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ISBN 978-4-89801--
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インタビュー 吉野 相英氏

Progress in Medicine Vol.37 No.6 2017-6
   
高齢化とともに増加する高齢発症てんかん
病診連携・多職種連携がQOL改善に貢献
吉野 相英
(防衛医科大学校医学教育部医学科教授)

 一般的には「子どもの病気」と思われているてんかんだが,実は高齢者になって初めててんかんを発症する「高齢発症てんかん」の患者は決して少なくない.海外での疫学研究によると,65歳以上の高齢者におけるてんかんの年間発病率は,乳幼児期よりも高くなることがわかっている.今回は,他の発症時期のてんかんとは異なる性質をもつ「高齢発症てんかん」の概要,診断と治療,課題などについて,防衛医科大学校医学教育部医学科の吉野相英教授より解説していただいた.

増加する高齢発症てんかん寿命延伸による高齢化の影響か

──高齢発症てんかんの現状について教えて下さい. 

吉野 海外報告によると,てんかんの発症率は高齢者ほど高いことがわかっています.アイスランドの疫学調査でも,70歳以上の高齢者におけるてんかん年間発病率は,10万人当たり約100人にも上ります(文献1).

 日本の高齢発症てんかんの疫学調査は実施されていませんが,おそらく海外と同様でしょう.高齢者の数を考えれば,患者は海外より多いかもしれません.

──患者数はこれからも増えますね. 

吉野 平均寿命の延伸によって高齢者人口が増えていますので,今後も患者の数は増えるでしょう.

 患者数が増えているもう1つの要因として高齢発症てんかんの存在が広く知られるようになったことも挙げられます.昨年の第50回日本てんかん学会総会でも高齢発症てんかんに関するシンポジウムが開催され,また各地で高齢発症てんかんに関するイベントや講演会が実施されています.こうした変化により,以前より「気づき」が進むようになったのかもしれません.

──高齢発症てんかんの特徴について教えて下さい. 

吉野 高齢発症てんかんの特徴に,「非けいれん発作(複雑部分発作)が多い」,「発作頻度が少ない」,「発作時間が短い」,「発作後のもうろう状態が遷延化する」などが挙げられます.また,よく認められる発作エピソードに,動作が停止して一点を見つめたまま反応が消失する「無動凝視」,口をモグモグさせるなど同じ動作を繰り返す「自動症」があります.これらの症状の有無もてんかんの診断において参考になります(表1).

                                               表1(W300)

診断時には睡眠時脳波を測定脳波測定できない場合は専門医へ

───高齢発症てんかんの診断について教えて下さい. 

吉野 てんかん診断の基本は「脳波検査」です.覚醒時脳波では同定は難しいため,脳波検査には睡眠時脳波を用います.実際の検査では,睡眠薬を用いて患者を眠らせた上で,脳波を測定します.検査自体は約30分と短いことから,外来でも可能です.判定率は6割程度で,2回繰り返せば8割以上を同定できます.

───よく「若手医師の脳波ばなれ」を耳にします. 

吉野 脳波検査は非侵襲的で優れた検査方法ですが,準備に時間がかかる上,判読には熟練が求められます.また近年では,より高性能の画像診断装置の普及もあって,残念ながら若い医師や臨床検査技師を中心に脳波検査が敬遠される傾向にあります.

 しかし,てんかん診断のスタンダードはいまなお「脳波検査」です.特に,精神科医や神経内科医を志すのであれば,脳波にも関心をもってほしいと思います.

──脳波計などの機器を置いていないプライマリケア医の場合はどう対応すればよいでしょうか. 

吉野 日本てんかん学会認定のてんかん専門医に紹介下さい.同学会サイトに,各地の認定専門医の所在地がリスト化されています.発作性エピソードがあり,てんかんの鑑別診断が必要な場合は,リストに掲載されている近隣の専門医にご連絡していただきたいと思います.

──高齢発症てんかんの診断時の注意点は何ですか.

吉野 診断時に注意が必要な疾患に,失神,脳血管障害(虚血,健忘),代謝障害(低血糖症,低ナトリウム血症),睡眠時随伴症(睡眠時無呼吸症候群など),アルコール離脱,認知症などが挙げられます.これらの疾患に伴う症状は,てんかん発作と似ています.なかでも「失神」は非常に多く,高齢者の3人に1人は経験していると考えられています.低血糖症や低ナトリウム血症による意識障害も,よくみられる症状です.

 あまり知られていませんが,「飲酒の問題」を抱える高齢者も少なくありません.アルコール依存症の離脱時の発作もてんかんと類似しており,注意が必要です.

高齢発症てんかんの薬物治療は少量から開始することがポイント

──高齢発症てんかんの治療について教えて下さい. 

吉野 高齢発症てんかんの特徴に「抗てんかん薬に対する治療反応性が良好」という点が挙げられます.添付文書における至適用量より少ない用量で発作が止まることもよくありますし,逆に最初から成人と同じ用量で開始すると,副作用の発現率が高くなります.高齢者の場合は,成人用量の半分ないし4分の1から服用を開始して,そこで発作が止まればそのまま維持量として継続するのもポイントだと考えています.

 高齢発症てんかんの5割弱は複雑部分発作のみであり,診断さえつけば治療自体はそれほど困難ではありません.もっとも,プライマリケアの現場で,「2剤以上の抗てんかん薬を用いても発作を抑制できない場合」には,てんかん専門医に紹介して下さい.

他疾患との合併例や多剤併用例に注意多職種連携で患者の服薬管理を

──高齢発症てんかん特有の問題はありますか. 

吉野 高齢患者は生活習慣病など複数の疾患を合併していることが多く,多剤併用状態にあることもしばしばです.そのため,なるべく薬物相互作用の少ない抗てんかん薬を選ぶ必要があります.その点で,抗てんかん薬の中でも新しい「新規抗てんかん薬」は,従来薬より薬物相互作用が少ないと考えられています.

 さらに抗てんかん薬の中には,認知機能に影響して精神・神経症状を引き起こす例もあります.認知症自体の症状と鑑別し,時には薬剤を変更する必要もあります.

──認知症との合併例について教えて下さい. 

吉野 高齢発症てんかんと認知症との合併例には注意が必要です.その頻度については,たとえばアルツハイマー病とてんかんの合併頻度は1割前後であることが,コホート研究などで報告されています(文献2).

 合併の時期については,近年の研究で「認知症以前の状態(軽度認知障害)から認知症の発症に至るまでの期間」の合併例が7 を占めることがわかりました(文献3).認知症の鑑別診断では,同時に高齢発症てんかんに特徴的なエピソードなどを本人・家族の問診で確認するなど,合併の有無を考慮してほしいと思います.

──認知症合併についてほかにも問題点はありますか.  

吉野 認知機能が低下すると,同時にアドヒアランス(服薬遵守性)も低下します.発作が抑制できないときは「きちんと服薬できていない」可能性も考慮して下さい.効果不十分だからと薬を増量しても,アドヒアランスが低ければ発作症状は改善しません.

 アドヒアランスの確保には,多職種による連携が重要となります.薬剤師,訪問看護師,ケアマネジャーなどの力を借りて,高齢者の日々の服薬管理を行うことで,発作を確実に抑える.このような多職種連携はてんかんだけでなく,いまや高齢者医療の現場で,QOLの改善にますます重要なものになってきています.

文   献
1 ) Olafsson E, Ludvigsson P, Gudmundsson G, et al:Incidence of unprovoked seizures and epilepsy in Iceland and assessment of the epilepsy syndrome classification:a prospective study. Lancet Neurol  2005; 4:627─634.
2 ) Scarmeas N, Honig LS, Choi H, et al:Seizures in Alzheimer disease:who, when, and how common? Arch Neurol  2009;66:992─997.
3 ) Vossel KA, Beagle AJ, Rabinovici GD, et al:Seizures and epileptiform activity in the early stages of Alzheimer disease. JAMA Neurol  2013;70:1158─1166.