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ISBN 978-4-89801--
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インタビュー 菅野 秀宣 氏

菅野先生の図(W200)Progress in Medicine Vol.39 No.6 2019-6

てんかん包括的治療の実践を目標に
都市部の診療連携体制づくりを模索  

 日本てんかん学会が認定するてんかん専門医は2019年5月時点で689人,国内に100万人と推計されるてんかん患者を診療するためには,専門医と一般医による連携体制の構築が不可欠である.しかし,専門医は地域によって偏在しており,地方と都市部での連携体制の仕組みは自ずと変わってくる.今回は,順天堂医院てんかんセンター長の菅野秀宣氏を訪ね,同センターの取り組みと都市部におけるてんかん医療連携の現状と課題についてお話をうかがった.

てんかん診療施設センター化が意味するもの
―生活面も支援する包括的治療提供のために―

──順天堂医院てんかんセンター設立の背景について.

菅野 当センターは2013年に発足しました.脳神経外科,脳神経内科,小児科,メンタルクリニック科,放射線科で構成され,各診療科が専門性を活かし,協力をしながら,単科では治療が困難だった症例に対してより緻密で高度な治療を行える体制を目指しています.それ以前は,それぞれの診療科で一般的な治療を行っていたわけです.しかし例えば,小児科の患者さんで,内科的治療で発作の消失がなかなかみられず外科的治療の適応を考えるような際には,脳神経外科と一緒に症例検討会を行う必要が出てきました.こうした専門的な治療ニーズの高まりとともに,てんかん診療におけるセンター化が望まれるようになったのです.私立大学病院でてんかんセンターの名称で活動を開始したのは,全国的にも早かったと思います.当時は,国立精神・神経医療研究センター病院てんかんセンター長だった大槻泰介先生(現在,てんかん病院ベーテル院長)が全国の施設にてんかんセンターの立ち上げを呼びかけていた時期でもあり,当センターはその呼びかけにいち早く応じた施設の1つになりました.

 一方,2013年前後は社会的にも,てんかん患者の運転免許や移行医療の問題がクローズアップされていた頃でもあり,私たちはてんかん診療において,発作の消失だけではなく,生活面をも支援できる包括的治療の必要性を次第に感じるようになってきました.もちろん地域に密着した包括的治療は1施設だけでできるものではありません.地域の一次医療や二次医療施設の医療者との連携体制を作っていく必要があります.その意味で,「てんかん」という疾患名を冠したセンターの存在が院内外のアクセスを容易にしていることは間違いないと思います.

都市部におけるてんかん診療連携の課題
―大学ではなく地域を単位とした連携体制を望む―

──都市部のてんかん診療連携の現状について.

菅野 私たちは2018年10月に横浜で開催された第52回日本てんかん学会学術集会の企画セッション2で,「都市部におけるてんかん診療連携の現状と問題点,その課題と方策」を発表しました.調査対象としたのは,てんかん患者が多く居住していると思われる地域で,大学病院や教育病院がある東京都,神奈川県,愛知県,大阪府,福岡県の各政令指定都市です.いずれの地域でも,てんかん診療のための人的・物的な医療資源(専門医や医療スタッフ,診断機器など)が豊富であるにもかかわらず,大学単位の連携になっていることから,患者さんにとって不都合が生じていることがわかりました.例えば東京都には大学病院が多数ありますが,いずれの大学もその関連病院は地域的にバラバラに位置しており,連携がモザイク状になっていました.そのため,地域をカバーしきれず,紹介された施設が遠方で,患者さんが通院にかなり不便な思いをしているケースも少なからずありました.医療現場では,大学単位の連携ではなく,地域を単位とした診療連携体制の再構築を要望している先生が多くいました.

 実は地域単位の連携体制モデルは,既に脳卒中領域で展開されています.脳卒中診療の連携体制が成功しているところでは,地域に核となる医師がいて,その先生を中心に勉強会などの機会を継続的に行っているようでした.つまり,熱意ある先生の頑張りが,顔の見える地域医療連携体制を支えているということです.ただし,この点は脳卒中領域ばかりでなく,すべての疾患の診療連携についても同じことがいえるかもしれません.

 もう1つの課題として,脳卒中診療の地域連携モデルは急性期に各医療施設ですべきことが明確化されていて,時系列で連携パスを動かしやすいという特徴が挙げられます.一方,てんかん診療は慢性疾患であることから,脳卒中領域のモデルをそのまま参考にするのは難しい面もあります.いずれにしても,地域の医療者を巻き込んでの,てんかん診療の問題点を学べるような勉強会を地道に継続させていくことは大切です.

ライフ・イベントに注目して,
顔の見える新たな連携体制構築を目指す
―大学の垣根を越えた教育面での連携も―

──勉強会ではどんなテーマが取り上げられますか.

菅野 冒頭で少し触れたてんかん患者さんの生活面での支援,例えば,小児の場合は学校にきちんと通えることを目標とした精神面や発達障害なども含めたケアの問題,自動車の運転免許取得の問題,就労支援の問題,小児科から成人の診療科への移行医療のあり方,女性の妊娠・出産時期の問題,高齢者てんかんと合併症の問題など,これらのテーマは,地域の先生方も関心が高いようで,大きな手応えを感じています.また,勉強会の講師として小児科,内科,産婦人科などの先生を招聘することは,診療科横断的な連携のきっかけにもなり得ます.患者さんの人生の節目(ライフ・イベント)に注目することで,新たな連携体制を作ることができるのではないかと考えます.

──若手医師のてんかん診療への関心はいかがですか.

菅野 現在,地域診療連携体制の核となっている先生方は,ネットワークを継続・拡大していくと同時に,自分に続く後進を育成する努力を怠ってはいけないと私は思っています.そうでないと,せっかく作った連携体制が核となる先生の異動や退職などで途切れてしまうからです.その意味で,若手医師や医療スタッフの育成はとても重要です.当センターでは,研修プログラムを兼ねたオープンカンファレンスを毎週木曜日の夕方に開催しており,症例検討や学会発表の準備,今後の研究テーマの議論などを行っています.

 当センターの役割として,私たちは研究活動を重視していますが,それは基礎研究や臨床研究を行うことが,将来的に患者さんにフィードバックされるものであると信じているからです.この研究活動を行うことが,同時に若く優秀な医師,医療スタッフを教育することにもつながっていきます.

 最近の私たちの研究の1つを紹介すると,高齢てんかん患者における手術適応例の集計調査を行っています.現在国内外の例において,高齢てんかん患者に対する外科手術の適応はかなり少ないようです.しかし,薬物治療が効きやすいとされる高齢てんかん患者においても,薬物治療効果がはっきりと確認できない症例,あるいは発作は一見止まったようにみえても,認知機能低下が進んでしまうような症例が存在します.当センターのデータをまとめることで,高齢てんかん患者において外科手術の適応が相応しいとされる症例群を明らかにできればと考えています.

 教育面での連携の新たな試みとしては,数年前から東京大学,東京医科歯科大学,順天堂大学の3大学が協力することで,「デジタル脳波セミナー東京─dEEG TOKYO─」を定期的に開催しています.若手医師を対象としたデジタル脳波判読のセミナーで,2019年6月で第8回を数えます.3大学が協力できたのは,てんかんに携わる各大学の医師たちが東京都立神経病院時代に清水弘之先生(現在,清水クリニック院長)の下で学んだというつながりがあったおかげです.こうした大学の垣根を越える勉強会で,若手医師がてんかんについての関心を深め,新たなネットワークを作るきっかけにしてもらえれば幸いです.

地域社会との連携がこれからの課題
ー疾患啓発活動をいかに進めるかー

──てんかん診療の今後の課題について.

菅野 てんかんの包括的治療をもっと普及させるためには,地域社会との連携が今後の大きな課題の1つとなるでしょう.残念ながら,未だにてんかんに対する社会の偏見はあります.結局,てんかんを特別視してしまうのは,てんかん発作に対する理解が不足しているからです.地域社会の人たちに,どうやって正しい知識を普及させていくのか? 大きな課題ですが,疾患啓発活動の一環として,私たち医療者が学校教育の中で,子どもたちにてんかんについて直接教えられる機会を作れないものかと模索しています.学校関係者や行政の担当者の方々とも意見交換できるような新たな関係構築が必要となり,それは簡単な道のりではないと思います.しかし,てんかんの包括的治療と診療連携の問題を考え,その取り組みを持続させていくことが,いずれは社会全体の問題として,多くの人たちにてんかんについて考えてもらうきっかけとなるのではないかと私は期待しています.