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ISBN 978-4-89801--
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インタビュー 渡辺 雅子 氏

Progress in Medicine Vol.38 No.6 2018-6
 
渡辺先生(横長)W200の図女性のライフステージに合わせたてんかん治療
大人になる前に将来の妊娠・出産を見据えた薬物治療を          

 女性のてんかん患者は,妊娠・出産・育児など様々なライフステージにおいて,男性患者とは異なる問題に直面することが多い.今回は日本てんかん学会理事で,新宿神経クリニック(東京都新宿区)院長の渡辺雅子氏ー写真ーより,医療者側からの適切な指導・介入のタイミングとその内容について話を聞いた.

薬剤の胎児への影響は軽減できる
妊娠前からの葉酸の摂取を推奨

──小児期から中高年期まで様々なライフステージにおいて,女性患者さんの最大の関心事は何でしょうか.

渡辺 当院で最も多い相談は「妊娠・出産に対する抗てんかん薬の影響」に関する疑問です.抗てんかん薬が胎児に及ぼすリスクは「形態異常」と「知能などに対する影響」に分けられます.これらの異常は一般人口においても一定の割合で存在しますが,一部の抗てんかん薬の服用によってそのリスクが増加することがわかっています.逆に新しい抗てんかん薬は,このリスクの増加が小さいこともわかっています(図1文献1).妊娠と薬に関する情報は各都道府県の基幹病院内に設置されている「妊娠と薬情報センター」でも提供されています.センターの利用は自費診療ですが,自分が服用している薬剤について相談をすることもできます.

                       図1の図(W400)                                              

 抗てんかん薬の影響を受けやすい形態異常には口唇口蓋裂,先天性心疾患,神経管閉鎖障害などがあります.これらの異常が起きる時期は,妊娠3カ月目までの初期に集中しています.一方で,知能などに対する影響には自閉症スペクトラム障害や知能指数の低下などがあります.これらの異常については,妊娠初期から後期にわたって抗てんかん薬の影響が続きます.

──妊娠前から適切に対応することが重要ですね.

渡辺 はい.服薬に伴うリスクには「胎児に対してより影響の少ない薬剤への切り替え」と「葉酸の補充」が有効ですが,いずれも妊娠前から始める必要があります.葉酸はホウレン草や干しシイタケなどに含まれる栄養素ですが,食事だけでは不足しがちなのでサプリメントの活用を推奨しています.米国では昨年1月に「医師は妊娠を計画している女性だけでなく,妊娠可能なすべての女性に対して葉酸のサプリメントを毎日摂取するよう助言するべき」との勧告も出ています.当院でも「少なくとも高校生になったら自分で病院を受診してほしい」と話しており,抗てんかん薬と妊娠の問題についてもこの時に説明をしています.

出産後の育児ストレスに注意を
結婚相手と家族への説明も大切

──妊娠や出産がてんかん発作そのものに対して影響する心配はありませんか.

渡辺 妊娠期間中もきちんと服薬をしていれば,特に出産の前後に発作のリスクがひどく高まることはありません.分娩中の発作リスクも低く,通常は自然分娩で問題ありません.一方で,出産後は育児に伴うストレスや寝不足などの影響で発作が起きやすくなることもあります.その場合は家族の協力が不可欠です.

──結婚の場合はパートナーの理解も必要ですね.

渡辺 当院では「パートナーがいる場合は一緒に来院して下さい」と案内しています.パートナーも医師からきちんと説明を受けた方がより正しい知識を得られますし,「海外旅行に行っても良いか」,「発作が起きたらどうすればよいか」などの疑問にもお答えできます.最近はインターネットで疾患の情報を調べる人も多いのですが,ネットに氾濫する情報はまさに玉石混交,中には誤解や偏見もあります.当院でも「ネットの情報を鵜呑みにしないで下さい」と話しています.

思春期特有の課題は「親からの自立」
中高生になったら本人に説明を

──思春期における注意点は何でしょうか.

渡辺
 中高生だとまだ小児科に通院している患者も多いのですが,将来の妊娠の問題などを考えると,成人科に移行してほしい時期です.また日本では母親が患者の身の回りの世話をしてしまい,患者本人の治療に対する当事者意識が希薄な事例がみられます.その背景には「自分のせいで子供が病気になってしまった」という親側の罪悪感があるのですが(もちろん病気は親のせいではありません),結果として患者は自分の病気を詳しく学ぶ機会がないまま成人になってしまいます.親から自立し,自身の疾患として治療を受けるという意識を持つためにも,思春期の患者の対応は重要です.

──患者さんが早期から自身の疾患について学ぶためには,適切なタイミングでの情報提供が重要ですね.

渡辺 自分の病気を知ることは,アドヒアランス(服薬遵守性)の点でも問題です.なぜこの薬を飲む必要があるのか.飲まないとどうなるのか.てんかんは患者が発作を自覚するのが難しく,特に小児発症てんかんでは周囲がきちんと説明することが重要です.さらに女性の場合はなるべく早く妊娠に影響の少ない薬剤へ切り替える必要があります.なぜなら,発作がコントロールできている患者の抗てんかん薬を変更するのは容易でないからです.ゆっくり時間をかけて調整するため,なるべく早期から開始する必要があります.

脆弱性骨折と認知症にも要注意
女性で高齢の患者は骨折予備軍

──思春期から妊娠・出産可能年齢の次のステージである中高年期における注意点は何でしょうか.

渡辺 中高年期を迎えると骨粗鬆症にも注意が必要です.発作による転倒リスクに加えて,抗てんかん薬の中には骨密度を減少させる副作用を有する薬剤もあります.特に女性は更年期を境に骨密度が大きく低下するため「女性・てんかん・高齢」は骨折予備軍と考えるべきでしょう.さらに認知症とてんかんの合併率も高いことがわかっています.もともと高齢発症てんかんの場合,認知症との区別が難しいという特徴がありますが,それに加えて両者の合併も多いのです.

美容医療で患者が忌避される現状
今後は学会単位での連携も重要に

──現在気がかりな課題はありますか.

渡辺 現在私たちが懸念している問題のひとつに「美容脱毛」があります.実はエステサロンや美容クリニックなどで,てんかん患者が美容脱毛を断られる事例があると聞きます.中には主治医の診断書を持参しても断られるケースもあります.施術に伴う痛みやストレスによる発作を懸念しているのでしょうが,それは歯科での治療などでも同じはずです.強い光の点滅に反応する「光過敏性発作」という発作もありますが,すべての患者が該当するわけでもありません.

──最近は美容脱毛を受ける人も増えています.病気を理由に拒否されるのは,患者さんには辛いですね.

渡辺 抗てんかん薬の中には「体毛が濃くなる」という副作用を有する薬剤もあります.そういう人こそ美容脱毛が必要なのに,てんかんを理由に断られてしまう.同世代の女性が普通に利用している美容脱毛を,てんかんを理由に忌避されている患者がいるという現状について関係者の皆様にも考えて頂ければと思います.

──そのためには他の診療科との連携も重要ですね.

渡辺 てんかんの治療では,発作の治療はもとより,患者さんの生活が制限されないことも大切です.そのためには異なる診療科および関連学会との連携が非常に重要になります.妊娠と出産に関する問題については,今年5月に開催された日本産婦人科学会学術講演会にて同学会と日本てんかん学会との合同企画が実現しました.今後は「脆弱性骨折」について整形外科関連の学会と,「美容脱毛」について皮膚科・美容医療関連の学会との連携にも取り組んでいきたいと思います.

文   献
1 ) The North American Antiepileptic Drug Pregnancy Registry MATERIAL WINTER 2016 issue.