株式会社 ライフ・サイエンス

ライフ・サイエンスは医学・薬学専門出版社として医学・医療の発展に貢献します。

書籍検索(単行本)

キーワード検索

著者名や書籍タイトルを入力してください。
複数キーワードの場合は、スペースを入れてください。

発行年 年 ~ 
ISBN 978-4-89801--
分類

検索したい項目をチェックしてください。チェックがない場合は全てを検索します。

定期刊行物検索(新聞・雑誌)

キーワード検索

執筆者や特集タイトルを入力してください。
複数キーワードの場合は、スペースを入れてください。


新聞・雑誌別検索

検索したい項目をチェックしてください。チェックがない場合は全てを検索します。

発行年月

2010年以降のデータを検索できます。

月 ~

ニュース記事から

  • MNバックナンバー

インタビュー 赤松 直樹 氏

 

赤松先生の図(W150)Progress in Medicine Vol.39 No.10 2019-10

高齢者てんかん診療の課題は
まず正しい知識の普及から 
 

 日本社会の高齢化は急速に進み,全てんかん患者の約4 割は65歳以上の高齢者が占めているという.今回は久山町の住民調査で成人てんかんの有病率を明らかにした国際医療福祉大学脳神経内科の赤松直樹教授を訪ね,高齢者てんかんの現状と診断・治療のポイント,さらにてんかん診療の今後の展望についてお話をうかがった.てんかんについての偏見や誤解はすべて正確な知識の欠如によるものであり,正しい知識の普及こそがてんかん診療には必要であると赤松教授は強調した.

高齢者の100人に1人がてんかんを発症
-日本の高齢者てんかん有病率が初めて明らかに-

──わが国の高齢者てんかんの現状について.

赤松 実は日本における成人のてんかん有病率を調査したデータはほとんどありませんでした.これまでてんかんの疫学を論じる場合,欧米のデータに準拠していたのです.そこで私たちは,福岡県の久山町で40歳以上の住民3,333人を対象に,てんかんの有病率と原因を調査し,2019年「Epilepsia Open®誌に報告しました(文献1).1,000人中6.9人にてんかんが認められ,高齢者(65歳以上)に絞ると10.3人とその割合が高くなりました.現在,日本の65歳以上の高齢者は3,461万人,総人口に占める割合は27.3%です(文献2).この高齢者人口と久山町調査で判明した有病率を合わせて考えると,日本の高齢者てんかんの患者数は約35万人ということになります.

 一方,私たちは日本人約1,700万人のレセプト(診療報酬明細書)データからてんかん治療を受けている人を調べ,2018年にインドネシアで開催された第12回アジア・オセアニアてんかん学会議(AOEC)で発表しました(論文作成中).65歳以上の高齢者の割合は44%,65歳未満18歳以上が39%,18歳未満が17%です.てんかん患者全体の3分の1以上が高齢者になります.

──高齢者てんかんの原因について.

赤松 これがまだはっきりとはわかっていません.久山町の調査では,てんかんの原因の48%は脳血管障害によるものでした.それ以外は原因不明です.2013年に私たちが「Seizure」誌に報告した研究(文献3)では,産業医科大学病院で過去約7年間に受診した65歳以上の初発てんかん患者70人を対象に検討し,病因・病変なしが52.8%と最も多くなっていました.病因が明らかなものでは,脳血管障害15.7%,認知症10.0%,炎症性疾患8.6%,腫瘍4.3%,外傷2.9%,その他5.7%で,脳卒中後てんかんが最も多くなりました.ただし本研究の限界は,対象がてんかん専門施設に紹介された患者群であり,一般臨床を正確に反映してはいないことです.

脳卒中後てんかんと側頭葉てんかんの特徴
―ポイントは焦点意識減損発作の正確な知識―

──脳卒中後てんかんについて.

赤松 脳卒中後のてんかん発作は,早期発作(early seizure)と遅発発作(late seizure)に分けられます.前者は一般に脳卒中発症1週間以内,後者はそれ以降の発作と考えられています.Seizureはあくまで「発作」であり,てんかん(epilepsy)ではないことに注意が必要です.Early seizureは1回の発作でおさまることが多く,経過観察は必要ですが,すぐにてんかんと診断すべきではありません.逆にlate seizureは約7割の人がてんかんに移行していることから,1回の発作でてんかんと診断してよいとされています.脳卒中後てんかんにみられる発作の多くは,二次性全般化発作などのいわゆる大発作で,てんかんの発作であると周りの人がすぐに気づくことができる,わかりやすいタイプの発作です.したがって,脳卒中を診療している医師がてんかんと診断し,脳卒中治療と並行して抗てんかん薬による治療(表1)をスムーズに開始することができます.

                    表1の図(W350) 

 抗てんかん薬の選択は,脳卒中後てんかんの場合,そのほとんどが焦点(部分)発作であるため,焦点発作に効果を示すレベチラセタムやラコサミドなどの新規抗てんかん薬を処方すべきです.以前には全般発作に効果を示すバルプロ酸などが選択されていた時代もありましたが,現在は脳卒中診療を行う非てんかん専門医の先生方にも正確な情報が知られるようになりました.また,脳卒中の治療によく用いられるワルファリンや直接経口抗凝固薬(DOAC)などの薬剤と相互作用のある抗てんかん薬(カルバマゼピン,フェニトインなど)の使用は避けないといけません.これらの情報も最近は脳卒中専門医の間で十分に浸透してきています.

──それ以外に高齢者てんかんで注意すべき点は?

赤松 先述の産業医科大学病院の研究(文献3)では,高齢初発てんかんでは側頭葉てんかんが71.4%と最も多く認められました.側頭葉てんかんにおける発作型は,焦点意識減損発作といって,患者本人は30秒から3分間ほど意識がなくなり,その間は呼びかけても反応せず,発作後に発作中のことを聞いても当人は何も覚えていません(表2).しかし,大発作のような全身がけいれんするタイプではないため,認知症と誤診される可能性があります.またアルツハイマー病にこのてんかん発作が合併する頻度も3~5%ほど高まります.この一般にてんかん発作だとは思われないような焦点意識減損発作型を見極め,側頭葉てんかんの診断を見逃さないことが,高齢者てんかんの診療には欠かせません.

           表2の図(W350)

てんかんセンターの必要性と正しい知識の普及
ーてんかん診療の今後の発展のためにー

──これからの高齢者てんかん診療に必要なものとは.

赤松 日本社会の高齢化はまだ進みます.高齢者てんかんに関しては,正しい知識があれば,プライマリケア医で十分診療が可能です.ただし,治療がうまく行っているかどうかがわからない,あるいは発作がコントロールできないといった場合に患者さんを紹介できる高次機能をもつ「てんかんセンター」を全国各地に一定数作ることは必要です.また,「てんかんセンター」と標榜することは,院内外にとって大きなメリットがあります.院外のプライマリケア医からはもちろん紹介がしやすくなるはずですし,院内の他科連携体制にも役立ちます.例えば,難治性のてんかん患者に対するてんかん外科の領域では,てんかん焦点を同定する脳神経内科医と手術を担当する脳神経外科医との緊密な連携が求められます.てんかんセンターという組織を作れば,この内科と外科との協力がスムーズに行えるようになるのです.

 もう1つ,てんかん診療全体の課題としては,てんかんに関する正確な知識の普及が挙げられます.そのためには大学での医学教育が重要ですし,国民への疾患啓発も欠かせません.その点で日本てんかん学会,日本神経学会などが開催している各種セミナーなどは効果を上げていると思います.

 高齢者に限らずてんかんの発作は,正確な診断がなされ,適切な薬物治療が行われれば,8割の患者さんはコントロール可能です.残りの2割の患者さんも,外科手術や迷走神経刺激療法(VNS)など,医療技術の飛躍的な進歩で,快方に向かう症例が増えてきています.しかし残念なことに,こうした現状が一般の人たちばかりでなく,非専門医や医療スタッフにもあまり知られていません.てんかんに対して偏見や誤解,恐れを抱いた長い歴史は,正しい知識をもっていないことによるものでした.医学・医療がここまで進歩した事実をもっと多くの人たちに知ってもらう必要があります.私たちてんかん専門医は,医療者ばかりでなく社会に向けて,てんかんの正しい知識の普及に関わることが,これからもますます求められると感じています.

文   献
1 ) Tanaka A, Hata J, Akamatsu N, et al:Prevalence of adult epilepsy in a general Japanese population:The Hisayama study. Epilepsia Open 2019;4:182─186.
2 ) 総務省統計局:統計からみた我が国の高齢者(65歳以上)─「敬老の日」にちなんで─ 1 .高齢者の人口,2016.(https://www.stat.go.jp/data/topics/topi971.html)(2019年9 月11日閲覧)
3 ) Tanaka A, Akamatsu N, Shouzaki T, et al:Clinical characteristics and treatment responses in new─onset epilepsy in the elderly. Seizure 2013;22:772─775.