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ISBN 978-4-89801--
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インタビュー 中川 栄二 氏

Progress in Medicine Vol.38 No.10 2018-10
中川先生写真の図(200)
てんかんと神経発達症の併存例には

適切な診断に基づく包括的治療が必要        

 神経発達症のある小児は,神経発達症のない小児と比べててんかんを発症する割合が高いことが知られている.両者の併存例について,神経発達症とてんかんの診断・治療に詳しい国立精神・神経医療研究センター病院小児神経科の中川栄二てんかんセンター長-写真-にお話をうかがった.

様々な症状が併存する神経発達症
家庭が疲弊する前に早期介入を

──神経発達症の現状について教えて下さい.

中川 神経発達症は,さまざまな先天的要因によって乳児期から幼児期にかけてその特性が現れ始める脳機能発達の遅れや偏りです.神経発達症の分類の変遷は,ICD─10とDSM─Ⅳで自閉性障害(自閉症)やアスペルガー症候群を含む広汎性発達障害(PDD)が継承され,脳の機能発達の障害と位置付けられました.2013年のDSM─5で,障害間の連続性の概念や併存の可能性が加味され,PDDは自閉スペクトラム症(ASD)と用語変更され,注意欠如多動症(ADHD)や特異的発達障害としての限局性学習症(SLD)とともに神経発達症の下位分類となりました.これらの症状は,しばしば併存して認められることがあります.神経発達症児では定型発達児と比べて睡眠障害の合併が多く,定型発達児の睡眠障害は26~32%ですが,ASDでは53~78%,ADHDでは25~50%に睡眠障害の報告があります.小児で明らかに睡眠時間が短く睡眠障害がある時は常同行動,不安,注意力低下,攻撃性が増強します.神経発達症を診察する場合には,睡眠の問題を適切に評価し対応,治療を行うことが子どもと家族の生活の質の向上につながります.                                                                     

──年齢的にはどの世代に多いのでしょうか?

中川 神経発達症の有病率はASDが約1%,ADHDは約2~3%前後でSLDは約2~3%です.男女比は約2~3:1で,男性に多く,発達の異常に気づかれるのは乳幼児期です.これはてんかんの治療にも当てはまりますが,神経発達症は完成された成人の脳になってしまう前にできるだけ早く正確な診断に基づいた治療・支援が望まれます.

 一方,神経発達症の理解は一般社会や医療現場でもまだ十分とはいえません.神経発達症への気づきが遅れたり,適切な支援や治療を受けられずにいると,周囲の無理解による叱咤や非難,あるいは失敗体験が積み重なり,コミュニケーション能力の著しい低下,不登校など,新たな二次障害が起こってきます.そうなると家族生活自体が破綻する可能性も出てくるのです.

てんかんとの併存の状況
学会でも疾患啓発に注力

──てんかんと神経発達症の併存について教えて下さい.

中川 神経発達症のある小児におけるてんかんの併存率は,神経発達症のない小児と比べて高いことがわかっています.神経発達症ではてんかんの併存率が高く,ASDでは5~38%にてんかんが併存しますが,知的障害を伴う場合は,知的障害がない例の約3倍でてんかんの併存が報告されています.ASDでのてんかん発作の発症時期は,1~5歳の幼児期と11~18歳の思春期に二峰性に認められるのが特徴です.全般発作や焦点(部分)発作のあらゆるタイプのてんかん発作を認めます.ADHDでは実行機能や報酬系に関する前頭葉領域の機能不全が病態の一つとして考えられています.ADHDでは12~17%にてんかんの併存が報告されています.てんかんの小児では,ASD,ADHDの神経発達症の併存率が非てんかん群よりも高く,てんかん児の約20%でASD,約30%でADHDの併存が報告されています.そのうち3分の2がてんかん発症後に新たに神経発達症と診断されています.また抑うつや不安,強迫性障害,気分障害などの精神障害の合併も若年発症であるほど高く,特に,前頭葉てんかんと側頭葉てんかんでは,発達や情緒に関連する部位を巻き込むため認知機能異常や行動異常が高頻度で認められます.

──なぜてんかんと併存しやすいのでしょうか?

中川 神経発達症とてんかんは「大脳神経の機能調節障害」という点でみれば,共通の基盤をもつ神経学的疾患です(図1).たとえば,思考や制御を司る前頭葉で脳神経の過剰な興奮が起きると,集中力の低下,注意力の欠如などが出現し始めます.そして,その状態が続くと,ある時点で「前頭葉てんかん」の発症に至ることがあります.神経学的には,てんかんと発達障害の併存率が高いのは,むしろ当然といえます.神経発達症とてんかん併存の正確な診断には脳波検査による評価が重要であり,早期介入によって薬物治療の効果も高まります.

                                         中川先生の図1(W350)

 神経発達症に対する治療については,まだ専門とする医師が少なく,適切な診断・治療がなされていないのが実情です.これに対して,日本小児神経学会,日本てんかん学会などは,講演会などを通じて神経発達症の診断・治療の正しい知識の普及に努めています.

睡眠障害の適切な治療によって
神経発達症の症状が改善した症例

──神経発達症について,実際の治療例を教えて下さい.

中川
 学校での問題行動から,当院に紹介された小児患者を診療しました.彼は「すぐに激昂する」「友だちに暴力を振るう」などの問題行動のほかに,睡眠障害も併発していました.そこで当院で睡眠時脳波を測定したところ,本来は大脳が休息するノンレム睡眠期に異常脳波が頻回に出現していることがわかりました.こんな状態では,いくら寝ても脳はまったく休まりません.昼間の問題行動はそのために起きていたのです.気分安定剤・抗てんかん薬としても使用されているバルプロ酸ナトリウムで治療を始めたところ,まず睡眠障害が改善し,睡眠の質が良くなることで昼間の問題行動も改善しました.

──てんかん併存例でも対応は同じでしょうか?

中川 てんかんは,基本的には大脳ニューロンの過剰な発射に由来する反復性の発作を主徴とし,それに多種多様な臨床症状および検査所見を伴う神経学的疾患です.そのため,薬物治療によって大脳の異常な神経興奮を改善できれば,てんかんや神経発達症の症状が改善する可能性があります(図2).ただし,小児の神経発達症に対する抗精神病薬などの漫然とした長期投与は慎むべきです.心血管系・代謝系の副作用などにより成長期の脳と体の発達に影響を及ぼす危険性があります.小児の神経発達症に対する適切な薬物治療のエビデンスの構築と,診療ガイドラインの作成が望まれます.

                                         中川先生の図2(W380)

家族や周囲の疾患理解が重要
正確な早期診断に必要な脳波検査

──神経発達症の治療で注意すべき点は?

中川 早期診断・早期治療の必要性は先ほどお話しましたが,神経発達症の治療において薬物治療はあくまで補助手段であり,療育・教育的支援を中心とした包括的治療が求められます.コミュニケーションスキルや社会的スキル,感情の理解やコントロールを身につける訓練を行いますが,子どもの個性を理解した上で,得意分野を活かし,苦手な部分を工夫するといったアプローチが必要です.さらに大切なのが,神経発達症をもつ親のために,子どもの育て方をトレーニングすること.親が適切に接することで子どもが感じている困難は軽減します.神経発達症の治療は患者と家族が一緒になって行うものであることを,治療スタート時に家族によく理解してもらうことがその後の子どもの発達にとても良い影響を及ぼします.

 実際の診療でも,神経発達症のお子さんの睡眠時脳波検査で認められる異常脳波所見を見ていただき,大脳神経の機能調節障害が神経発達症の原因の一つなっていることを説明すると,ほとんどの保護者は納得して,治療に前向きになってくれます.

─最後に現場の臨床医に向けてメッセージを.

中川 現在,実地臨床において神経発達症を専門とする医師は少なく,ましてやてんかんと神経発達症を同時に診ることのできる専門医はかなり限られます.どちらも神経の機能調節障害が基盤にある疾患であるため,適切な病態評価をするためには脳波検査が有用な検査の一つになります.難治な神経発達症やてんかんの併存が認められる場合は,まず脳波検査のできる専門医へ紹介してください(文献1).一次医療機関と専門医療機関との双方向の医療連携の構築が望まれます.


文   献
1 )一般社団法人日本小児神経学会:発達障害診療医師名簿.(https://www.childneuro.jp/modules/general/
index.php?content_id=100)(2018年8月28日閲覧)