がん手術では,開腹手術より低侵襲とされる腹腔鏡下手術が選択されるケースが増えてきた.しかし,その標準治療は,幽門側胃切除あるいは胃全摘などで,胃の3分の2以上を切除するものが主流であり,術後に障害が発生する可能性が高い.この状況に対し,2008年より先進医療として認可された「腹腔鏡下センチネルリンパ節生検」でリンパ節転移の有無を調べ縮小手術につなげる「センチネルリンパ節ナビゲーション手術」が現在,全国の限られた施設で行われている.今回は東京慈恵会医科大学附属柏病院を訪ね,上部消化管外科の髙橋直人准教授に同手術を受けることの意義,具体的な術式の流れ,今後の方向性などについてうかがった.  
 

「腹腔鏡下センチネルリンパ節生検」による早期胃がんの縮小手術

 胃がん手術(治癒手術)における現在の定型手術は3分の2 以上の胃切除であり,原則D2郭清(根治的リンパ節郭清)を行うことが「胃癌治療ガイドライン」では示されている文献1).その理由はこれまでリンパ節転移がないことを術前・術中に肉眼で確認するのはほぼ不可能とされていたからである,この定型手術の術後には,食事量の減少,早く食べると気分が悪くなる,下痢をしやすくなる,食後に動悸やめまいが起こるなど,QOLを著しく損なう様々な機能障害が高頻度に発生していた.

 一方,リンパ節転移の有無を調べる方法として,既に乳がんや悪性黒色腫(メラノーマ)の手術治療に用いられていた「センチネルリンパ節生検」がある(2010年保険適応).早期胃がんに対してこの「センチネルリンパ節生検」を術中に行い,リンパ節への転移がなければ,胃の切除部分を縮小する「センチネルリンパ節ナビゲーション手術(Sentinel Node Navigation Surgery)」が考案された.

 「腹腔鏡下センチネルリンパ節生検」は2008年に先進医療として認可され,慶應義塾大学病院,東京慈恵会医科大学附属病院,東京慈恵会医科大学附属柏病院,金沢大学附属病院など,施設基準に該当する全国9 施設で,保険診療との併用(混合診療)で行われている.現在,これらの施設では多施設共同試験として,試験期間2013~2019年,目標被験者225例の第Ⅲ相臨床試験(表1)が実施されている.センチネルリンパ節ナビゲーション手術の根治性・安全性が従来の胃がん手術に優るかどうかが検討され,その後に保険収載への公知申請の検討材料となる予定である.

                         表1(W480)                                                               

センチネルリンパ節ナビゲーション手術の実際    

 東京慈恵会医科大学附属柏病院上部消化管外科では,胃センチネルリンパ節を見つける手段として,インドシアニングリーン(ICG)局注法による赤外線腹腔鏡での観察と,がん細胞に取り込まれやすい放射性同位元素(RI)を注射しガンマプローブで検知を行うという2種類の方法を併用している.

 RIは手術前日に注射される.ICGは術中に主病巣周囲に打たれたクリッピングより注入され,約20分後に赤外線腹腔鏡下でICGが緑色に発光するリンパ節をセンチネルリンパ節と判断し切除していく.東京慈恵会医科大学は2000年頃から胃がんに対しICG局注による赤外線腹腔鏡観察の研究を開始したパイオニア的存在である.

 センチネルリンパ節ナビゲーション手術は,大きくはセンチネルリンパ節生検を行う前半部と,病理検査の結果(陽性なら標準手術,陰性なら縮小手術)をもとにした胃切除を行う後半部に分けられる.本手術は平均7時間ほどを要するが,前半のリンパ節生検までの施術が約3~4時間を占める.胃には血管,神経,リンパ節が複雑に絡み合っていることから,血管,神経を傷つけないために細心の注意が必要になるからだ.

 腹腔鏡下で胃周囲の組織を?離し,胃を可動しやすくしておく(図1).準備ができた段階で,口から挿入する上部内視鏡によりICGが胃がんの病巣周囲に注入される(図2).20分後に赤外線カメラに切り替えられた画像で発光しているセンチネルリンパ節(図3)を切除・回収する(図4).ガンマプローブで取り出したリンパ節はRI測定後に迅速病理検査に回される(図5).

 病理検査の結果,すべての検体が転移陰性と判断された場合に縮小手術を施行する(図6,7).一方,転移が認められた場合には,標準手術(定型胃切除)が選択される.

         図1(W300)       図2の図(W300)

         図3の図(W300)         図4(3)

         図5の図(W300)         図6の図(W300)

         図77の図(W3)

 髙橋准教授は,本手術を成功に導くポイントを次のように語った.

 「とにかく,手順をしっかりと踏んでいくことが大切です.まず①早期胃がんで本手術の適応であるかどうかを厳密に判断すること(表2),次に②術中に正確な診断をしてセンチネルリンパ節を特定すること,そして③センチネルリンパ節を組織から切除し,適切な検体を病理検査に回すこと,最後に④結果に基づいて,転移がなければ適切な縮小手術をすること.これらすべてを正確に行うことが患者さんの予後を改善し,ひいては胃の機能温存,QOLの維持・向上につながります」

                                  表2の図(W400)                                               

センチネルリンパ節ナビゲーション手術のメリット

 センチネルリンパ節ナビゲーション手術のメリットとは何か.胃切除手術の後には様々な障害が起こり得る(表3).ダンピング症候群は,小腸に急速に炭水化物が流入するために起こるもので,食事中あるいは食後すぐに冷や汗,動悸,めまい,腹痛などの早期の症状と,続いて食後2 ~ 3時間してからインスリン過剰分泌による低血糖が引き起こされる,頭痛,倦怠感,めまい,発汗,呼吸の乱れなどが後期の症状として出てくる.現在,ダンピング症候群に適応のある薬剤はなく,1回の食事の量を減らしゆっくり食べるなどの食事療法の徹底,後期ダンピング症候群に対する糖分の摂取など,対症療法的なものとなり,日々の食事においても刺激のあるもの,熱いもの,冷たいものは避けるような配慮が求められる.

                                        表3の図(W300)                                           

 また,カルシウム代謝能が低下し,骨粗鬆症発症リスクが高まる.消化吸収障害により,下痢・体重減少をきたしやすくなり低栄養のリスクが高まる.そもそも胃が小さくなることから,1回の食事で食べられる量が限られてくる.

 これらの胃切除後に起こり得る合併症の発生頻度は,胃の切除部分が小さければ小さいほど低くなる.つまり,縮小手術によって術後合併症リスクを極力小さくしようとするのが,センチネルリンパ節ナビゲーション手術の目的である.

 毎日摂る食事は生活の大きな部分を占め,術後のQOLにも大きく影響する.スキルスがんを除き早期がん(粘膜下層胃がん)で実際にリンパ節転移している症例は15%に過ぎないといわれており,現在の標準治療では,残り85%の患者は本来ならば切除しなくてもいい部分を切除していることになる.

 センチネルリンパ節ナビゲーション手術ならば,この切除しなくてもよい部分を残すことができ,患者のその後の人生の喜びの一部をしっかりとつなぎとめる役割を果たす.髙橋准教授はじめセンチネルリンパ節ナビゲーション手術に関わるスタッフは,その喜びを糧にして同手術に取り組んでいる.

 なお,センチネルリンパ節ナビゲーション手術の術後から退院までの注意点としては,術中に胃をかなり触ることから,術後しばらくは,残された胃が運動を再開するまでに時間がかかるため,食事の量を少量から開始し少しずつ上げていくように配慮することである.髙橋准教授は,術後1~2週間は食べ過ぎないよう,患者にも注意を促しているという.

 髙橋医師はセンチネルリンパ節ナビゲーション手術を幅広い年齢層の患者に受けてもらいたいとする.

 「本手術は低侵襲ですので,80歳以上の高齢患者さんでも条件さえ合えば施行できます.全身状態などの評価から定型手術の適応は難しいと考えられる場合でもこの手術なら選択の余地があるかもしれません.また50歳代などの比較的若い患者さんの場合にも,残された人生の30~40年間の食生活のことを考えれば大きなメリットがあると思います」

先進医療の提供に多職種で取り組む

 同院上部消化管外科では現在,髙橋准教授,山本世怜助教,髙橋慶太助教の3人が腹腔鏡手術を担当しており,センチネルリンパ節ナビゲーション手術においてもこの3人がローテーションで執刀医,第一助手,第二助手を交代で務める.基本的にその患者の主治医が執刀医になる.また第三助手(カメラスコープ担当)は研修医の担当になることが多い.

 その他にも,病理検査医,麻酔科医,看護師,臨床工学技士,放射線技師などが参加し,先進医療をチームで支えている.

 大学病院である同院は,教育面でも,安全性に配慮した高度先進技術を修得する場としてスタッフは研鑽を積んでいる.髙橋准教授は「当科で研修を終え,他施設で勤務するようになった医師が,早期胃がんの患者を診療した際,このセンチネルリンパ節ナビゲーション手術という選択肢を思い出し,その患者さんに情報提供してもらえれば本当に嬉しいですね」と語り,事実紹介されたケースはかなりあるという.

早期胃がん患者を紹介しやすい連携の流れをつくること
-患者への情報提供の必要性-

 早期胃がんのセンチネルリンパ節ナビゲーション手術が保険適応となり,新たな標準治療となるためには,現在の第Ⅲ相臨床試験において目標症例数を達成し,従来の標準治療よりも優れている結果を出す必要がある.また,腹腔鏡下でのセンチネルリンパ節生検は,正確で高度な手技を必要とすることから,実施する施設のすみ分けや,技術を修得する教育センター的な施設の役割が重要になってくると髙橋医師は考えている.

 とにかく1例1例の症例の積み重ねが必要だが,この数年同院では,胃がんの手術件数そのものが減っている状況があるという.2000年の「胃潰瘍・十二指腸潰瘍」,そして2013年の「慢性胃炎」に対するヘリコバクター・ピロリ除菌治療の保険適応によって,胃がん発生件数そのものが減少している可能性が考えられる.

 ただし,早期胃がん患者における胃切除後の障害リスクは変わらないし,術後の合併症をなるべく避けたいと希望する患者は多いはずである.その証拠に,「センチネルリンパ節ナビゲーション手術を受けたい」という患者は全国各地から訪れているという.

 髙橋准教授は,今後センチネルリンパ節ナビゲーション手術の件数を増やし,スタッフの技術を高め,かつエビデンスを確立していくためには,適応となる早期胃がん患者に向けたさらなる情報提供が必要だと強調した.

 「“胃がんの術後にこれまで通りの生活を続けたいかどうか”を考えるための材料を患者さんたちに提供することが重要だと考えています.しかし,そもそもセンチネルリンパ節ナビゲーション手術という治療法があることを知らなければ,患者さんは当科注)に辿りつけません.医学は日々進歩していて,外科手術も術後のQOL,ADLを考慮した低侵襲手術,縮小手術の流れになってきました.私は真の低侵襲手術とは,『術後の患者さんの人生の喜びを確保すること』ではないかと思っています.胃がんになってもそれまで通りの生活を続けられることは何ものにも代えがたい喜びのようです.私たちはこの手術を受けられた患者さんたちからそのことを教わりました.『これまで大好きだった博多ラーメンをこれからも食べたい』『生ビールをジョッキで飲み干したい』という患者さんのシンプルな願いを私たちは叶えていきたい.早期胃がんの治療はここまで進歩していることをより多くの皆さんに知っていただけるようになればと願っています」

 インターネットの普及で多くの医療情報が簡単に得られる時代にはなったが,果たして,がん患者にとって本当に知りたい情報は届いているのだろうか.現在進められている第Ⅲ相臨床試験進捗のためにも,センチネルリンパ節ナビゲーション手術の正確な情報が広く伝わることを期待したい.

注)東京慈恵会医科大学附属柏病院上部消化管外科の連絡先

  TEL04─7164─1111(内線3421)

文   献
1 ) 日本胃癌学会編:胃癌治療ガイドライン 医師用2014年5月改訂 第4版,金原出版,東京,2014

 撮影/LiVE ONE 菅野勝男