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ISBN 978-4-89801--
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老年科医のひとりごと 第16回

告白

井口 昭久
愛知淑徳大学健康医療科学部教授

 塩崎さんは74歳の女性である.診察室のドアをそっと開けて入って来て,私の顔を見て思わず引き返そうとした.私の顔を見て一瞬たじろいだのだった.普通の私の顔は神経質そうに見えて怖いらしい.それでも彼女は勇気を出していすに座った.お尻の半分はいすからはみ出ていていつでも逃げ出せるように半身に構えていた.
 「変わりはない?」と聞きながら私はカルテを見て思い出す.そうだこの人は毎回同じことを言って同じ約束をして帰っていく人だった.
 この前もお薬が足りなかったと言っていた.
 私は顔が緩んできた.あーなんだ,あんたかよ.
 「薬を飲まなかったんです」,「どうして?」,「どういう訳か薬を失くしてしまって,数が足りなかったんです」.また前回と同じだ.
 塩崎さんは糖尿病の患者である.HbA1cが高いので毎回「間食をやめるように,毎日7,000歩は歩くように」と私に言われていた.
 今日もいつものように約束は守れなかったらしい.だから入ってくるなり私の不愛想な顔を見て帰りたくなったのだった.
 彼女が診察室に入る前から結果は自分でわかっていた.だってあんなに暴飲暴食していたんだもの.案の定,HbA1cは上がっていたし,体重も増えていた.
 私に叱られるのが怖いので「薬を紛失くした」と嘘をついてしまうのだ.
 「この前も同じこと言ってたじゃない」と私が穏やかな,優しい顔を作って言うと,彼女は開き直っ告白(W250)トリミング済1た.いすにお尻をしっかりと乗せ直して,「自分への御褒美がなければ生きててもしょうがないでしょ!センセイ!」
 まーしょうがねーか,アト生きても15年か,と,私は思った.そして「それもそうだね」と私は相づちを打った.
 しかしこのままではいけない.少しおどかしておこう.「インスリンにするしかないな」と真面目な顔をすると「センセ!もう1回待ってください.今度こそは頑張って間食はやめてきます」とまたハカナイ約束をした.
 そして「お薬はナクサナイようにね」というと「大丈夫です.お薬は一杯あります」と白状して出て行った.

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